電子世界の透明人間
「君には極秘任務を与える」
司令室に呼び出された俺は、長官からそう言われた。
今まで大きな任務を与えられたことがなかった俺は、表情こそ崩さないが、内心大喜びだ。
これまでの実績が認められたってことだろ?
いったいどんな任務を任されるのか、緊張よりもワクワクで鼓動が早くなる。
「君に任せる任務だが、とある施設に潜入してもらいたい」
「とある施設……ですか?」
「そうだ。その施設は、現在我が国と戦争をしている隣国の軍事施設だ」
これは、思っていた以上に大きな任務だ。
さすがに気を引き締めて長官の話を聞く。
「君にはその軍事施設に潜入し、隣国が新しく作っているという新型兵器についての情報を持ち帰ってほしい。潜入手段は任せる。以上だ」
「了解致しました」
□ □ □
「──ということがあったんだけどさ、どうすればいいと思う?」
「え、ちょっと待って、それ極秘任務なんじゃないの!? 僕に相談してもいいの!?」
「いや、そうなんだけどさ。でも思っていた以上に大きな任務で悩んじゃって。もうどうしたらいいんだろうか」
自室に戻った俺は、所属組織の天才発明家が製作したAIに相談した。
このAIは音声での対応をしてくれるし、会話の内容によってはボケたりツッコミを入れたりもしてくれる。
これで月額数千円なんだから、組織も良い商売をしているように思える。
というか身内から金を取るなよ。
「そうなんだね。君は隣国にはどうやって潜入しようと思ってるの?」
「そう、まずはそもそも隣国への潜入方法なんだよな。何かいい方法はない?」
「そうだね、僕が提案できるのはこの3パターンかな」
AIが3通りの潜入方法を提案してくれる。
実現性は高そうだけど、道具の準備が大変なものが2通り。
もう1つは実現性は俺の身体能力にかかっている内容だった。
正直身体能力については自信がある。
けれど初めて任された重要な任務だ。
ただでさえ国の勝利が関わる内容だ、失敗は絶対に許されない。
胃が痛くなってくる。
「よし、じゃあ2つ目の潜入パターンにしよう。必要な道具のリストをピックアップして」
「了解! 任務に使うんだから、ちゃんと領収書を貰ってね!」
「あたぼーよ!」
□ □ □
AIにリストアップしてもらった道具を揃え、綿密な潜入ルートを相談し、いざ潜入当日。
予定していた潜入ルートを、俺は自分でも驚くほどに順調に進んでいった。
しかし何かあった時の為に、しっかりと気を引き締めておかないといけない。
地上から下水道へと降り、そこから運河に出て、その運河から用意した道具を駆使しながら隣国の下水道へと潜り込む。
そして、下水道から地上へと続く扉を開けた瞬間、
「よう、いらっしゃい潜入員さん」
扉の先にいた屈強な男に銃を突きつけられた。
隣国の兵士だった。
「な!?」
なんでこんな所に兵士が。
しかも、俺が来ることを分かっていたような口ぶり。
「逃げ道はないぜ」
目の前の兵士がそう言うと、後方からも銃を構える音がした。
囲まれていた。
「何で潜入がバレたんだって、思っただろ?」
目の前の兵士がニヤニヤしながら言う。
そりゃそうだ、そう思わないわけがない。
「教えてやるよ。お前は任務のことを誰に相談した?」
「誰に……誰にも……まさか、AIの情報が抜き取られていたのか!?」
「ははは、まぁでもそれだけじゃない。そもそもそのAIを作ったのが、うちの組織のスパイってことさ」
「な、何だって!?」
「お前らは情報を抜き取られているだけじゃなく、その使用料もうちの国の兵器製作に使われてるってことだ」
な! あの月額料金は組織が徴収していたわけじゃないのか!
「ふふふ、驚いただろう。それだけお前の国はザルってことだ」
何も言い返せなかった。
俺はその場に、膝から崩れ落ちる。
「まぁ、電子世界の透明人間に相談しちまった自分を悔やむんだな」
そして引き金が引か──
月額料金には理由がある。




