58 錬金術をお前の趣味は汚い鉄くずをいじるだけの下賤なまじないだと捨てられるが旧王国はその技術援助がなければ一日も持たない属国へと成り下がった
公爵令嬢のフォロンは宮廷の地下深くに閉じ込められていた。天才的な錬金術師だが、才能は王太子ペアベルには理解されなくて。
「フォロン。お前の趣味は汚い鉄くずをいじるだけの下賤なまじないだ」
ペアベルは吐き捨てる。彼の隣には癒やしの光を使う聖女コナータがいた。コナータはフォロンの錬金術を悪魔の技だと訴えたのだ。
「国を守るのは光の力だ。汚れた術師は不要。しかも、お前はコナータの聖具を盗もうとした罪人」
もちろん、聖具盗難はコナータの嘘。だが、ペアベルはコナータに夢中で言い分など聞く耳を持たない。
「断罪し、死の砂漠へ追放する。二度と戻ってくるな」
錬金術の研究道具はすべて砕かれ、彼女はボロ布一枚で灼熱の砂漠の真ん中に放り出された。
(裏切った王太子と技術を奪った聖女。必ず見返す)
フォロンの目に砂漠の太陽よりも鋭い光が。砂漠は地獄。水も食料もない。奇跡的に伝説の錬金術師の隠れ家を見つける。
隠れ家には破壊されずに残された高度な錬金術の文献と道具があった。追放された絶望を力に変えた。水を探し、植物の種を分析し、砂や石から有用な物質を取り出す実験を始める。
空気中の湿気を集め、錬金術で純粋な水に変える。砂漠に自生する毒草から、毒を取り除き、栄養価の高い食べ物を作る。
普通の砂鉄を、硬度と軽さを兼ね備えた新しい合金に変える。追放される前よりも遥かに強力な錬金術の奥義を習得していく。
数年後には灼熱の砂漠を、緑豊かなオアシス都市に変えていた。作った超硬合金で作られた武器や道具は周辺の国々で引っ張りだこ。フォロンは砂漠の女王、鋼鉄の支配者と呼ばれるようになる。
その頃、ペアベル王子の国は大変なことになっていた。聖女コナータは癒やしの力はあっても、国の経済や軍事には何の役にも立たない。フォロンの錬金術で作られていた国のインフラはボロボロになり、隣国との戦争では超硬合金に歯が立たず惨敗。
国は完全に破綻したとペアベル王子は、藁にもすがる思いで、砂漠の鋼鉄の支配者に助けを求めに行く。
砂漠のオアシス都市で、ペアベルが見たのは、豪華な王座に座り、強大な護衛に囲まれた威厳あるフォロンの姿。
「お、お久しぶりです、フォロン…」
ペアベルは震えながら膝をつく。隣には、やつれて自信を失ったコナータが立っている。フォロンは冷たい目でペアベルを見下ろす。
「ふざけるな。私を追放し、全てを奪ったくせに。なぜ、私に助けを求めるの?最低」
ペアベルは必死に懇願する。
「ひ!?ど、どうか、どうかフォロン。我が国を救ってくれ。錬金術が必要だ!」
フォロンは笑う。嘲笑だ。
「いいよ……助けてあげてもいい。ただし条件がある」
たった一つの条件を言い放った。
「お前とお前の愛する聖女コナータが、私の国の永遠の奴隷となること。そして、私の錬金術の実験材料になること」
ペアベルとコナータは顔面蒼白になる。最高の勝利を収め、砂漠の女王として自らの帝国を築き上げた。
ペアベル王子と聖女コナータは、フォロンの都市の地下施設へ連行された。与えられたのは粗末な服と、毎日重い荷物を運ぶ単純労働。高貴な身分だった二人にとってそれは生き地獄。フォロンの条件は厳格に実行された。
ペアベルは毎朝、都市の排水処理施設で泥まみれになり、夜はフォロンの実験炉に燃料をくべる雑用係。
コナータは悪魔の術だと罵った錬金術の素材を、ひたすら分類する作業。彼女の癒やしの力は肉体労働の疲れを癒やすこともできず、無力な女性となった。
フォロンは、二人を直接罰することはしなかったが彼らが過去自分に与えた苦痛を、彼らの手で再現させた。
ある日、ペアベルはフォロンの執務室に呼び出された。新しい強力な魔導砲の設計図を広げている。
「ペアベル。これ」
フォロンが指差した先。設計図には魔導砲の心臓部となる動力源の記載があった。
「これは」
ペアベルは目を見開く。動力源は生きた人間の精神力を抽出してエネルギーに変える禁断の錬金術だ。フォロンは冷酷な笑みを浮かべる。
「動力源の開発助手をやること。最終的に動力源にふさわしい最高の被験者を見つけること」
「最高の被験者…?」
ペアベルは恐怖に声が震える。
「そう。強大な精神力を持つ権力者。ふふ……探すのに苦労はしないでしょ?」
それは、ペアベルとコナータがいつか自分たちが実験台にされるかもしれないという絶望的な恐怖を味わい続けることを意味していた。
フォロンは、ペアベルたちを奴隷にしたことで得た賠償金と技術を元に、砂漠の都市をさらに発展させて開発した超効率的な水資源管理システムと無公害エネルギーは、周辺の国々から熱望される。
フォロンは資源と技術を武器に瞬く間に外交のトップに立つ。錬金術は汚い術ではなく世界を豊かにする最高の科学として認められた。
フォロンの国は鋼鉄と知識の帝国として、大陸で豊かで技術力のある大国となる。追放したペアベルの旧王国はフォロンの技術援助がなければ、一日も持たない属国へと成り下がった。
フォロンの傍らには、彼女の才能を理解し、冷酷さをも受け入れた隣国の貴族が最高顧問として常に寄り添っていた。幸せを噛み締める。




