悪役令嬢は、聖女に恥をかかせたい
ショートコメディー初挑戦です!
悪役令嬢の誤算シリーズ1
「ベル」
「はい、お嬢様!」
王都へ向かう公爵家の馬車の中。
セレスティアは窓の外を眺めながら、ゆっくりと口を開いた。
「今夜の夜会ですが」
「はい」
「聖女ソフィアに、盛大な恥をかかせてやりなさい」
ベルの目がギラリと輝く。
「ついにですね! では、ドレスにワインを!」
「却下です」
「階段で転ばせる!」
「却下」
「ケーキを顔に!」
「論外です」
ベルは腕を組んだ。
「難しいですねぇ……」
セレスティアは小さくため息をつく。
「だからあなたは三流なのです。考えなさい。公爵家の品位を損なわず、誰にも罪を問われず、それでいて本人だけが恥をかく方法を」
ベルは数秒考え、
「……分かりません!」
「でしょうね」
セレスティアは優雅に扇子を開いた。
「今夜は舞踏会。聖女は平民育ちで、貴族の作法にはまだ不慣れ」
ベルが「あっ」と声を上げる。
「乾杯の順序、ダンスの誘い方、食器の使い方……。少しだけ”間違った作法”を教えて差し上げればよろしいのです。本人は善意を信じ、会場内で大失敗。これぞ最高の恥ですわ」
「さすがお嬢様です!」
その時だった。
「お役に立てそうですね!」
聞き慣れた声と共に、白い翼を揺らしながら、ルミエルがひょこっと現れた。
セレスティアは嫌そうに目を細める。
「何です、急に」
「『恥をかかせる』のですね! 任せてください、とびきりの『恥ずかしがり屋』にしてみせます!」
ふわり、と光が舞う。
そしてルミエルは嵐のようにどこかへ飛んでいった。
ベルが首を傾げる。
「……なんて言ってました?」
「聞かなかったことにします。嫌な予感しかしませんもの」
**
その夜。王宮の舞踏会。
ソフィアは緊張した面持ちで会場に立っていた。
「こ、こんな豪華な場所、まだ慣れません……」
すると。
「聖女様!」
一人の老貴族が歩み寄る。
「先日は孫を助けていただき、本当にありがとうございました!」
「え? あ、いえ……!」
老貴族が深々と頭を下げる。それを皮切りに、
「私からもお礼を!」
「うちの領地を救ってくださった!」
「あの時は本当に!」
次々と人が集まってくる。貴族だけではない。騎士も、侍女も、楽団員まで。
誰かから「今夜こそ聖女にお礼を言うべし」とでも背中を押されたかのように、聖女と関わりのあった人々が我先にと押し寄せた。
「聖女様!」
「ありがとうございます!」
気付けば、会場中の視線がソフィアへ集まっていた。
「ち、違います……! そんな、大したことは……!」
ソフィアは顔を真っ赤にしながら必死に手を振る。
「や、やめてくださいぃ……!」
その初々しい姿に、王妃までが目を細めて微笑む。
「うふふ。照れていらっしゃるのね。可愛らしいこと」
会場は、これ以上ない温かな拍手に包まれた。
**
少し離れた壁際。
セレスティアは静かに固まっていた。
「……」
ベルも固まっていた。
「……」
その横で、ルミエルだけが嬉しそうにパチパチと拍手する。
「大成功ですね!」
「……どこがですか」
「見てください、ものすごく恥ずかしそうですよ!」
確かに、ソフィアは限界まで顔を真っ赤にして縮こまっている。
「ほら!」
ルミエルは満面の笑みだった。
「これ以上ないくらい『恥をかいて』います!」
「そういう意味ではありません」
「違いましたか?」
「違います」
ルミエルは本気で不思議そうに首をかしげた。
「でも、皆さん喜んでくださってますよ? 大成功ですよね!」
「大失敗です」
「難しいですねぇ」
「あなたが難易度を跳ね上げているのです」
**
夜会を終え、帰りの馬車。
ルミエルは今日一日の出来事を思い返しながら、満足そうに笑っていた。
「皆さん、とても幸せそうでした! 私、お役に立てましたよね?」
セレスティアは答えない。代わりに、深いため息をついた。
「……ベル」
「はい」
「とんでもなく厄介なものを拾ってしまいましたわ」
ベルは苦笑する。
「ええ。とっても善い方なんですけどね……」
「そこが一番タチが悪いのです」
馬車は月明かりに照らされた夜道を静かに進んでいく。
その隣で、ルミエルは「次こそは!」と楽しそうに鼻歌をくちずさんでいた。
終
【登場人物】
セレスティア:公爵令嬢。完璧主義で、今日も華麗な計画を立てる。
ベル:セレスティア専属メイド。お嬢様を慕う、元気なメイド。
ルミエル:ひょんなことからセレスティアへの恩返しに奮闘する押しかけ天使。
ソフィア:庶民出身の聖女。
※ルミエルは、基本的に関係のない人たちには見えていません。




