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第一章【旅立ち】  第2話「アルナトの少女」

大分遅くなってしまいましたが、第二話です!


「……彼女の名前は、【レア】。『アルナト』の少女だ……。」


「え……。」


 祖父の突然の告白に、ルイは驚きを隠せなかった。

 目の前にいる少女が、自分が長い間あこがれ続けていたアルナトだと、ケレンは確かにそう言った。

 彼の言葉は理解したつもりだ。しかし、すぐに納得しろというのもルイには無理な話であった。


「そ……そんな冗談……。」


 ルイは自分の動揺を隠すように、ケレンに向かって言った。

 しかし、ケレンの表情は動かない。口を真一文字に結び、ルイの目をじっと見据えている。 ルイは知っていた。ケレンは真面目になると、口を真一文字に結び、相手の目をじっと見る事を。そして、彼がこんな笑えない冗談など言わないことを。


「……。」


目の前にいる少女も、ルイの方をじっと見つめている。

 動じもせず、怯えもせず、ただ、静かに、そして観察するようにルイを見つめていた。

 そのルイを見つめる瞳は、左右で色が異なっていた。右は燃えるように赤いルビー色、左は氷のように青いサファイア色。

 アルナトの特徴の一つとして、左右の瞳での色の異なりが挙げられる。目の前にいるレアという少女と同じように、アルナトの瞳は左右で色が異なっているのだ。

 その事実が、彼女がアルナトだという証拠の裏付けにもなった。


「ほ……本当に……。」


ルイの頭が次第に整理されていく。が、それに伴って心臓の鼓動も速く、そして強くなっていた。


「き、君は……アルナト……なのか……?」


「……。」


事実を確認しようと少女に確認を取るも、返答はない。彼女は相変わらず、ルイの瞳をじっと見つめていた。ルイは恐る恐るといった感じで、少女の瞳を見つめ返す。


「――!」


刹那、彼女の瞳に、一種の感情を垣間見たような気がした。喜びではなく、憎しみでもない。それは――悲しみだった。


 彼女の瞳に映った、悲しみ……ルイの見間違いだったのかもしれない。しかし、ルイの心には、「この少女から目をそらしてはいけない」という強い気持ち、そして決意が芽生えていた。


(この子は・・・何かを僕に訴えたいんだ。目をそらしちゃいけない。見つめ返すんだ。そして、真実を見るんだ。)


ジッ―――


「――!?」


 突然自分の瞳を見つめ返してきたルイに、レアも少々困惑したようだ。表情が動いた。が、すぐにその表情も元通りになり、レアは再びルイの瞳を見つめだした。


 ルイとレアは、無言で見つめ合った。互いの瞳の中に隠された真実を模索しようと。が、それは一筋縄でいくものではない。多大な根気、そして慈愛が必要だった。


 ジッ―――


 彼女に表情は無い。傍から見れば、ただの無表情である。だが、彼女が一瞬見せたあの表情――あれが、見間違いでないとすれば。


(絶対に、何かある。この少女には、感情がある。)


