藪をつついて出てきたのは
よろしくお願いします。
太陽と陰。
ハンクス家の双子は影でそう呼ばれている。せめて光と影だろう。なんだ陰って。そこまで暗くしてるつもりはない。
エドワード・ハンクスとリカルド・ハンクス。父に似た輝く金髪のエドワードと母に似た黒髪のリカルド。双子だけに顔立ちは似てるはず。だが二人の評価は太陽と陰。
明るく誰に対しても好意的に接するし騎士科でも学年トップのエドワードに対して、常にボサボサの頭で前髪と呼ぶであろう髪は鼻にかかるほど長く、顔の半分近くを隠し人と接するのを嫌う薬学科のリカルド。
学年一の人気者と根暗の弟として扱われるようになるのは必然だった。
「根暗の弟くんは今日もまた実験室ですかぁ~?」
授業が終わり薬学実験室に向かおうとすると、ニヤニヤとした同学年の男に声をかけられた。面倒な奴に捕まった……
男は何故かいつも根暗くん根暗くんとリカルドに絡んでくる。なんだコイツ、一周回って俺の事が気になって仕方ないのだろうか?
リカルドに絡んでくる理由はわかってる。こいつは騎士科所属。エドワードには何をしても勝てないのでリカルドで憂さを晴らしているのだ。
何故か騎士科の連中は文系科の生徒を下に見る傾向がある。力こそ全てと考える脳筋なのだろう。バッカじゃねぇのと言う他ない。騎士だけで世の中が回ってたら文官も医官もいらんわ。
総合試験の座学ではいつも騎士科は下位。例外はエドワード。あいつは座学の成績も高い方だ。まぁ、騎士科の中では、だが。
「おいおい、返事くらいしろよ根暗くん」
見てるだけで不快になるようなニヤケ面で寄ってくるな気持ち悪い。
「大体なんだよそのみっともない頭。太陽の騎士サマと名高いオニーサマとは双子とはいえ顔が違うんだろ?そんなに恥ずかしくて人様に見せられない顔してんのかぁ?」
どこにでも人の隠してるものを暴きたい奴ってのはいるもので。前髪で隠した顔は兄と似ても似つかない醜いものだとか、人には見せられないほどの傷があるだとか、ひどいものだと魔眼の持ち主で呪われてるだとか。なんだ魔眼って。おとぎ話か。
前髪を払うように手を出されて、反射的に後ろに下がる。別に見せられないものはない。普通に目があって傷があるわけでもない。だけどこんな奴に見せるのはゴメンだ。こっちはおとなしく静かに勉強したいだけなのになんで放っといてくれないんだ。
腹が立つ。
そう、腹が立つ。
エドワードが人気者なのは別にいい。あいつはそういう星の下にある。だからってなんで俺がここまで下げられなければいけない?そりゃあ顔を隠してるのは自分の判断だ。だからってここまでされる意味がわからない。家格だって同格のくせになんでこんな奴にここまで絡まれなければいけないんだ。
避けられたことで機嫌を悪くしたらしい男は騎士道とはと問いたくなるような面で胸ぐらを掴んできた。ふっざけんな、ボタン取れるだろうが。
「エドワードは気に食わねぇ。あぁ、確かに顔も性格もお綺麗すぎて気に食わねぇ。だけど実力は認めるしかない……だけどお前は何だ」
ギリっと掴んだ制服を捻られる。クソが。絞まるだろうが。
「オニーサマの影に隠れて、騎士の家系のくせに鍛えることもせず、見た目もみっともねぇ」
確かに我が家は代々騎士の家系だが。得意不得意はあるだろうが。騎士に向いてる人が多かっただけで代々全員が全員騎士になってるわけじゃねぇ。曽祖父様は医官だ馬鹿め。
「お前みたいな奴、見てるだけでムカつくんだよ!!」
ドンッと突き飛ばされて尻を付く。痛ぇ……痣になったらどうしてくれる。学園内で私闘御法度って知らねぇのかボケ。
あぁ、腹が立つ。
なんかもう、いいかな。
十分我慢したよな。
ごめん、エドワード。
ぎゃあぎゃあ喚く馬鹿の喉を右手で掴む。ひゅっと鳴った喉をそのままゆっくりと力を込めて絞めていく。
見開かれた目は俺の行動に理解が追いつかなかったらしい。何が起きたかわからない表情を浮かべている。
「ガタガタガタガタうるっせぇな」
はくはくと口を開く馬鹿の喉をゆるく絞めながらズイッと顔を近づける。あー。こんな奴を至近距離で見つめたくはないがそれすらもうどうでもいい。
「お望み通り見せたらいいんだろ?」
空いた片手で顔半分を覆う前髪を上げる。学園内をこんなに明るく見たのは初めてかもしれない。
「どうだ?二目と見れない醜い顔か?それとも人の目に晒せないほどの傷があるか?」
目を見開いて固まったまま徐々に赤くなる顔は、果たして酸欠だけが理由か否か。
───────
リカルドが教員室に呼び出された。理由は俺と同じクラスの生徒の首を絞め上げたから、らしい。
