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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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67/71

67婚約者から人形を贈られた怖い話。その日を境にベッツィ・エインズワースの姿を見た者は誰もいなかった

ざまぁなし/不思議系

 ベッツィ・エインズワースは夜風が運ぶ甘いジャスミンの香りに包まれながら、ふぅとため息をついた。


「まあ、仕方ないわよね」


 左手にはめた立派な婚約指輪をそっと外す。虚しさに気持ちは沈む。今朝、突然のお父様からの呼び出し。

 おそるおそる向かった執務室には珍しく婚約者である、ルパーイト様の姿もあった。告げられたのが婚約の破棄。驚きは半々。


「ルパーイト様との婚約を破棄する。エインズワース家と公爵家との魔力相性が悪く、このままだと生まれた子供に悪影響を及ぼしかねないという鑑定結果が出たそうだ」


 なぜ破棄なのかと。鑑定魔法士の言葉をルパーイト様は神妙な面持ちで聞いていた。悲しさに俯く。


「ベッツィ嬢、本当に申し訳ない」


 こちらも、どう言えばいいのか。深々と頭を下げるルパーイト様にベッツィはそっと微笑みかけた。安心させるように。


「いいえ、ルパーイト様。わたくしこそ、力不足で申し訳ありません」


 うまく笑えているか。魔力相性が悪い。

 生まれながらの宿命。決して、覆すことのできない事実。それにしても破棄とは。婚約破棄。

 社交界では大きなスキャンダルとなり、ベッツィの人生に暗い影を落とすだろうけど、ベッツィは平気だ。なぜ、お父様が娘の方に傷をつけたのか。


「だってわたくし、ルパーイト様のこと全然好きじゃなかったもの」


 言い切る。ベッツィはカラカラと笑った。バレなかったのはかなり頑張ったから。ルパーイト様は家同士の決められた婚約者。顔は整っているけれどいつも無表情で何を考えているのかわからない人だった。正直、疲れる。


「ま、これでやっと自由の身ってわけね!」


 笑みをパッと浮かべる。ベッツィはベッドに寝転がるとふかふかの枕に顔をうずめた。すぅ、と寝掛ける。とその時だった。


 ──コンコン


 コンコン、と部屋のドアがノックされた。ビクッとなる。


「ベッツィお嬢様よろしいでしょうか?」


 ああこの声は。ベッツィの専属メイドである、マリーリアの声。ホッとした。


「どうぞ、マリーリア」


 許す。マリーリアは手に大きな木箱を抱えていた。なんだろうか。


「お嬢様、これはルパーイト様からお嬢様への贈り物のようです」


 首を傾げて、見遣る。マリーリアは木箱をベッドサイドのテーブルに置いた。なぜ?


「え、ルパーイト様から?」


 わからない。ベッツィは不思議に思って箱を開けてみる。ドキドキするのは緊張からか。中に入っていたのは黒く光る不気味な人形。


「え?」


「あらまあ」


 人形という年齢でもないのに。人形はなぜかベッツィに語りかけてくる。身体が震える。


『ベッツィ、きみは僕のものだ』


 などと言い出す。ベッツィは目を丸くして人形を見つめる。喋るなんて。


「な、なんだか、変な人形」


 つぶやいた。瞬間、ベッツィの背後に黒い影がゆらりと現れた。気配がにじり寄る。


「ひっ!」


 後ろを向く。悲鳴が夜の闇に吸い込まれていった。


 その日を境にベッツィの周りで奇妙な出来事が起こり始めた。日記にも記す。

 窓の外から誰かの視線を感じる。ずっと、だ。部屋に飾ってある花が、一瞬で枯れる。

 先ずはきちんとやっていた。何よりも恐ろしいのは夜になると部屋の隅から奇妙な声が聞こえてくること。怖くて震える。


『ベッツィ、きみは僕のものだ』


 目的は。声は日に日に大きくなり、ベッツィを精神的に追い詰めていった。眠れない。


 ある日、ベッツィは意を決してお父様に相談する。解決してもらえる保証はどこにもない。


「お父様わたくし、婚約破棄されてから、なんだか変なことが起こるんです」


 青白い顔はお弁に語る。


「ベッツィ、大丈夫か?」


 娘の顔色に今になって言い出す。お父様は心配そうな顔でベッツィを見つめる。もっと早く聞いてほしい。


「きっと婚約破棄のショックで疲れているだけだ。少し休みなさい」


 ふざけるなと泣かなかったのは奇跡だ。お父様はベッツィの言葉を信じてはくれなかった。恨みたくなる。

 ベッツィは一人でこの恐怖と戦うしかなかった。お父様を襲えばいいのに。そんな中、ベッツィはルパーイト様から送られた人形が怪奇現象の原因なのではないかと思い始める。疑いようがない。


「この人形をどうにかしないと!眠れなくて死んじゃう!」


 送ってきたのは彼だ。ベッツィは意を決して人形を壊そうとした。


 ──グワ!


