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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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55/61

55 痛快!前世の愛猫が鬼強ツンデレ番に大変身!?~異世界転生したら妹のせいでピンチだけど、最強の彼が全部解決してくれた件~

 あらすじ

 異世界に転生した主人公は、前世で飼っていた黒猫がつがいの影狼として現れ、強い絆で結ばれる。しかし、同じく転生してきた妹の美羽は、歪んだ前世の記憶から主人公を激しく憎み、罠にはめる。絶体絶命のピンチを影狼の圧倒的な力で救われるも、妹の憎しみの根源を探ることに。やがて、妹の孤独と誤解を知った主人公は、影狼と共に妹と再び向き合い、姉妹の絆を取り戻そうと決意する。最強の番と妹との間で揺れ動く、明るくも切ない異世界転生譚。




「うぐっ……う!!」


 冷たい床に叩きつけられ、体から空気が押し出される。鈍い痛みが全身を駆け巡り、思わず呻いた。

 目の前には、勝ち誇ったようにこちらを見下ろす妹、美羽みうの姿。瞳にはいつも向けられる、憎悪の色が濃く滲んでいる。いつもの蔑まれた色。


「姉さん、本当に間抜けね。こんなにも簡単に手に落ちるなんて」


 美羽の声は甘く、奥には氷のような冷たさが潜んでいる。一体、いつからこんな風になってしまったのだろう。異世界に転生してきた日から、関係は歪み始めた。前世で交通事故に遭い、意識を取り戻した時、そこは見慣れない森の中だった。


 言葉も通じない、見たこともない植物や動物たち。混乱する自身を助けてくれたのは、住人である心優しい老夫婦。彼らの家でしばらく世話になり、少しずつこの世界の言葉や文化を学んでいった。


 十六歳になった日。番と呼ばれる、魂の伴侶となる存在がいることを知った。番を持つ者は互いに強い絆で結ばれ、力を分け合い、生涯を共にするとされる。番は、時に信じられないほどの強大な力を持つという。


 番となる存在が現れたのはすぐ後のことだった。満月の夜、森の中で不思議な光に包まれた一匹の黒猫に出会ったのだ。漆黒の毛並み、吸い込まれそうなほど深い金色の瞳。

 殆ど見た目が猫を見た瞬間、胸に言いようのない懐かしさが込み上げてきた。ずっと前から知っていたような、不思議な感覚。


 次の瞬間、信じられない姿へと変化した。光が収まると立っていたのは、息をのむほど美しい青年。黒曜石のような髪、月明かりを宿したような瞳。表情はどこか不機嫌そうで、口元はへの字に結ばれている。


「……貴様は」


 青年の低い声が夜の静寂を破った。驚きで言葉を失いながらも、なぜか彼の瞳から目が離せなかった。


「あ、あの……あなたは?」


「俺は影狼かげろう。貴様の番となる者だ」


 彼の言葉にさらに目を丸くした。影狼……?どこかで聞いたことがあるような名前。前世で私が飼っていた黒猫の名前?転生して番になったというのだろうか?


 信じられない気持ちでいっぱいだったけれど、影狼の瞳に宿る深い光を見た時、間違いなく大切な家族だったクロだとわかった。再会を喜び、すぐに惹かれ合う。


 影狼は普段はぶっきらぼうだけれど、誰よりも大切に思ってくれる。強大な力はこちらを守るために惜しみなく使われた。

 しかし、平穏な日々は突然終わりを告げた。妹の美羽がこの世界に現れたのだ。なぜ彼女がここにいるのか、どうやって来たのか全く分からなかった。


 けれど、再会した妹は異常なまでの敵意を剥き出しにした。ごく普通の姉妹だった。仲が良いとは言えなかったけれど、憎しみ合うようなこともなかったはずだ。一体、彼女に何があったのだろう。


