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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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75/92

75仮面の下にある貴方に恋をしたけれど共に生きてくれますか?違う世界から来たけれどこうして惹かれ合っていた。これから先何が起こるかわからないがどんな困難も乗り越えていける

ざまぁなし

「……ここはどこ?」


 見慣れない木々が生い茂り、足元にはふかふかの草が広がっている。最後にいたはずの薄暗い研究室の面影はどこにもない。如月雫〈きさらぎしずく〉はごく普通の女子だったはずなのに、気がつけばこんな場所に立っていた。


「もしかして……異世界転生?ってそんなわけないかー」


 漫画や小説で読んだ展開が、まさか自分の身に起こるとはと混乱しながらも、どこか冷静な自分がいることに気づく。とりあえず、この状況を把握しなくては。


「あ、誰かいる」


 開けた場所に出ると背の高い人影が見えた。黒い装束を身につけ、顔は見えない。警戒しながらも助けを求めて声をかける。


「すみません!あの、もしよろしければ」


 人影はこちらを振り返った。仮面をつけていて表情は窺えないが、その佇まいには不思議な威圧感がある。


「貴様は見慣れぬ顔だな」


 低いけれどどこか心地よい声が響いた。言葉遣いは少し古風だ。


「えっと……私は、気がついたらここにいて。ここがどこなのかわからなくて……ですね」


「ここは、人の住まう領域ではない。貴様のような者が迷い込むなど、ありえぬことだ」


 仮面の男は冷たい声で言い放った。少し怖いけど他に頼れる人もいないしな。


「あの、もしかしてこの世界の方ではないんですか?」


 問いに男はしばらく沈黙したのちに、口を開いた。


つがいと名乗る者だ」


「つがい、ですか?」


 聞いたことのない言葉。


「そうだ。貴様は?」


「私は、如月雫といいます」


「雫……」


 名前を繰り返した声には先ほどの冷たさとは違う、何かを含んでいるような気がする。


「雫よ。貴様はどこから来た?」


「それは……私もよくわからないんです。気がついたらここに?」


 正直に答えると男は少し考え込む様子を見せた。


「しばらく共に来い」


「え?」


「貴様が何者なのか、ここで何をすればいいのか、見極める必要がある」


 警戒はしたが他に選択肢もない。仮面の男。番と呼ばれる人物の後をついていくことにした。案内でたどり着いたのは、簡素ながらも整えられた住居。そこで、しばらくの間、番と共に暮らすことになるのか。


「ここが部屋だ」


 案内された部屋は質素ながらも清潔だった。寝具も用意されている。


「ありがとうございます」


「礼など不要だ。だが、許可なく住居から出ることは許さん」


 やはり、警戒されているなとあっという間に数日が過ぎた。番は多くを語らない。話しかけても必要最低限の言葉しか返ってこない。

 食事の用意をしてくれたり、夜には見回りをしたりと、ないがしろにしているわけではないよう。ある日、意を決して番に話しかけた。


「あの……番さん」


「……なんだ」


 庭の手入れをしていた番がこちらを向いた。


「あなたのことをもう少し教えていただけませんか?その……つがいというのは、どういう意味なんですか?」


 手を止めて見つめられ、仮面越しでは表情はわからないけれど、視線が少しだけ和らいだ気がした。


「……番とはこの森の均衡を守る者のことだ。我々一族は、代々その役目を担ってきた」


「森の均衡……?」


「人ならざる者も多く存在する。強大な力を持つ者もいる。我々は、彼らが無闇に人の領域を侵さないよう、監視し、必要であれば力を振るう」


 警察のような役割なのだろうか。


「あなたは、その……一族の長、ということですか?」


「まぁ……それに近い」


 番は、それ以上は語ろうとしなかった。

 それから、少しずつではあるけれど言葉を交わすようになった。話すと興味深そうに耳を傾けた。特に好きだった漫画やアニメの話には時折、質問をする。


「貴様の故郷の物語は奇妙で面白いな」


「そうですか?こっちでは娯楽なんですけど」


 そんな会話を重ねるうちに番に対する警戒心を解いていった。物静かな優しさや、時折見せる真剣な眼差しに惹かれる。眠れずに庭に出ると月明かりが、昼間とは違う幻想的な景色を作り出す。


「眠れないのか?」


 背後から番の声がした。いつの間にか隣に立っている。


「はい……まだ、この世界に来たことが、夢みたいでその」


「故郷が恋しいか?」


「ええ、まあ……でも、こうして話していると、少しだけこの世界のことも好きになれそうな、気がします」


 番は驚いたように見つめた。


「そうか」


 声はいつもより柔らかい。関係は少しずつ変化していった。これまでのように監視されているという感覚はなくなり、共に過ごす時間が心地よく感じるように。勇気を出して、自分の気持ちを伝えた。


「あの……番さんのこと好きになってしまったみたいです」


 仮面の下の表情は見えない。沈黙が長く感じられた。


「雫」


 低い声で名前を呼んだ。


「異世界の人間とは住む世界も背負うものも違う」


「そんなことわかっています。それでもあなたのそばにいたいんです」


 番は何も言わなかった。静かに見つめている。


「感情を表に出すことを長らく忘れていた」


 しばらくして番は言う。


「だが、貴様と出会い共に時を過ごすうちに、わずかながら変化が生まれたようだ」


「それは?」


「貴様のことを疎ましく思わない」


 言葉を切り、躊躇うように言った。


「共にいたい、と思うようになった」


 心臓が大きく跳ねた。


「本当に……ですか?」


「ああ」


 瞬間、番はゆっくりと仮面に手をかけたらそれを外す。


「え?」


 露わになった顔は想像していたよりもずっと優しかった。整った顔立ちに、深い蒼の瞳が印象的な瞳が、優しく見つめている。


「私の名はハルキ。番というのは、役目名なのだ」


「ハルキ」


 初めて本当の名前を呼んだ。音は心に響く。


「雫。共に生きていく覚悟はあるか?」


 ハルキの言葉に、迷いはなかった。


「はい。喜んで」


 違う世界から来たけれどこうして惹かれ合っていた。これから先、何が起こるかわからないけれど、ハルキとなら、どんな困難も乗り越えていける気がする。異世界で、共に生きていくことを誓うと共に二人の未来は、まだ始まったばかり。

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