 しかし、人形は生きているかのようにベッツィの手から逃れる。動くなんて人形なのに。


『ベッツィ、きみは僕のものだ』


 また喋りかけてきた。人形はベッツィの周りをくるくると回り、楽しそうに笑う。怪異現象は続くのか。


「もう、やめて!」


 絶望感が胸を締めつける。ベッツィは魔法で人形を閉じ込めようとした。


「入って!」


 一瞬でベッツィの魔法を跳ね返す。人間でも難しいのに。ベッツィは愕然とした。首を振る。


「まさか、この人形、生きてるの!?」


 信じられない、信じたくない。その時、ベッツィはあることを思い出す。脳裏に過ぎる。昔、ルパーイト様がベッツィに言った言葉を。


『ベッツィ、きみは僕にとって一番大切な存在だ』


 ゾッとなる。人形の言葉と重なるようだ。あの言葉が今になって襲ってきている。ある一つの真実にたどり着く。

 顔白い顔はさらに体温を無くす。人形はルパーイト様の、ルパーイト様のルパーイト様そのものなのではないか、と。


 考えてみたらおかしくはない。ベッツィは震える声で人形に語りかける。慎重に。


「ルパーイト様。本当にあなたなのですか?」


 優しく問いかける。人形は何も答えなかった。こっちこそなんなのだとなる。ベッツィの周りをくるくると回り、不気味な笑みを浮かべているだけ。

 蹴り飛ばしても許されるだろう。夜、ベッツィはルパーイト様の邸宅に忍び込んだ。不可抗力、緊急事態ゆえ。ルパーイト様とは本当に婚約破棄されたのだろうか。


 今となっては別の思惑があるのかも。それとも何か別の目的があるのだろうか。

 探る他ない。ベッツィはルパーイト様の部屋にたどり着くと恐る恐るドアを開けた。暗い、当然ながら。部屋の中は真っ暗だった。


「ライト」


 ベッツィは魔法で小さな光を灯す。


「寝てる。ぐっすり。私は寝られないのに?」


 するとそこにはルパーイト様の姿があった。すやぴぴと。しかし、ルパーイト様はベッドの上でぐったりと横たわり、抜け殻のよう。寝ているというより寝込んでいる。


「ルパーイト様!」


 叫ぶ。ベッツィはルパーイト様に駆け寄る。ふわ。ベッツィの背後に再び黒い影がゆらりと現れた。


「またっ」


『ベッツィ、きみは僕のものだ』


「うるさいっ」


 その声は部屋の隅から聞こえてくる。渋々、動くことに。ベッツィはゆっくりと振り返った。やはり。

 立っていたのはルパーイト様の姿をした不気味な黒い影。これが魂の類?


「ルパーイト様あなたはいったい?」


 問いかけた。影はベッツィににこやかに微笑みかける。聞かねばなるまい。


『僕はきみを愛している。だから、ずっと一緒にいてくれ』


 ずっと?ベッツィはゾッとした。首を振る。


「いいえ、お断りいたします」


 無理であろう。ベッツィは魔法で影を吹き飛ばそうとする。婚約はなくなったと寂しくは思う。影はベッツィの魔法を難なくかわしベッツィにそっと手を伸ばす。近くに来る。


「きゃっ!」


 油断したわけではない。影に捕らえられ、身動きが取れなくなる。苦しい。


『さあ、ベッツィ。僕と一緒に永遠の愛を誓おう』


 などと言う。影はベッツィに囁く。首を振り続けた。ベッツィは絶望の表情を浮かべる。ごめんである。


「誰か、誰か助けて!」


 こんなの嫌だ。ベッツィの叫び声は誰にも届かなかった。目の前が真っ暗になる。その日を境にベッツィ・エインズワースの姿を見た者は誰もいなかった。

 ルパーイト様はベッツィの家の庭に新しいバラ園を作る。バラ園にはルパーイト様が一人で毎日水をやり、大切に育てている。バラ園の中央には黒く光る、不気味な人形が幸せそうに微笑んでいたという。


 人形は時々、ルパーイト様に話しかけるのだ。


『ねえルパーイト。わたしたちずっと一緒よ』


 不気味な人形にルパーイト様は嬉しそうに微笑む。


「ああベッツィ。ずっと一緒だ」




 おしまい。




「え、これで終わり!?」


 思わず叫ぶ。


「そうよお嬢様。これ以上はわたくしの想像力の限界ですし」


 そう言われてもこちらこそ困る。


「マリーリア、もうちょっと続きを考えてちょうだい」


 中途半端なのに。


「ふふ、お嬢様。続きはまた今度お話しいたしますわ」


 メイドは揶揄うように笑う。ベッツィはムスッとした顔でマリーリアを見つめる。手作りの本を読んでもらっていたけど、消化不足。


「もう、マリーリアのいじわる!」


 叫ぶ。ベッツィはマリーリアに抱きついた。

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