表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/72

70 魔法が使えないから母がなじってくるけれど私が悪いと我慢していたもののいつも比べられる姉が助けるために二人きりになったらどうすればいいのかわからない。家を出ることになっていろんな体験してみる

八千文字/冷遇

 ポツリと、ティーリンはつぶやいた。


「また姉さんと比べられてる」


 今日も今日とてお母さんからの体罰が待っていた。理由はいつものこと「お姉さんはこんなことしないのに、あんたは!」という言葉。

 ティーリンは十四歳。この世界に転生してきてからもう十四年になる。

 体罰と聞くと、ひどく聞こえるかもしれないけどこの世界ではよくあること。


 魔法の力が強い子ほど、厳しく育てられる傾向にある。ティーリンの姉さんヨルリアは、ティーリンより2つ年上の十六歳で魔法の力が強いと村でも評判だった。


「ティーリン、あんた、またそんなところでぼーっとして!」


 母さんの声が響く。


 ティーリンは肩をすくめた。


「ごめんなさい、お母さん」


「ごめんなさいじゃないわよ!ヨルリアはもう上級魔法の練習をしてるのに、あんたは初級魔法すらまともに使えないじゃない!」


 お母さんの言葉に、ティーリンは何も言い返さない。本当は上級魔法どころか、この世界に存在するどんな魔法よりも強力な、誰も知らない本当の力を持っている。

 でも、それを知られたら大変なことになると本能的に分かっていたからずっと隠し続けてきた。本能的にって言葉にできない。


「はぁ……あんたは本当に出来の悪い子ね」


 お母さんはため息をつき、ティーリンの頬をピシャリと叩いた。痛みはほとんど感じない、もう慣れてしまったから。

 夜、ティーリンは自分の部屋のベッドに横たわっていた。窓から見える月はいつもと変わらず輝いている。


「本当の力……いつまで隠していればいいんだろう」


 ティーリンはそっと右手をかざした。

 手のひらから淡い光が漏れ出す。この世界のどんな魔法とも違う温かくどこまでも深い光。力を開放したらこの世界はどうなるんだろう。そんなことを考えているとドアがそっと開いた。


「ティーリン、寝た?」


 優しい声。お姉さんのヨルリアだった。


「お姉ちゃん……まだ起きてる」


 ティーリンは体を起こした。ヨルリアがベッドの横に座る。


「お母さん、また厳しかった?」


 ヨルリアの表情は心配そうだった。


「うん、いつものことだから大丈夫」


 ティーリンは努めて明るく答えた。ヨルリアはティーリンの頭を優しく撫でる。


「ごめんねティーリン。私がもっとしっかりしていれば怒られることも減るのに」


「そんなことないよ、お姉ちゃんはすごいもん。私なんてお姉ちゃんに比べたら……」


 ティーリンがそこまで言うと、ヨルリアはティーリンの口を手で塞いだ。


「そんなこと言わないで。ティーリンはティーリン。誰かと比べる必要なんてないの」


 ヨルリアの言葉がティーリンの心に温かく響いた。


「ありがとう、お姉ちゃん」


 ティーリンはヨルリアに抱きついた。

 本当の力を隠し続けている自分にとって、ヨルリアの優しさは唯一の救い。秘密がバレてしまう日が来るのかもしれない。

 その時、ヨルリアはお母さんは。この世界はどうなるんだろう。ティーリンは夜空の月を見上げながら目を閉じた。


 その日ティーリンはいつも通り学校から帰ってきた。家の様子がいつもと違う。玄関には見慣れない男たちが立っていて、家の中から怒鳴り声が聞こえる。


「お母さん!?」


 ティーリンが駆け寄ると男たちの一人が冷たい目でティーリンを見た。


「この家の者か?ちょうどいい。お前の母親を逮捕する」


 逮捕という言葉にティーリンは頭が真っ白になった。


「な、なんで!?お母さんが何をしたっていうの!?」


 ティーリンの声が震える。奥から手錠をかけられたお母さんが出てきたら、お母さんの顔は青ざめていていつもよりもずっと小さく見えた。


「ティーリン……」


 お母さんが何か言おうとしたその時、警邏の男が強い口調で言う。


「あんたは魔法の力を濫用し、村の治安を乱した疑いがある。それに、未成年者への体罰も確認されている。連行する」



 ティーリンは目の前で起こっていることが信じられなかった。体罰は日常だったけれど、まさかそれが原因で逮捕されるなんて。魔法の濫用?お母さんがそんなことをするはずがない。