 美羽は強大な力を持つ一族の庇護を受け、みるみるうちに力をつけていった。力を使って何度も陥れようとしたのだ。

 嫉妬、憎悪、様々な負の感情が彼女を突き動かしているようだった。今回のことも美羽の罠。油断していたから、卑劣な策略にまんまと引っかかってしまったのだ。


「これで終わりよ、姉さん。あなたの存在が私をずっと苦しめてきたの。消えてちょうだい!」


 美羽はそう叫び、手に持った短剣を振り上げた。鋭い刃が目を射抜こうとする。もう、終わりだ……そう思った瞬間、信じられない速さで黒い影が前に現れた。


「貴様ごときが触れるな!」


 低い咆哮と共に影狼が獣の姿へと変化する。巨大な黒狼。鋭い牙、鋼のような爪、全てを見透かすような金色の瞳。圧倒的な威圧感に美羽は息を呑んだ。


「なっ……!?」


 影狼は美羽が持っていた短剣をいとも簡単に弾き飛ばし、恐ろしい速さで彼女に迫る。美羽は悲鳴を上げながら後退するが影狼の動きは、それを許さない。


「ぐっ……や、やめろ!」


 美羽の抵抗も虚しく、影狼の巨大な爪が彼女を捉える。影狼は寸前で動きを止めた。殺気は十分に伝わるものの、決定的な一撃は加えられない。


「影狼……!」


 思わず彼の名を呼んだ。可愛がっていた猫だ。根は優しい。必要以上に傷つけるようなことはしないはず。声を聞いた影狼はちらりと、こちらを振り返った金色の瞳には深い愛情と美羽への怒りが入り混じっている。


「……あるじの命とあらば」


 影狼は呟くと美羽を拘束するように地面に押さえつけた。美羽は恐怖で顔を歪め、必死に抵抗しようとするが影狼の力には全く敵わない。


「こ、こんなのって……!」


 美羽は信じられないといった表情で影狼を見上げる。姉の番がこれほどまでに強いとは、想像もしていなかったのだろう。


「美羽、一体どうして……こんなことをするの?」


 地面に押さえつけられたままの妹に問いかけた。瞳には依然として強い憎しみが宿っている。なぜ?


「うるさい!あんたさえいなければ、もっと幸せになれたのに!あんたのせいで人生は狂ったのよ!」


「私のせい……?」


 胸に突き刺さる。一体、何がそこまで憎ませるのだろう。前世の記憶を辿っても傷つけた覚えはない。


「そうよ!あんたはいつもそうやって人のものを奪っていく!大切なものを、全部!」


 美羽の言葉は支離滅裂で意味がよく分からない。深い憎しみだけは痛いほど伝わってくる。その時、影狼が低い声で唸った。彼の全身から抑えきれないほどの怒りのオーラが溢れ出ている。


「主に対して、何という口をきくか!」


 影狼がさらに力を込めようとしたその時、慌てて名前を呼んだ。


「待って、影狼!殺さないで!」


 影狼は動きを止めた。不満そうに鼻を鳴らしながらも、じっと見つめている。


「……主がそう望むなら」


 影狼は渋々といった様子で力を緩めた。美羽は解放されると荒い息をつきながら睨みつけた。


「覚えておきなさい、姉さん!こんなことで終わりじゃないわ!絶対にあんたを不幸にしてやる!」


 言い残して、美羽はどこかへと走り去って行った。残されたのは私と、獣の姿から青年の姿に戻った影狼。


「大丈夫か、主?」


 影狼は心配そうに体を起こしてくれた。優しい眼差しに触れ、張り詰めていた心がようやく緩む。


「うん、ありがとう、影狼。あなたがいてくれて、本当によかった」


 心から思った。影狼がいなければ今頃どうなっていただろう。想像もしたくない。


「ふん、当たり前だ。俺はお前の番だ。お前を守るのは義務だ」


 影狼はそう言いながらも、どこか照れたように顔を背けた。ツンデレな態度もたまらなく愛おしい。


「でも、美羽は一体どうしてあんな風になってしまったんだろう……」


 去っていった妹の背中を思い浮かべながら呟いた。憎しみの根源を探らなければ、きっとまた同じようなことが繰り返されるだろう。


「……分からない。だが、もし再び主を傷つけようとするならば、今度こそ容赦はしない」


 影狼の瞳が光を帯びる。強い決意がひしひしと伝わってきた。美羽の謎を解き明かすために動き始めた。世界に来た経緯、抱く異常なまでの憎しみの理由。それらを突き止めなければ、平穏な日々は永遠に訪れないだろう。


