72聖女の私は追放されたけどスープ一杯で人生逆転しそうです。泥臭い料理ばっかり作って聖女の品格はないの?と言われたが無能ではないのでかまわない
ざまぁはない寄り
「ラーナは本当に無能ね。泥臭い料理ばっかり作って聖女の品格ってものがないの?」
キンキンと響く高い声。目の前で扇子をバサリと広げているのは姉のカクラシヌ。豪華なドレスに身を包み、いかにも選ばれし聖女という顔をしているけど、中身は空っぽ。
できるのは魔力で見栄えのいい光の粒を振りまくことくらい。だけど、家ではカクラシヌが絶対。雑用係として毎日毎日、家族や使用人たちの食事を作り続けてきた。
「料理はみんなの健康を考えて魔力を練り込んだもの。食べれば疲れも取れます」
カクラシヌは鼻で笑う。
「疲れ?そんなのどうでもいい。第一王子のグリシン様との婚約パーティーでは、魅せる魔法が必要。あんたの作った料理は全部、私が魔法で生成したものとして出すから裏で大人しくネズミの相手でもしてなさい」
実は前世の記憶を持っていてブラック企業の社員食堂で、朝から晩まで包丁を握っていた栄養士。転生した世界では、食材の声が聞こえる神の舌というスキルを持つ。
でも、国では派手な攻撃魔法や治癒魔法だけが聖女の力とされる。美味しい料理を作るだけでずっと無能扱いされてきた。無能はあちらなのに。
パーティー当日、寝る間も惜しんで仕込んだフルコースはカクラシヌの手柄として発表された。流石に摂取されている。
会場からは「さすがカクラシヌ様!」「魔法でこんなに美味しい料理を出すなんて!」と称賛の嵐。用済みになったこちらを待っていたのは信じられない言葉。
「ラーナ。国から追放する」
冷たく言い放ったのは父である公爵。カクラシヌが隣でニヤニヤしながら付け加える。なんでだろう。
「グリシン様との結婚にあんたみたいな地味な妹がいたら邪魔。不潔な料理女は、国境の森で魔物にでも食べられといい」
着の身着のまま魔物がうようよいるという国境の森に放り出された。自分を殺して今後どうするのか。まぁもう関係ないか。
「はー……ふぅ。やっと一人になれた」
森の入り口で大きく伸びをした。普通なら絶望するところだけどいい気分だ。
ブラック家庭、こっちから願い下げだし。
「ご飯にしよ。お腹が空いてちゃ戦えない」
神の舌を使い、周囲の食材を鑑定する。クリスタルマッシュルーム。旨味成分が通常のシイタケの十倍。黄金鶏、別名ゴールデンチキン。魔力をたっぷり含んだ最高級の地鶏。高級食材だらけ。
「すごい!宝の山」
手際よく落ちている枝を集めて火を起こし、アイテムボックスから取り出した鍋を火にかけると湧き水に食材を放り込み、魔力をじっくりと馴染ませていく。アクを丁寧に取り除き、塩だけで味を整える。森の中にあり得ないほど芳醇な、黄金色の香りが立ち込めた。鼻が幸せ。
「完成、聖女の黄金コンソメスープ」
木のスプーンで一口、熱々のスープを啜る。美味しい。鶏の濃厚なコクが森のキノコの滋味深い香りと混ざり合い、体に染み渡る。味わっていたそんな時。
「おい女。貴様何をしている?」
傲慢に響く声に振り返ると豪華な外套を羽織った、丸々とした体格の少年が立っていた。お供の騎士たちを従え、腕を組んで見下ろしている。いや、誰?
「あ、えっと、スープを作って食べてた?」
「……ほう。ミータナを差し置いて森で一番美味そうなものを独り占めしようというのか?良い度胸だ」
少年ミータナはフンと鼻を鳴らして歩み寄ってきたら手にあるカップを、当然のようにひったくる。おいおい、強盗じゃわないか。
「ちょっと何!」
「黙れ。鼻がスープは至宝だと叫んでいる。毒見はしてやる光栄に思え」
尊大な態度でスープを口にした。
「くっ!!」
瞬間、顔色が劇的に変わった。手に持ったカップがガタガタと震え、カッと目を見開く。
「な……なんだこれは!雑味など一切ない、純粋な命の輝きが口の中で爆発したぞ!魔力がスープを飲んだ瞬間に平伏し、跪いている!」
ミータナはガシッと肩を掴んだ顔は獲物を逃さない王者のそれ。
「最高だ!女、貴様を所有物にしてやる。胃袋をこれほどまでに高揚させた罪、一生かけて償ってもらう!」
「はぁ!?所有物!?」
「黙れ拒否権はない。貴様のような逸材、ゴミ溜めのような国に置いておけるか。今日から貴様は国で僕のためだけに腕を振るえ」
「わあああ!」
強引に腕を引かれ、そのまま馬車へと押し込まれる。食いしん坊ミータナとの、前途多難な美食生活が幕を開けた。
将来夫婦となる二人の出会いである。