「やめてお願い。お母さんを連れて行かないで!」


 ティーリンは警邏の男に必死にしがみついた。男はティーリンを振り払い、お母さんを無理やり外へ連れ出していく。


「お母さん!お母さん!」


 ティーリンの叫び声が夕暮れの空にむなしく響いた。夜、ヨルリアが帰って、ルリアは事態を把握するとすぐに警邏隊の詰所へ向かう。ティーリンは家で震えることしかできなかった。


 数時間後、ヨルリアが疲れた顔で帰ってくる。


「お姉ちゃん……お母さんは?」


 ティーリンが不安そうに尋ねると、ヨルリアは深くため息をついた。


「お母さんは……しばらく帰ってこられないって」


 ティーリンはがっくりと肩を落としているとヨルリアは隣に座り、ゆっくりと話し始める。


「実はね、お母さんは村の魔法使いギルドから度々警告を受けていた」


「警告?」


「そう。お母さんは自分の魔法の力を過信して、周りの意見を聞かずに魔法を使っていたみたいで村の安全を脅かすことにも繋がっていたんだって」


 ティーリンは信じられない思いだった。

 お母さんがそんな危険なことをしていたなんて。


「ティーリンへの体罰の件も、ギルドに報告されてた」


 ヨルリアの言葉にティーリンは顔を上げた。


「誰が……?」


「私が何度か報告した」


 ヨルリアの告白にティーリンは目を見開いた。

「どうして……」


「ティーリンを傷つけたくなかったから」


 ヨルリアの瞳は優しく悲しみに満ちていた。


「毎日お母さんに怒られて叩かれているのを見てた。それがすごく辛かった。だから、いつか止めてほしいと思って」


 ミリアの言葉にティーリンの目から涙があふれ出した。自分を守るために姉がずっと苦しんでいたなんて。


「ごめんねティーリン。お母さんが逮捕されたことは、とっても辛いことだけどティーリンがこれ以上傷つかないようにって、ずっと願っていたから」


 ティーリンはヨルリアに抱きついた。逮捕は悲しいけれど、ヨルリアの優しさが心を包み込んだ。連行されてから、ティーリンとヨルリアは二人きりになった。

 村の人たちは遠巻きに見ているだけで、誰も助けてはくれなかったしヨルリアは学校を休み、ティーリンの面倒を見ながら家事のすべてをこなした。

 魔法の練習も家事に追われてなかなかできないようだ。そんなヨルリアの姿をティーリンは見ていられなかった。


「お姉ちゃん無理しないで。私もう子どもじゃないんだから」


 言ったけれどヨルリアはいつも笑顔で「大丈夫よ」と答えるだけ。そんなある日、ヨルリアの様子が少しおかしくなった。

 顔を赤らめることが増えたり、時々空を見上げてため息をついたり。これまで以上に外に出かけるようになった。

 ティーリンは、それが恋だとすぐに気づいたある夕暮れ時、ヨルリアはティーリンに言う。


「ティーリン話があるの」


 ヨルリアの顔は少し緊張しているように見えた。


「私ね、好きな人ができたの」


 やっぱりと思ったティーリンは笑顔で答える。


「知ってたよ!どんな人なの?」


 ヨルリアは嬉しそうに話し始めた。相手は村の青年でヨルリアと同じくらい、いや、それ以上に魔法の力に秀でているという。優しい人だと。ティーリンは心から嬉しかった。ヨルリアが幸せになるならそれが一番。