 ルイは、さらにジッとレアの瞳を見つめた。

 だが、一向に何かを掴むことはできなかった。過ぎていくのは、時間のみ。だが――


 ニコッ――


「……!?え……?」


 途端、レアが笑みをこぼした。

 ルイの苦労を察しての事だろうか。ルイには全く分からなかった。


 そしてレアはルイの元へ、トコトコと小走りで向かい、目の前で止まった。


「私……レア……。」


 途切れ途切れにレアの口から発せられる言葉は、自己紹介だった。


「あ……!えっと……僕はルイ。よろしくね。」


 つられてルイも自己紹介を返す。


 ニコッ――


 レアは再び笑みをこぼした。なぜ突然笑顔になったのか、ルイには理解できなかった。だが、レアの笑顔はとても温かく、あらゆるものを癒す力があるとルイは思った。


「――レアも、ルイを認めたようだな。」


 ケレンが二人の間に割り込むように、口を挟む。

 良い機会だと思い、ルイは自分の疑問をぶつける事にした。


「じいちゃん。教えてくれ。なんで、この村にアルナトが?それに、どうして俺だけに見せて、他の子供には見せないんだ?」


 ルイのその疑問にもケレンは動じることなく、


「そう思うのも当たり前だな。順を追って話そう。」


 そう言うと、ルイに向かって話し始めた。


「先刻も言ったが、レアはアルナトだ。まずはどうしてアルナトがこの村にいるかだが――ルイ。お前には、お前の両親の話をしたことがなかったな?」


 ケレンはルイに尋ねた。いや、訪ねたというより、確認と言うべきかもしれない。


「うん。ないよ。僕が聞いても、じいちゃんは教えてくれなかった……。」


 若干の皮肉をこめて、ルイは言った。考えてみれば、この年になるまで両親の死の原因を知らされていなかったのだ。なんとも酷な話である。


「……お前の両親は、大の旅好きでな。ヒマを見つけては、あらゆる地方に旅をしておった。幼いお前やナオを私に預けてまで旅に出ていたほどだ。あいつら自信、お前とナオが大きくなったら一緒に旅に行きたいと言っておった……。」


「……。」


 ルイは、両親が旅好きだったという事実を全く知らなかった。だが、無理もない。彼の両親が亡くなったのは、まだ彼が本当に幼かった時の事である。

 しかし、ルイは自分の両親についての思い出の乏しさを改めて実感していた。


「そしてあれは十四年前……まだお前が三歳、ナオが二歳の時の事だ……お前の両親は、旅先から一人の少女を連れてこの村に戻ってきた。……それがレアだ。」


「……!!」


 レアは、ルイの両親が連れてきたものだとケレンは言った。

 その事実に、ルイは驚きを隠せなかった。


「どこで知り合ったのか、なぜ連れてきたのか、それらの事は聞かされていない。レアを連れて帰ってくるや否や、【この子をこの村で保護してくれ】などと言いおった。お前の両親を信用しておったフィエルの村は、言われるがままにレアを保護した。レアがアルナトだと知っても、村人は差別なくレアを大切にした。だが、アルナトは【アルナト狩り】に狙われている。だから、信用できる16歳以上の村人だけで保護することに決めたのだ。もしもうっかり口外してしまっては、大変なことになりかねないからな。」


 それは賢明な判断だとルイは思った。子供を信用していないわけではないが、万が一という事も有り得なくは無い。本当にレアの事を大切に思っての判断だろう。


「しかし、レアはなかなか笑顔を見せなかった。まるで自分の心の闇に打ち負けているように、感情というものが存在しなかったのだ。言葉も何も話してはくれない。……だが、お前の両親は、そんなレアと必死にコミュニケーションをとろうとした。その成果もあってか、段々ではあるが、レアにも感情らしきものが芽生え、多少だが口も開くようになった……あの日まではな……。」


 ケレンの話が、そこで止まる。


「あの日……??」


「……。」


 ルイが聞き返すが、ケレンは黙ったままだ。その日に、何があったというのだろうか。ルイは、妙な不安と胸騒ぎに襲われた……。






「アルナトがいるとの情報が入っただと!?」


黒いローブに黒いトップ、そして黒いズボン。全身黒ずくめのその男は、同じく黒ずくめの男に問い質した。


「はい、ゴルド様。【ミラ】のレーダーに反応がありました。恐らくは確実な情報だと。」


 口調から手下だろうと予想できる男は、淡々と答えた。


「そうか・・・場所はどこだ?」


「はい。【フィエルの村】です。」


 ゴルドと呼ばれる男の質問に、手下の男が答える。


「やっと見つけたぞ……アルナトの生き残り……クックック……待っていろ……。」


 不気味に笑うゴルドの手には、歪で巨大な―――大剣が握られていた。



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