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第一章【旅立ち】  第1話「出会い」

第一話です。

よろしかったら読んでみてください。

 “アルナト”―――それは、《永遠の生命いのち》を持つ人間。いや、正確には《不老の命》と言うべきかもしれない。

 

 この【エルメス大陸】だけに存在する、特殊な種族。一定年齢よりも年をとらず、寿命で死ぬことはない。

 年が止まる年齢は、各アルナトによって異なる。14歳で年が止まるアルナトもいれば、20歳で年が止まるアルナトもいる。

 ただし、不死身という訳ではない。心臓を突き刺されれば死ぬし、高い崖から落ちても死ぬ。つまりは“年をとらない人間”だというだけだ。外見も普通の人間と何ら変わりは無い。ただ、違いを一つだけ挙げるとすれば、アルナトは左右の瞳で色が異なっているという事。それだけだ。 

 

 また、どういった経緯や原因でアルナトが生まれるかは分かっていない。ただ、《永遠の生命》を持つが故にそれを妬む人間もいる。

 ある者は、《永遠の生命》を自分のものにすべく、アルナトを実験台に使い、ある者は、妬みから生じる殺意に従い、アルナト達を殺す。そういった人間達が行う、《アルナト狩り》の影響で、大陸に存在するアルナトは、ほぼ全滅。残ってるのは、大陸に数人ほどである――




パタンッ―――


「ふぅ・・・」


 フィエルの書庫――彼は、そこでアルナトについての書物を読んでいた。

 彼の名前は、“ルイ”。“フィエルの村”に住む、ごくごく普通の少年である。


 ルイの住む村、【フィエル】は、少し小さな村であった。しかし、周りは緑の自然に囲まれており、大変のどかで落ち着く村である。空気は澄み、空は汚れ一つ無い。家々に見られる風車が、のどかな風景をより一層引き立てている。

 村人達は皆明るく、友好的な人ばかりで、居心地も大変良い村である。ちなみにルイは、この村の子供達の中では最年長だ。


 ルイは、家で祖父と妹との3人で暮らしている。彼の両親は、ルイと彼の妹が小さい頃に死んでしまった。

 なぜ死んでしまったのか、ルイは知らない。祖父であるケレンが、理由を教えてくれないのだ。何度尋ねても、ケレンは教えてくれなかった。


 そしてルイは、アルナトに大変な興味を持っていた。《永遠の生命》を持つアルナト。彼らがどうやって生まれたのか、どんな生活をしているのか……そんなことばかりに気を取られ、毎日を生きていた。

 だがルイは、《永遠の生命》には興味がない。興味があるのは、むしろアルナトそのものなのである。


「アルナトか……いつか出会ってみたいなぁ……」


 毎日のようにそう呟く。その度に、妹に呆れられているのだが……


「あ!いた!おにいちゃ〜ん!そろそろパーティー始めるよ〜!」


 噂をすれば何とやら……ルイの妹、“ナオ”が呼んでいる。

 今日は、ルイの16歳の誕生日なのだ。

 ルイは、誕生日パーティーの準備をサボって、この書庫に来ていたのである。

 

 ナオがこちらにやってきて、いつもの呆れ顔をする。


「また、アルナトについて調べてたの〜?飽きないねぇ、お兄ちゃんも。」


 ナオは、いつものように呆れながら言う。しかし、ルイとしては迷惑な話である。人の興味に水をささないでもらいたいと、ルイは常々思っていた。


「僕が何に興味を持とうが、ナオには関係ないだろ。」


「ふ〜んだ!お兄ちゃんなんてアルナト病になっちゃえ!」


 ナオはそっぽを向きながら、そう言った。

 いつものやり取り。ルイとナオにとっては日課であった。


「それはいいとして、そろそろパーティーに向かおうか。」


「そうよ、早く行こう!」


 ルイの言葉に、ナオは“思い出した”とばかりに頷いた。

 ナオはルイの耳を引っ張り、パーティー会場へと足を進めた。






 「おじいちゃーん、お兄ちゃん連れてきたよ。」


 ナオは会場に着くなり、祖父の“ケレン”に向かってそう言った。


「ナオか。ルイも。入りなさい。パーティーの準備はできているぞ。」


 ケレンは微笑みながらそう言うと、彼らを会場に迎え入れた。だが、ルイはまだナオに引っ張られた耳が痛いようで、会場に入るまでの間、ずっと自分の耳を押さえていた。

 


ルイとナオの祖父であるケレンは、【フィエルの村】の村長である。その優しい人柄と、しっかりした仕事ぶりが影響したらしい。

 実際、ルイ達にも優しく接してくれるし、仕事もきちんと頑張っている。祖父が村長になった事は正解だとルイ達は思っていた。


「おう!ルイ!誕生日おめでとさん!」


「あら、ルイ!また図書館に行ってたの?」


「ルイ、誕生日おめでとう〜!」


ルイが会場に入ると、すでに村の皆が揃っていた。

 この村では、村人の誕生日を村全体で祝うという変わった習慣がある。この村が小さいからこそできる習慣だろう。

 ちなみに、ルイはこの習慣が好きであった。嬉しいことは皆で分かち合いたいと思っている……のは名目上で、何よりこの祭りじみた雰囲気が好きなのである。


「ありがとう、みんな」


 ルイはみんなにそう言うと、指定された自分の席に着く。

 

