53画家令嬢のデッサン帳と色を失った追放。もう誰かのために描くのはやめました。村のために描いていますのであなたたたのためになんて描きません
絵/追放
絵を描くのが大好きで、特に風景画の才能はピカイチだった。王太子カラカダという婚約者がいたが、テーティの絵を理解してくれないどころか。
「テーティ。お前の絵は地味で汚い」
カラカダは一生懸命描いたスケッチブックを破り捨ててしまった。隣には、鮮やかな色使いの肖像画が得意な伯爵令嬢ミラベルが。そんなミラベルが。
「私の絵こそ王家の威厳にふさわしいわ。テーティ様の絵は陰気で縁起が悪いわ」
もちろん、これはミラベルのウソ。テーティの才能に嫉妬してカラカダを操っていたのだ。カラカダはテーティを指さして言う。
「私の隣にいる資格がない!今日から貴族の身分を剥奪し、芸術が禁じられた北の村へ追放する!」
テーティはショックで何も言えなかった。大好きな絵を否定され、筆もパレットも取り上げられて寂しい荷物だけを持って、遠い北の村へ送られてしまう。心からすべての色が消えた。そも、彼に貴族をどうこうする権限はないのに。
追放された村は無彩の村と呼ばれている。そこでは昔から絵を描くと不幸になるという迷信があり誰もが色を避けて暮らしていた。家も服もすべて灰色や茶色ばかり。でも、テーティは諦めない。
「絵が描けないなら色を作る」
村の裏山に分け入り、ひっそりと育っている草や花や石を研究し始める。
村人たちが無視していた植物や土から、驚くほど美しい天然の顔料を作り出す方法を見つけ、顔料を使って村の美しい景色や優しい笑顔を隠れて描き続けた。
色を避ける村の人たちに花の色を使った優しい染物や、土の色で作ったかわいい陶器をプレゼントした。最初は怖がっていた村人たちもテーティの作品の温かさに触れて、少しずつ心を開き始める。
数年後、テーティの作る色と絵は村の秘密の宝物になっていた。
その頃、王都ではカラカダとミラベルが結婚していた。でも、ミラベルの描く絵はカラカダの威厳ばかりを強調する、冷たくてつまらないものばかり。
国中の雰囲気がなんだか灰色になっていく。さらに、カラカダが大切にしていた宮殿の壁画が、急に色あせてボロボロになってしまう事件が起きた。
ミラベルの絵の具が実は安物で、長く持たないものだったのだ。カラカダは慌てた。
「壁画を直せるのは本物の才能を持つ画家だけだ」
探させた結果、北の無彩の村に、生きた色を作り出す天才がいるという噂を聞きつけるとカラカダはミラベルを連れて、半信半疑で村へ向かう。
村に着いたカラカダが見たのはカラフルな染物が風になびき、生き生きとした笑顔があふれる、活気ある村の姿。
そして、村の中心で優しい光を放つような絵を描いている女性を見つけ。
「テーティ?」
自信に満ちたテーティの姿は王都にいた時よりも何倍も美しかった。隣にはテーティの才能を尊敬する村の頼れる青年が立っている。彼女は彼らに微笑みかけた。
「カラカダ王子ようこそ、私たちの色のある世界へ」
カラカダは自分が追放したテーティが、色を禁じられた場所で芸術を咲かせたことに気づき、顔が青ざめた。
カラカダ王子とミラベルはテーティが作った、色にあふれた村を見てただただ驚いて必死にに話しかけた。
「テーティ、君の力が今、国に必要なんだ。壁画を直してくれないか」
テーティは冷たい目でカラカダを見た。
「私の絵は昔、あなたが地味で汚いと言って破り捨てたものでしょう?なにを今更」
ミラベルは焦って口を挟んだ。
「テーティ様!私たちが間違っていました。お願いです、私の名誉のためにも早く王都に戻ってきて」
テーティはふっと笑う。
「あなたたちのために、ですか?いいえ、私はもう誰かのために描くのはやめました。村のために描いていますので、あなたたたのためになんて描きません」
ミラベルの描いた絵の具について。
「ミラベルさんの絵の具は安くて派手な色だけど、長持ちしない偽物でしょう?だから、宮殿の壁画はボロボロになった」
「う」
ミラベルは顔が真っ赤になり、何も言い返せなかった。自分の嘘と嫉妬がすべてバレてしまったのだから。テーティは、カラカダに告げる。
「壁画を直すことはできます。そうですね?なら、条件があります」
出した条件はシンプルだったけれど、カラカダにとっては厳しいもの。謝罪と許可。カラカダ王子は公の場でテーティに謝罪し、王国のすべての場所で誰もが自由に絵を描けるようにすること。
芸術を禁止する迷信や法律をすべてなくすこと。
ミラベルは、テーティの村へ来て顔料の原料となる草花を一年間、毎日丁寧に育てること。華やかな服もきらびやかな宝石も、ここでは必要ないと教えること。
これからは、カラカダではなく専門家が絵の価値を決めること。カラカダは迷ったものの国の未来のために、条件を飲むしかなかった。絵に対する真剣さと優しさにやっと気づいたのだ。
王都に戻ったカラカダはすぐに国民の前でテーティへの謝罪を発表した。そして、芸術を自由にする法律を作る。王都の人は再び自由に絵を描けるようになり、国中に明るい色が戻ってきた。
ミラベルは約束通り村へ送られ、毎日泥だらけになりながら、草花を育てた。最初は泣いていたけれど、次第に自分の手で色を作り出すことの楽しさを理解し始める。
テーティは、王都へ戻ることを選ばない。以後、村へ戻った。無彩の村に対して芸術と色の里という新しい名前をつけ、絵を描き続ける。村の頼れる青年は才能と優しさを支える一番の協力者になった。
カラカダ王子は時々、村へ来てはテーティの描いた新しい風景画を静かに眺めるようになった。もう、前の傲慢な王子ではない。
暗くてつらい始まりから、自分の才能と信念で世界に新しい色をプレゼントしたのだ。
絵は国で一番愛される宝物になった。