 それから、数ヶ月後。ヨルリアは結婚することに。相手の青年カイは本当に優しくて、ヨルリアを心から大切にしているのがティーリンにもよく分かった。

 結婚式は村の小さな教会で執り行われ、ティーリンは、真っ白なウェディングドレスを着たヨルリアが、誰よりも美しく見える。


 式の後、カイはティーリンに深々と頭を下げた。


「ティーリンさん。ヨルリアを、いや、これからは私の妻をずっと大切にします。ティーリンさんのことも家族として守っていきます」


 涙が止まらなかった。ヨルリアは結婚を機に、カイと共に隣村へ引っ越すことになる。カイは隣村で代々続く魔法使いの一族の出身で、そこで新しい生活を始めるのだという。

 旅立ちの日ティーリンは、馬車に乗るヨルリアとカイを見送った。ヨルリアは窓から身を乗り出し、ティーリンに手を振る。


「ティーリン元気でね!いつでも会いに来てね!」


 ティーリンは何度も頷き、手を振り返した。馬車が見えなくなるまで、ティーリンはその場に立ち尽くして一人残された家で、ティーリンは初めて本当の寂しさを感じる。

 お母さんもお姉ちゃんもいなくなってしまった。ぎゅっと自分の手を握りしめた。これからは、本当に一人ぼっち。


 同時にティーリンは解放感も感じていた。もう誰かの目を気にすることなく、自分の好きなように生きていける。

 

「私どうしようかな」


 ティーリンは空を見上げヨルリアを見送って数日後。自分の部屋で静かに考え事をしていた。一人になった家は広くて静かで寂しい。


「私もどこかに行きたいな……」


 お姉ちゃんも、カイさんも新しい場所で新しい生活を始めたしお母さんはまだ帰ってこられないし、このままこの村にいても特にすることがない。

 それに、ずっと隠してきた本当の力。いつか誰かに知られてしまうかもしれないという不安も拭いきれないので、いっそこの村を出て自分の力を試せる場所を探してみようかな。


 思ったティーリンは旅の準備を始めた。

 わずかなお金と着替え、小さい頃から肌身離さず持っていた不思議なペンダント。

 誰にも告げず夜明け前にティーリンは家を出た。見慣れた村の景色が遠ざかっていく。胸には不安とそれ以上の期待が膨らんでいた。


 あてもなく歩き始めて数日、ティーリンは小さな宿場町にたどり着いた。そこで一人の少年と出会う。少年の名前はゼタ。

 少しやんちゃそうな笑顔が印象的な、ティーリンと同じくらいの年頃の少年。

 ゼタは一人旅をしていて、各地の珍しい植物を探しているという。


「へえ、面白いね!そんなことしてる人、初めて見たよ」


 ティーリンはゼタの話に興味津々だった。ゼタも身の上話を聞いて心配そうな顔を。


「一人で旅してるのか?危ない目に遭わないように気をつけろよ」


 ゼタの優しさが心にじんわりと染み渡る。それからしばらく、ティーリンはゼタと行動を共にするようになった。ゼタは道に詳しく、色々なことを教えてくれた。

 危険な魔物が出そうな場所では、さりげなくティーリンを守ってくれたのだ。一緒に野宿をしたり、焚き火を囲んで話をしたりするうちに、ティーリンはゼタに特別な感情を抱くようになっていった。


 彼の明るさや、困っている人を放っておけない優しさに心が惹かれていったのだ。ある夜、満点の星空の下でゼタはティーリンに言う。


「ティーリンって、時々すごく不思議な雰囲気だよな。何か隠してるみたいで」


 ドキッとした。もしかして、気づかれた?ティーリンは慌てて首を横に振った。


「な、なにも隠してないよ!気のせいだって」


 ゼタは不思議そうな顔をしていたけれど、それ以上は何も聞かなかった。


(いつか、本当のことを話せる日が来るのかな)


 夜空を見上げながら思う。旅を続けるうちに、ティーリンのゼタへの想いはますます強くなっていった。一緒に笑ったり、困難を乗り越えたりする中で、二人の間には特別な絆が生まれている。

 ある日、美しい花畑を見つけた時、ゼタは照れくさそうに一輪の花をティーリンに差し出した。


「これ、ティーリンに似合うと思って」


 赤い、可愛らしい花だった。ティーリンは顔を赤らめながら受け取る。


「ありがとう……」


 その時の二人の間に流れる空気は、いつもとは少し違っていた。お互いを意識し始めているのが、はっきりと分かる。

 楽しい時間は長くは続かないものだ。ある町にたどり着いた時、ゼタはティーリンに述べる。


「ティーリン、俺、どうしても行かなきゃならない場所があるんだ」


 ゼタの表情は真剣だ。


「そっか……どこに行くの?」


 ティーリンは寂しさを感じながら尋ねた。


「遠いんだ。しばらくは会えなくなると思う」


 ゼタの言葉に胸が締め付けられた。


「そう……なんだ」


 別れの時が来た。ゼタはティーリンに困ったような、でも優しい笑顔を向ける。


「ティーリン、お前と旅ができて本当に楽しかった。ありがとうな」


「私も、ゼタと一緒ですごく楽しかったよ。ありがとう」


 二人は言葉少なに別れを告げた。ゼタの背中が見えなくなるまで、ティーリンはその場で見送る。一人になったティーリンは、ゼタにもらった赤い花を握りしめた。


(これで、また一人になっちゃったな……)