会場は、この村にしては中々の広さだった。屋外の会場ではあるが、あちこちにテーブルが設置され、その上には色とりどりの料理が並べられている。

 しばらくすると、会場の中心にあった台の上にケレンが立ち、挨拶を始めた。


「みんな。今日は孫の誕生日に来てくれて、本当にありがとう。今日は存分に楽しんでいってくれ。ルイ、お前もこっちに来て、一言言いなさい。」


ケレンはニコニコと笑いながら、ルイに手招きをしている。この誕生日会の主役は一応自分だということもあって、ルイは言われるがままに祖父のところへ向かった。

 台の上に立ち、みんなに向かって一言。


「今日は僕の誕生日会に来てくれて、本当にありがとう!僕は騒がしいのは好きだから、みんな、ガンガン騒いじゃって!」


途端、会場は「オオーッ!」という歓声に包まれる。ルイの好きな、この雰囲気。

 やっぱり誕生日はこうでなくちゃと、ルイは思っていた。

 村人達は酒を飲み、料理を食べ、思う存分騒いでいるという感じだった。誕生日会の主役であるはずのルイよりも派手に騒いでいる。結局皆、ルイの誕生日よりもこの騒ぎの方が目的なのかも知れない。そんな村人達を見て、ルイは微笑ましく思っていた。フィエルの村人は、こういった人達が大半を占めている。しかし、ルイはこんな村人達が大好きだった。


 パーティーの途中、羊飼いのジルがルイに話しかけてきた。 


「おう!ルイ!誕生日おめでとさん!今日は飲め!そして食え!」


 まるで自分の誕生日かのような言い草だ。


「ジルさん、今日は僕の誕生日会なんだけど・・・」


 ルイは思ったことを口にするも、ジルがそんなことを気にしている様子はない。


「しかしルイ、おめぇも16歳か。立派になったなもんだなぁ」


 ジルはそう言うと、ウオォォォンと声を上げて泣き始める。酒臭い息からも分かるが、相当酔っているのだろう。


「はいはい。ありがとな、ジルさん。」


 ルイはジルさんからそそくさと離れる。このままでは自分まで酒を飲まされそうで恐かった。


村の人々の大騒ぎのお陰で、ルイは自分の誕生日だという実感が湧かないでいた。自分の誕生日なのだから、村人達よりも楽しまなくてはいけない、というなんとも微妙な使命感が、ルイの中にはあった。


「僕ももっと楽しまなきゃな。」


 そう思い直し、ルイはみんなの輪の中に入って行った。


 数時間後――

 さすがに村人達は騒ぎすぎたようだ。先ほどまでの騒がしさは消えていた。ルイ自信も少々騒ぎすぎたらしく、少しの休憩を取るべく自分の席へと向かっていた。

 ルイが自分の席に座り、ぐったりと休んでいると、再びケレンが中央の台に立ち、話し始めた。


「……村のみんなも分かっていると思うが……今日はルイの16才の誕生日だ。彼女を……見せようと思う……。」


 シン―――


 途端、会場が静まり返る。先ほどまでの騒がしさは、微塵も残っていない。

 その静けさもあってか、ルイはあることに気付いた。


 村の子供達が、いない―――


 会場には、ナオの姿も無かった。ルイがきょろきょろと辺りを見回していると、祖父がルイに向かい、話し始めた。


「ルイ……いいか。お前は、我が家の主となる子だ。お前には、運命を受け入れてもらわなくてはならん……。」


 運命?一体、何のことだ?何を受け入れろって言うんだ……?それに、【彼女】って誰だ・・・?

 ルイには、ケレンの言葉がさっぱり分からなかった。


「じいちゃん……一体……何を……?」


「……。」


 ルイは祖父に問うが、祖父は言いとどまっている。答えづらい事なのだろうか?


「……【レア】……入ってきてくれ……」


やがて意を決したかのようにケレンがそう言うと、会場の入り口から、一人の人物が入ってきた。

 その少女はローブのようなものを全身に被っており、顔は確認できない。だが、体つき等から見て女性。いや、まだ少女である事が分かる。


「ルイ……。お前は今からあるものを目にする。すぐには信じられんかもしれん。……だが、これはまぎれもない真実。受け入れてくれ。」


 スッ――


 ローブを羽織った人物が、自分のローブに手を掛ける。そして―――


 ガバッ―――……


 ローブが中に舞い、ローブの中の人物が姿を現した。


 「――!!」


 ローブの中から現れたのは、一人の少女。

 ―――少女は、美しかった。透き通るように白い、髪と肌。瞳の色は、左右で違っていた。右はルビー色、左のサファイア色。まるで二つの宝石が輝き合うようであった。そして、繊細な顔立ち。華奢な体つき。誰もが心を奪われてしまうかのような美しさである。

 白く儚い彼女は、童話に出てくる妖精そのものだった。


 ルイが少女に目を奪われていると、ケレンは静かに、そして囁くように、口を開く。


「……彼女の名前は、“レア”……『アルナト』の少女だ……」



 僕はまだ知らなかった。彼女との出会いが、僕と彼女の運命を変えてしまうことを。

 そして、これから起こる悲劇と奇跡を――

◆用語解説◆



【エルメス大陸】……この物語の舞台。広大な広さを誇る大陸。大陸自体が巨大な一つの国家となっており、大小多くの都市や村が存在する。都市同士での争いも、別段珍しくは無い。

また、かつての人間達が残した遺産である“魔法”と“ロストテクノロジー”が存在する。

永遠の種族“アルナト”が唯一存在するとされる大陸。

未だ謎だらけの大陸国家である。



【フィエル】……主人公「ルイ」が住んでいる村。産業はあまり発達していない。田舎だが、非常にのどかで過ごしやすい。また、村の中央にある巨大図書館には、巨大な地下室があるらしい。伝記“運命の記憶”に出てくる神と同じ名を持つが、詳細は不明。


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