 影狼と共に様々な情報を集め、手がかりを探した。歴史、魔法、異世界からの来訪者について。図書館に通い、話を聞き、時には危険な場所にも足を踏み入れた。

 その中で、驚くべき事実を知ることになる。美羽は転生するよりもずっと以前から、この世界に存在していたらしいのだ。強力な力を持つ一族に拾われ、特別な教育を受けて育ったという。


 さらに信じられないことに、彼女は前世の記憶の一部を受け継いでいるようなのだけれど、記憶は歪んでいて誤解や恨みに満ちていた。


 どうやら、美羽は前世で何か彼女の大切なものを奪ったと思い込んでいるらしい。全く身に覚えがない。一体、何が彼女の記憶を歪めてしまったのだろうか。


 謎を解く鍵となる人物を探し出した。美羽が保護された一族の長老。この世界に来た時のことを詳しく知っているという。会いに行き、美羽のことを尋ねた。長老は深い悲しみを湛えた瞳で見つめ、ゆっくりと語り始めた。


 美羽は幼い頃に不思議な力に目覚め、力のために家族から恐れられ、孤独の中で生きてきたという。そんな時、偶然、前世の記憶の断片を見たらしい。

 記憶の中で美羽にとって、かけがえのない何かを奪った悪人として描かれていたのだ。

 孤独と絶望の中で生きてきた美羽にとって、歪んだ記憶は憎しみの拠り所となってしまったのだ。


 真実を知って言葉を失った。美羽もまた、過去の悲劇の犠牲者。憎しみは、歪んだ記憶と孤独が生み出した。もう一度向き合おう。誤解を解き、真実を伝えるそれが、できる唯一のことだと信じたからだ。


 再び美羽の前に現れ、警戒の色を露わにした。でも、逃げなかった。影狼は静かに隣に立ち、守るように存在感を示している。美羽にゆっくりと語り始めた。


 前世のこと、普通の姉妹としての時間、誤解しているであろう出来事について。最初は美羽の耳に届かなかった。激しく抵抗し、拒絶した。諦めなかった。何度も何度も根気強く語りかけた。嘘も偽りもなく、真実を伝えたいという強い思いだけがある。


 瞳に変化が現れた。憎しみと敵意の奥に、戸惑いと苦悩の色が垣間見えたのだ。わずかながら言葉が届き始めたのかもしれない。最後に美羽に言った。


「美羽、私たちは姉妹でしょう?確かに前世ではうまくコミュニケーションが取れなかったかもしれない。けれどあなたを憎んだことなんて一度もない。どうか言葉を信じてほしい」


 言葉が終わると美羽は静かに涙を流し始めた。憎しみや怒りの涙ではなく、悲しみと混乱の涙のように見えた。こちらも涙が浮かぶ。


「信じられない。そんな……の」


 美羽は震える声で呟いた。何かが崩れ始めている。その時、影狼がそっと肩に手を置いた温かさが勇気を与えてくれる。


「主は嘘などつかない。俺保証する」


 普段はぶっきらぼうな影狼の力強い言葉が、美羽の心にさらに響いたのかもしれない。美羽はしばらくの間、俯いて静かに泣いていた。

 ゆっくりと顔を上げ、私たちを見つめた。瞳にはまだ迷いがあるものの、以前のような激しい憎しみは消えている。


「……私、間違っていたの?」


 問いかけというよりも、自分自身への問いかけのように聞こえる。優しく微笑み、美羽に手を差し伸べた。


「私たちは、もう一度やり直せる。そうでしょう?」


 差し出した手を、震える指先でそっと握り返した瞬間、長年のわだかまりが解けたような温かい光が間に広がった気がした。もちろん、これで全てが解決したわけではない。美羽が抱えてきた心の傷は深く、簡単に癒えるものではないだろう。


 最初の一歩を踏み出すことができた。

 影狼はこれからもずっとそばにいて、守ってくれるだろう。妹との絆を再び築き、共にこの異世界で生きていきたいと心から願った。


 太陽がゆっくりと昇り始め、優しく照らす新しい一日が、希望に満ちた一日となることを確信していた。

 妹とも心から笑い合える日が来ると信じている。

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