 不思議と、寂しさだけではなかった。ゼタとの出会いはティーリンの心に光を灯してくれたのだ。いつかまた、きっと会えると信じている。新しい目的地を目指して再び歩き始めた。胸には初めての恋の予感と切なさを抱きながら。


 ゼタと別れてから、ティーリンはしばらくの間、あてもなく旅を続けていた。

 やがて、たどり着いたのは、大きく賑やかな港町。活気あふれる町の雰囲気に自然と惹きつけられた。


「ここで、少し休もうかな」


 決めたあとは町の中心部にある大きな宿屋の前に立った。入り口の看板には従業員募集の文字。


(これだ!)


 迷わず宿屋の扉を開けた。宿屋の主人は恰幅のいい、人の良さそうな中年男性。

 ティーリンが旅の途中で働きながら滞在したい旨を伝えると、主人は少し驚いた顔をしたものの快くティーリンを受け入れてくれた。


「ほう、一人で旅をしてるのか。面白いな!よし、今日からここで働いてみるか?」


 こうして、宿屋での生活が始まった。仕事は部屋の掃除、食事の配膳、客の応対など多岐にわたる。最初は不慣れなことばかりで戸惑うことも多かったが、持ち前の真面目さと器用さですぐに仕事を覚えた。

 宿屋で働く人は皆温かくティーリンを迎えてくれたのだ。特に料理長のルカさんはお母さんのようにティーリンを心配し、色々と気にかけてくれた。


「ティーリンちゃん、無理してないかい?疲れたらいつでも言ってくれ」


 ルカさんが作ってくれる賄いは、どれも故郷の味を思い出させるような温かくて優しい味。宿屋には様々な客が訪れた。

 商人、旅人、冒険者、時には貴族のような身分の高い人も。彼らとの会話を通して世界の広さや多様性を肌で感じていった。

 ある日ティーリンは偶然、客室から漏れる会話を耳にした。どうやら、客は魔法使いのようで強力な魔法を操る一族の話をしていたので、思わず耳を傾ける。


(隠している力と同じくらい強力な魔法使いがいるんだ)


 本当の力は、宿屋で働いている間もずっとティーリンの中にあった。時折、ふとした拍子に力が漏れそうになることもあったが細心の注意を払って隠し続ける。

 もし、力が明るみに出たらこれまでの生活が壊れてしまうかもしれないと恐れていたから。宿屋での穏やかな日々は心を少しずつ癒していった。


 誰かと比べられたり、体罰を受けたりすることはない。安心して自分らしくいられる場所がここにはあった。宿屋での生活は多くのことを教えてくれ、人と関わることの楽しさ、働くことの喜び、自分自身を大切にすること。


 以前よりもずっと明るく、前向きになっていた。時折、ゼタのことを思い出しては胸が締め付けられるような切なさを感じたが、それは決して悲しい気持ちだけではない。


(ゼタ、今どこで何をしてるのかな)


 いつかまたゼタに会える日を夢見ながら、今日も宿屋で笑顔で働いている。港町での宿屋暮らしが続き、穏やかさを取り戻し、心の奥底に眠る力は常に中に存在していた。ある日、港で異変が起きた。


「なんだ、この水は!?」


「魚が全然獲れないぞ!」


 船乗りたちが騒いでいる。ティーリンが様子を見に行くと港の水がひどく濁り、悪臭を放っていて病気になった魚が水面に浮き、皆は困り果てた。


「これじゃあ仕事にならない」


 宿屋の主人も顔をしかめていた。汚れた水は港町の生命線である漁業に大きな影響を与え始めていたのだ。濁った水を見た瞬間、体の奥から奇妙な感覚が湧き上がるのを感じた。水がティーリンに助けを求めているかのように。


(この水、何とかできるかもしれない)


 じっと汚れた水を見つめた。これまで隠し続けてきた本当の力が、この時ばかりは強く突き動かす。夜に誰にも見つからないようにこっそりと港へ向かった。波止場に立ち、ゆっくりと右手を水面に差し出す。

