第一章【旅立ち】 第3話「ルイの提案」
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「【あの日】って何なんだ?一体……何が起きたって言うんだ……?」
ルイは再びケレンに尋ねた。
「……。」
ケレンは押し黙っている。それほど言いづらいのだろうか?【あの日】とやらに、一体何があったというのだろうか。
「く……。」
ケレンは已然押し黙ったままだ。顔中に汗をかき、顔は青ざめているように見える。これ以上ケレンに無理をさせるのも酷だな、とルイは思った。
「……話したくないんなら、まだ話さなくてもいいよ。でも、いつかは話して。僕だって父さんや母さんのこと、もっと知りたい。だって、何も知らないんだから……。」
ケレンは驚きと安堵、そして罪悪感の入り混じった表情でルイを見ると、
「……!……ああ。すまない……本当にすまない……。」
そう言って、ルイの提案をありがたく受諾することにした。
(両親の話は、また後で聞けばいい。残念だったけど……あせる必要はないよな。)
ルイはそう自分に言い聞かせ、ケレンにこれからの事を訪ねた。
「で、じいちゃん。僕にレアを見せたってことは、何かあるんでしょ。僕は何をすればいいの?」
ルイはチラッとレアのほうを見る。レアは、地面からひょっこりと出ている草の芽を、ジッと見つめていた。何かをジッと見つめるのがレアの癖なのだろうか。ルイにはその光景が、とても微笑ましいものに見えた。
「……うむ。ルイも十六歳になったことだ。今日から、レアの世話係をやってもらおうと思ってな。」
ケレンは表情を直すと、そう言った。
「えっ!?僕が!?ど……どうして!?」
あまりに急な事態に驚いたルイは、動揺を隠しきれず、ケレンに尋ねた。
「レアは、あくまでお前達の両親が連れてきて、お前達の両親が育てていたんだ。息子であるお前が引き継ぐのは当然だろう?」
さも当然だというように、ケレンは言った。
アルナトの世話ができる。アルナトと友達になれる。ルイにとっては願ってもみないことだった。アルナトはルイにとって、ずっと憧れの的だったのだ。嬉しいのは当然である。
しかし、突然の事態は、ルイに喜びよりも不安を与えた。
「でも……僕、自信ないよ……レアとどう接していいのかも分からないし……。」
ルイは、自分の中に渦巻く不安をケレンにぶつけた。アルナトの世話。やりたいとは思うが、果たして自分に出来るだろうか?もし自分が世話をする事で、レアを危険にさらしてしまうのならば、やらない方が良いのではないか?ルイは、そう思っていたのだ。
しかしケレンは、ルイの言葉を聞き、頬を歪ませると、
「大丈夫だ。ルイならば、レアを世話することができるさ。」
と言った。
その言葉に、ルイは少々不満を感じた。根拠もなく、どうしてそう言い切れるのか。
「なんで証拠もないのにそう言い切れるのさ。」
ルイは思ったことを口にした。なぜそう思えるのかを、ケレンから直接聞きたかったのだ。
「……レアが笑顔を見せたのは、14年ぶりだからだ。」
「……えっ?」
ルイにはケレンの言葉の意味が良く分からなかった。
笑ったのが14年ぶり?14年前って言ったら、「あの日」の事だ。
「……レアは、14年前、お前の両親が亡くなってからというもの、笑顔を失った。何を見ても、何を聞いても、全く笑おうとはしなかった。」
「……。」
ケレンの言葉が、ルイには俄かに信じ難かった。
「だから、ワシは驚きと希望を持った。お前は心に、真の優しさを持っている。お前ならば、レアを幸せにしてやれるのではないかとな。だから……頼めるか?」
ルイは考える。本当に良いのか。僕がレアの世話をしたら、逆にレアを不幸にしてしまうんじゃないか?
ルイは再びレアの方を見る。
レアは僕の視線に気付くと、ニコッと微笑んだ。
そうだ。
失くしちゃいけない。
この笑顔を、失くしちゃいけないんだ。
「……分かったよ、じいちゃん。僕、レアの世話係を引き受ける。」
ルイは覚悟を決め、そう言った。
「そうか。……レアを、頼んだぞ。」
ケレンはルイに微笑むみながら、そう言った。
「ただし……」
と、ケレンが付け加えて何か言おうとしている。
「村の子供達には見つかるな。絶対だ。特にナオには注意するんだ。あの子は変な所で鋭いからな。それとレアは普段、村の図書館の隠し扉から通じる地下室にいる。世話をするときは、そこに行くんだ。」
いつもアルナトの事を調べに行っていた図書館に、まさか本物のアルナトがいたとは。その事実に、ルイはちょっとした皮肉を感じずにはいられなかった。
「うん、分かった。」
事が決まるにつれ、ルイの「嬉しい」という気持ちがあふれ出してくる。
今までは憧れの存在でしかなかったアルナト。
出会えればいいと思っていたアルナト。
まさか自分が、その世話をすることになるとは。
ルイはレアに走り寄り、レアに言った。
「これからよろしくね、レア。」
するとレアはニコッと微笑んで
「……よろしく。」
と一言。
これから、僕の新しい生活が始まる。レアと一緒に過ごす、楽しい日々が。
ルイはこれからのことに思いを馳せ、ひとり頬を緩ませるのだった。
アルナトの世話――
「んじゃ、行きますか・・・・」
地下室――
「・・・開けてみよう。」
食欲――
「じーーーーーーーっ・・・・・」
孤独――
「・・・また、来て・・・?」
そして、新たな生活の幕開け
次回 第四話 「レアのお世話」