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令嬢たちのざまぁコレクション(一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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09 君の地味さには飽き飽きだと言われたから常時発動スキル聖女の加護が切れた瞬間に王子の人生が無理ゲー化し悪化するが私は最高待遇で他国へ再就職して幸せになった

聖女

 学園の卒業パーティーの真っ只中。王国の第二王子デニーズは婚約者である聖女エイリースに対し、高らかに無茶苦茶な婚約破棄を宣言した。


「エイリース!君のような陰気で何もしない名ばかり聖女との婚約は破棄する。僕は真実の愛に目覚めた人と結婚する」


 隣にはピンク色のふわふわした髪の男爵令嬢、ユリユヤがへばりついて上目遣いでエイリースを見た。気持ち悪い。


「ごめんなさいぃ、エイリース様ぁ。でもぉ、デニーズ様が君と一緒にいると毎日がキラキラ輝いて見えるって言うんですぅ。エイリース様と一緒にいる時は身体が重くて肩が凝るだけだったってえ」


 エイリースは無表情のまま小首を傾げた顔には悲壮感はなく「ああ、やっとですか」という諦めと安堵が浮かんでいた。


「本気で仰っていますか?何もしないと?」


「そうとも!君は聖女と呼ばれているが派手な魔法一つ使えないじゃないか!ユリユヤを見ろ、癒やしの微笑みは僕の心を安らげる。これこそが聖女の力だ」


 胸を張る彼は自分が類まれなる健康体であり、剣術の天才であり王者のカリスマを持っていると信じて疑わなかった。だからこそ、地味に後ろに控えているだけのエイリースが邪魔になったのだろうなと、小さくため息をついた。


「わかりました。ですが、一つだけ忠告させてください。聖女の力は能動的なものではなく受動的、常時発動型なのです。離れれば恩恵はゼロ秒で消失しますからね」


「はん!負け惜しみは見苦しいぞ!さっさと出ていけ!」


「承知いたしました。今までお世話になりました。これからはご自身で頑張ってくださいね」


 エイリースは優雅にカーテシーを披露するとくるりと背を向け、会場を後にした瞬間ブチッと何かが切れる音がデニーズにだけ聞こえた気がした。


 エイリースが会場の扉を出た直後である。


「うっ……!?」


 デニーズは突然、激しいめまいに襲われその場に膝をついた。


「キャッ!デニーズ様、どうされたのですかぁ?」


 ユリユヤが抱きつこうとする。


「さ、触るな!……なんだ、急に身体が……鉛のように重い……ぞ!」


 それだけではなく今まで感じたことのない激痛が腰、肩、頭、古傷のある膝に一気に押し寄せる。


 エイリースの聖女としての能力は全状態異常無効化と高速自動治癒。

 実はデニーズは生まれつき虚弱体質、魔力酔いしやすい体質でさらに、日頃の無茶な鍛錬で身体はボロボロ。それをエイリースが二十四時間三百六十五日、呼吸をするように回復させ続けていただけなのだ。


「デニーズ様、顔色が土色ですわ!?」


「う、うるさい!……ぐっ、腹が……猛烈に痛い……!」


 脂汗を流しながら立ち上がろうとしたが、足がもつれて派手に転倒した拍子に会場のシャンパンタワーに激突。


 ガシャーン!!


「ひっ!?」


 ガラスの破片が降り注ぐとデニーズはとっさに身を守ろうとしたが、身体が思うように動かない。破片が頬を切り裂く。今までなら、かすり傷など一瞬で塞がっていたのに血は止まらない。


「痛い!なんだこれは!?なぜ血が止まらないんだ!?」


 周囲の貴族たちがざわつき始める。


「おい、殿下のあの無様な姿はなんだ?」


「剣聖と謳われた身のこなしはどうした?」


 さらに最悪なことが続く。転んだ拍子にユリユヤのドレスの裾を踏んでしまったのだ。


「きゃあああん!」


 ユリユヤもまた無様に転倒。その際隠し持っていた魅了の香水という違法アイテムの瓶が割れ、強烈な異臭が会場に充満した。


「くさっ!?なんだこの腐った卵のような臭いは!」


「ユリユヤ嬢からだぞ!」


「まさか、殿下をたぶらかすために薬を使っていたのか!?」


「ち、ちがうんですぅ!」


 ユリユヤが泣き叫ぶが後の祭りであるとデニーズは薄れゆく意識の中で、エイリースの最後の言葉を思い出していた。


 恩恵はゼロ秒で消失します。


(まさか……健康も才能もすべてエイリースのおかげだったというのか?)


 会場を出たエイリースが王城の門を出た瞬間、かつてないほどの爽快感に包まれていた。


「……軽い。身体が、羽のように軽い!」


 これまでデニーズという虚弱・不注意・自滅体質の人間を常に回復させ続けていたため、魔力は常にカツカツの状態だった。しかし、パイプが切断された今、膨大な聖女の魔力は全て自分自身のためだけに使えるようになったのだ。


 彼女が歩くと枯れかけた街路樹が一斉に芽吹き、花を咲かせてすれ違った怪我をした子犬は撫でただけで完治して走り出す。

 自身の肌は真珠のように輝き出し、地味だと言われていた容姿は女神のごとき神々しさを帯び始めた。


「エイリース様ではありませんか?」


 声をかけてきたのは隣国の若き皇帝、クシナオート。今回のパーティーの主賓であり、切れ者として知られている。


「クシナオート陛下……お見苦しいところを。ただいま婚約破棄をされて追放されたところです」


「ほう。あの愚かな王子が、生きたエリクサーを手放したと?」


 以前からエイリースの特異な力と、デニーズの異常な回復速度のカラクリに気づいていた数少ない人物だった。


「どうだろう、エイリース嬢。帝国に来ないか?君の力があれば我が国の不治の病に苦しむ皇太后を救えるかもしれない。もちろん、報酬は王族待遇、労働条件は約束しよう」


 エイリースは目を丸くし、満面の笑みを浮かべた。デニーズには一度も見せたことのない心からの笑顔。


「喜んで!ぜひ、再就職させてくださいませ!」


 数年後、隣国帝国では皇太后の病を完治させ、国中に豊穣をもたらした大聖女エイリースの結婚パレードが華々しく行われていた。相手はもちろん、皇帝クシナオートである。世界で最も愛され、国民から敬われる女性となっていた。


 一方、ニュースをルークルロッド王国の隔離病棟のベッドで聞く男デニーズ。あの日以来、起き上がることすらままならない身体になっていた。

 筋肉痛、偏頭痛、内臓疾患、古傷の痛み全てが一度に襲いかかり、一日の大半を激痛に耐えることに費やしていた。


「エイリース……エイリースッ……戻ってきてくれ……!」


 うわ言のように繰り返すが誰も相手にしない。ユリユヤは違法薬物の所持で投獄され、デニーズの側近たちも「あんな虚弱な男が次期王などありえない」と彼を見捨てた。

 国王もエイリースという国宝級の人材をみすみす逃した愚かな息子を廃嫡し、地方の療養所へ幽閉する手筈を終える。デニーズは震える手で窓の外を見るも曇った空が広がっているだけだ。


「僕が、間違っていたのか……?」


 真実を理解した時には何もかもが手遅れ、失った当たり前の健康と献身的な愛は二度と戻ってくることはなかった。聖女は幸せになり、王子は一生ベッドの上で噛み締めることになったのである。

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