 目を閉じ、意識を集中させると手のひらから温かい光が漏れ出し、水中に吸い込まれていくのが分かった。光は水の中で広がり、濁りを少しずつ、確実に吸い取っていく。


 悪臭も薄れていくのが感じられて体中の力が抜けていくような感覚に襲われたが、それでも光を送り続ける。水と一体になったかのように。

 どれくらいの時間が経っただろうか。光が弱まり、ティーリンはゆっくりと目を開けた。目の前の港の水は嘘のように澄み切る。底が見えるほど透明になり、悪臭も完全に消え去っている。夜空の月が水面にきらきらと反射していた。


「成功した」


 安堵のため息をついた。力が尽きたのかその場にへたり込んだ。翌朝、港は騒然となっていた。


「おい!水がきれいになってるぞ!」


「魚も戻ってきてる!」


 船乗りたちは歓声を上げ、漁に出る準備を始めると宿屋の主人も満面の笑みでティーリンに言う。


「夜中に何があったか知らないが、本当に助かったな!これでまた活気が戻る!」


 微笑んでいるしかなかった。自分がやったことだとは誰にも言えない。大きな変化が起きていた。隠し続けてきた力が誰かの役に立つ喜びは、これまで感じたことのない温かく満たされた気持ち。


「私の力は悪いものじゃないんだ」


 確信し少しずつ、自分の力を受け入れ始めていた。港町で宿屋の仕事にも慣れ、水の浄化という密かな善行を重ねるうち満たされていく。旅立つ前に別れたゼタの面影が時折、ティーリンの胸をよぎるそんなある日。


 宿屋に一人の青年がやってきた。旅慣れた様子でティーリンの案内する部屋へ向かう後ろ姿に見覚えがある。


「ゼタ?」


 思わず口から出た名に青年が振り返った。驚いたような懐かしそうな表情でティーリンを見つめている。


「ティーリン!?なんでこんなところに!?」


 まさかの再会。ゼタは植物を探す旅の途中でこの港町に立ち寄り、たまたま働く宿屋を選んだのだという。二人は再会を喜び合った。

 ゼタはこの数ヶ月間で、以前よりも少し大人びて見える。彼の顔には旅で培った自信と深い思慮が刻まれているしティーリンもまた、宿屋での仕事と秘めたる力で人々を助ける経験を通じて内面的な成長を遂げていた。


 再会してからの日々はあっという間に過ぎていった。ゼタは毎日、ティーリンが働く宿屋に顔を出し、仕事が終わると二人で町を散策したり、星空の下で語り合ったりした。

 ゼタは、ティーリンが港の水を浄化したことを知らなかったが港町の水がきれいになったことを知り、不思議な顔で言う。


「この港、本当にすごいな。前に来た時はちょっと汚かったのに。誰かが魔法を使ったみたいだ」


 ティーリンはドキリとしたが微笑む。一緒に過ごす時間が増えるにつれてゼタへの想いが再び募っていった。以前よりもずっと強く深く彼のことを愛おしく思う。二人は町の高台に座り、きらめく港の夜景を眺めていた。潮風が心地よく頬を撫でる。


「ティーリン」


 ゼタが静かにティーリンの名前を呼んだ。顔を上げるとゼタの真剣な眼差しと目が合った。


「旅を続けていたけどずっと考えてた。また会えるなんて本当に夢みたいだ」


 胸が高鳴る。


「ティーリンが好きだ。俺と一緒に旅を続けてほしい」


 ゼタの告白にティーリンの目から涙があふれ出した。ずっと心の中で温めていた想いが今、目の前で現実になる。


「私も……私もゼタが好き」


 ティーリンはゼタの胸に飛び込んだ。

 互いの温もりを感じながら、二人は満月の下で静かに抱きしめ合う。

 翌日、ティーリンは宿屋の主人にゼタと一緒に旅立つことを告げた。主人は寂しそうな顔をしたが、二人の幸せを心から祝福してくれた。


「ティーリンちゃん、いつでもここに帰っておいで。ここはティーリンちゃんの家だからね」


 ルカさんも温かい言葉をかけてくれた。


「元気でねティーリンちゃん。幸せになるんだよ」


 ティーリンは宿屋の人たちとの別れを惜しみながらも、ゼタと共に新たな旅路へ出発。二人は手を取り合い、広がる世界へと足を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