あーあ。せっかくリカルドがおとなしくしてたっていうのに藪を突くからそんなことになるんだ。寝た子を起こすなって言うじゃん。あいつはただ静かに勉強したいだけなのに。放っといてあげればよかっただけなのに。
エドワードの双子の弟リカルドは薬学科である。本人が医官だった曽祖父に憧れたから。両親に頼んで頼んで頼み込んで認められたのだ。
そうでなければ一族総出の全力でリカルドを騎士科に入れただろう。性格の矯正を望んで。
リカルドは戦闘能力だけで言えば自分より上だ。ただし騎士にするには性格が伴わないと一族で騎士の道を進んだ全員が口を揃えるだろう。じゃあ自分は騎士にふさわしいかって言われるとそこまで高潔ではないと思うが。でも表面上そう振る舞うことはできる。望まれるように振る舞うのは得意だ。だからって別に無理をしてるわけではないけど。
けどリカルドはそうじゃない。騎士道?なんだそれ、そんなもん大事にしたって生き残れないだろってタイプ。勝てばいい。生き残ればいい。武力を持つなら綺麗事なんか捨てろと言う。このままではさすがに騎士にするわけにはいかない。せめて少しは取り繕うことを覚えさせねば。
だから双子共に騎士科にとなった時にリカルドが薬学科がいいと言い出したときは驚いた。曽祖父様に憧れてたなんて今までそんなこと聞いたことがなかったから。
戦うよりも治す方がいいなんてあの戦闘狂が言うなんて。生まれてからずっと一緒の俺ですら気づかなかったのだから両親はさぞや驚いただろう。
両親はリカルドの薬学科入りに条件をつけた。
『おとなしくしていること』
暴れない。喧嘩しない。揉め事を起こさない。人を癒やすための勉強をするための学園で人を傷つけるようなことはしない。必ずそれを守るように。
だから絡まれやすい容姿を隠した。つもりだった。
エドワード自身も整った顔立ちとは言われるが、リカルドはその上をいく。黄金比と言われる程の完璧な顔面バランス。毛穴が存在しないような肌。毎日丁寧にくしゃくしゃにしているが実際は絹糸のようなサラサラの黒髪。同じ色のはずなのに何故かきらめいて見える瞳。お互い母似と称されるが、社交界の華と呼ばれた母により似ているのはリカルド。エドワードは母よりも母方の祖父に似ている。ちなみに母は祖父似。
つまり、顔面バランス最強で髪も肌もそこらの令嬢よりも綺麗で瞳の輝きも違って、母に似て中性的な美少年。男女ともに絡まれないわけがない。
……目立たないようにともっさりさせたのに、逆に目立ってしまったのは本人は実は気づいていないんだけど。
まぁ、エドワードからすればリカルドは自分より外見がいいけど口が悪い双子の弟でしかない。その外見や強さに嫉妬することもない。あいつ強いし見た目はいいけどそれを台無しにしてマイナスにするくらい性格と口が悪いからなぁとしか思っていない。
なんせ自分の半身だから。両親よりも誰よりも近い存在だから。あと自分の顔よりリカルドの顔のほうが好きだから。
「多分俺に迷惑かけたーとか思ってんだろうなー」
問題を起こすなと散々言われたのにも関わらずの暴力沙汰。しかも馬鹿男は顔を真っ赤にして吃ってしまって話にならなかったらしい。先生方は絞め上げすぎてのことだと判断したらしいけど、多分これは顔をしっかり見ちゃったんだろうなぁ……至近距離で他人が耐えられるわけがないんだよ。うちの長く仕えてる使用人でさえたまに撃ち落とされてるんだから。
「まったく、うちの弟は可愛いったらないねぇ」
馬鹿はあまりにもしつこくしすぎた。いい加減俺も見逃せないとは思ってたけど、リカルドの限界のほうが早かったのは見極めミスだ。気をつけなくちゃ。
リカルドの静かな生活。それはエドワードの望みでもある。あの子が曽祖父様のような立派な医官になって、できれば当主も継いでもらいたい。エドワードはリカルドが教えてくれるからなんとかなってるだけで、長男だからと当主として立てるほどの手腕はない。
ハンクス一族は騎士の多い家系だが、当主は騎士にならなかった者のほうが圧倒的に多いのだ。本家分家問わず、どれだけ学ぼうとも騎士の道に進んだものは何故か脳筋になる傾向が強い。それを抑えられるものが当主になるのが一番だ。だからエドワードはリカルドに家を継いでもらいたい。自分はリカルドの元で騎士として動くほうが都合がいいのだ。
「さぁて、可愛い弟を迎えに行ってきますか」
教員室に向かって歩き出し、両親になんて言い訳しようか考える。だけど結局こういうことはリカルドのほうが上手く考えられるから自分でやってもーらおっと丸投げしてしまうのだ。
お兄ちゃんは弟が大好きなので、弟に絡む馬鹿はそのうち心身ともにベコベコのボコボコにする予定でした。
弟はそんな兄が面倒くさいので嫌がらせもスルーしてたけど我慢しきれなくなりました。




