66とろいわよ。はやく床を拭いておきなさい?出て行きなさいあなたなどうちにいりませんと言った彼らが忘れ去れたあとにじっくり煮ればいいのだとにっこり笑って内心憤怒を溜め込んで時を待つ
冷たい家と温かい記憶。バシャッ。
「きゃあ!」
ナハリは美しい自然に囲まれた小さな国で暮らしていたが、取り巻く環境は決して温かいものではない。
「ナハリ、とろいわよ。はやく床を拭いておきなさい?」
両親を早くに亡くし、彼女を引き取ったのは叔父家族。
「……はい」
表向きは面倒を見てくれているものの態度は冷たく、ナハリはいつも隅っこで静かに過ごしていた。
「間抜けねナハリって」
叔母は何かと理由をつけては雑用を押し付け、従兄弟たちは露骨にナハリを避け時には意地悪な言葉を投げかけた。
「それくらいにしてあげれば?明日も遊べなくなるわよ?」
ナハリにとって家は安らげる場所ではなく、身を置くしかない空間。
「ほほほ、そうねぇ?」
そんな孤独な日々の中で、ナハリは時折、不思議な感覚に襲われることがあり、別の人生を生きていたかのような鮮明な記憶の断片は、賑やかな街の風景、見たことのない道具や機械、自由で平等な社会の記憶。
自分が、日本という国で生きていたことを思い出した。スマートフォンという不思議な道具で様々な情報を手に入れたり友達と笑い合ったり、自分の将来について悩んだりする日常を送っていたことを。
現代の記憶は孤独な唯一の心の支え。冷たい叔父家族との生活で感じる理不尽さや不自由さに直面するたび「前世ではもっと自由だった」「もっと自分の意見を言えた」という思いが辛うじて繋ぎ止めていた。
ある日些細なことで叔母の怒りを買ってしまったナハリは、ついに家から追い出されてしまう。
「出て行きなさい。あなたなどうちにいりません」
叔母の冷酷な言葉が、小さなナハリの胸に深く突き刺さる。行くあてもなく、一人茫然と立ち尽くす目に映ったのは夕焼け空の下に広がる、見知らぬ土地。
追放されたあとたどり着いたのは、国境近くの小さな村の皆は貧しく、日々の生活に苦労している様子。
言葉も文化も違うこの場所で、ナハリは一人ぼっちになったけれど望しない。前世の記憶が生きるための知恵と勇気を与えてくれたから、現代で学んだ知識を活かそうとした。
例えば、前世で少しだけかじった農業の知識を思い出して荒れた土地を耕す方法を村人に教える。
衛生観念も高かったため、簡単な手洗いの習慣や清潔な水の確保の大切さを伝えると、最初は訝しんでいた村人たちも従うことで作物の収穫が増えたり、病気になる人が減ったりするのを目の当たりにして、次第に信頼されるようになった。
そんな中、一人の青年と出会う。彼の名はガイシャといい、村の自警団のような組織に所属しており、少しばかり粗野で自信過剰なところもあるけれど根は優しく、困っている人を放っておけない性格で最初はナハリのことを警戒していたガイシャも奇妙な知識と、困難に立ち向かう強さに惹かれていった。
ガイシャは才能を高く評価し、活動を積極的にサポートするようになり新しい作物の栽培方法を試す際には、率先して人手を集め、必要な道具を用意する。
また、村の子供たちに読み書きや計算を教えるナハリのために、場所を提供したり教材を集めたりもした。
二人は共に村のために尽力するうちに、強い信頼感で結ばれガイシャは、ナハリの聡明さと優しさに心惹かれ行動力と温かさに安らぎを感じる。
ガイシャは、時折照れくさそうにしながらも自分の想いを伝えるようになり、少し強引ながらも真剣な眼差しに、ナハリの心もゆっくりと開かれていく。
追放先での生活は決して楽ではなかったが、村人たちとの温かい触れ合いの中でゆっくりと自分の居場所を見つけた。
故郷への想いが完全に消えることはないが時折、冷たい叔父家族の顔や閉鎖的な祖国の社会の様子が思い出され、胸が痛む。
そんなある日、故郷から逃げてきたという旅人から、祖国がますます腐敗し、民衆が苦しんでいるという話を聞く。重税に苦しみ、不正が横行し貧しいし、明日をも知れない生活を送っているという話を聞いて、いてもたってもいられなくなった。
自分を冷遇し追い出した国ではあるけれど、そこに住む人々は苦しんでいる。記憶にあるような、自由で平等な社会を国にもたらしたいという強い思いが、湧き上がると息を吐く。ガイシャに自分の決意を打ち明けると驚きながらも熱意に心を動かされたらしい。
「一緒に行く。お前が目指す世界を見てみたい」
照れたように力強く言う。二人は村人たちに別れを告げ、祖国へと向かう。知識とガイシャの行動力、二人のカリスマ性に惹かれた。
村人たちの中には「私たちも共に戦いたい」と申し出る者も現れる。
こうして、小さな村から始まった革命の火はゆっくりと燃え広がり始めると様々な知識を動員して、効率的な組織運営の方法や民衆を味方につけるための戦略、時には相手の意表を突くような奇策を。
ガイシャは持ち前の武力とリーダーシップで、計画を実行に移した。二人のもとには不正に苦しむ人が次々と集まり、掲げる自由と平等の理念は瞬く間に国中に広がると、多くの民衆の心を掴んだ。
叔父家族をはじめとする既得権益層は、勢いを恐れて様々な妨害工作を仕掛けたが、ナハリとガイシャ、民衆の熱意の前に全て打ち砕かれた。
ついにナハリとガイシャ率いる革命軍は王都へと進撃を開始し、王宮を守る兵士たちは勢いに恐れをなし次々と降伏していく。
叔父家族は最後まで抵抗を試みたが、民衆の怒りの前に為す術もなく捕らえられ、胸がスッキリ。
王都を制圧したナハリは新しい国の樹立を宣言し、民主主義の理念に基づき国民一人ひとりが平等な権利を持ち、自由に意見を表明することができる社会を目指し、ガイシャはナハリのそばで新しい国の礎を築くために奔走した。
持ち前の行動力と人望で混乱した社会の秩序を取り戻し、新しい政府の安定に大きく貢献、ゆっくりと安定していく中で関係もより一層深まる。
ガイシャは、相変わらず少しばかり俺様気質なところはあったが、ナハリの意見を尊重して夢を全力で支えた。ナハリもまた、不器用ながらも温かい愛情に包まれ心穏やかな日々を送るようになる。
新しい国は現代の知識とガイシャの行動力、民衆の熱意によってゆっくりと発展を遂げていく。教育制度が改革され、新しい産業が生まれて生活は以前よりもずっと豊かになった。
冷遇し、追い出した叔父家族は自分たちの犯した罪を悟り、深く後悔した。後悔されても、今更だなとしか思わないが、憎むのではなく新しい社会の一員として、共に生きていく道を選ぶ。
仕方ない、皆が見てる前でメタメタにできないし?
もっと彼らが忘れ去れたあとに、じっくり煮ればいいのだとにっこり笑って内心憤怒を溜め込んで時を待つことにした。




