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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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48/60

48王宮ミステリー夫婦。昨夜、国の重要人物である大臣が晩餐会の最中に毒を盛られて倒れた

ほのぼの

 それはとても素敵な品で。つい、見惚れた。うっとりした顔を浮かべてじっくり観察する。


「ねえ、あなた、この香辛料すごくない?」


 王宮の一室で、目の前の小さな陶器に入った粉末を凝視していた。鮮やかな赤色、鼻をくすぐるような甘さと微かな刺激臭。これはただの珍しい、香辛料じゃない。


「どうしたんだい、ミスティ。そんなに真剣な顔をして」


 心配そうな顔で覗き込んでくるのは、夫であり、この国の若き王でもあるライシル。幼馴染で、顔立ちも性格も穏やかな彼だけど、今は王としての威厳を湛えている。まあ、妻にとってはいつまでも優しい人なんだけど。


「だってこれ、匂いが夢で使ってたパプリカにちょっと似てる。でも、なんかこうもっとこう、ツンとした毒みたいな匂いが混じってる気がするの」


 そう言って、陶器をライシルに差し出した。彼は少し訝しげな表情をしながらも、慎重に匂いを嗅いだ。


「うむ確かに、ただの香辛料ではないな。これは、昨夜の晩餐会で出された料理に使われていたものだ。大臣が、突然苦しみ出して」


 ライシルの声は重い。昨夜、国の重要人物である大臣が、晩餐会の最中に毒を盛られて倒れたのだ。

 原因はいまだ不明。王宮全体が、見えない不安に包まれている。


「ねえ、ライくん。あのさ、もっと現場検証をしっかりしないと!」


 立ち上がり、きらびやかな装飾が施された部屋を見回す。絨毯の模様、置かれた花瓶、壁に飾られた美しいタペストリー。でも、そんなものの中に事件の真相が隠されているとは限らない。


「現場検証、とは?」


 ライシルは不思議そうに眉をひそめた。そりゃそうだよね、この世界に現場検証なんて言葉はないんだから。


「えっとね、事件が起きた場所を隅々まで調べること!足跡とか、落ちていたものとか、そういう細かいところにヒントが隠されているかもしれないんだよ?夢中の警察はね、ルーペとか使って、本当に細かいところまで見るの!」


 熱っぽく語った。ライシルは少し呆れたような、でもどこか興味深そうな顔で私を見ている。


「ルーペ、か。面白いな、ミスティ。君のそういう突飛な発想は、いつも私を驚かせる」


「突飛じゃないってば。ほら、昨日の晩餐会があった広間にもう一度行ってみよう。大臣が倒れた場所とか、周りの人の様子とか、もう一度詳しく調べる」


 ライシルの手を引っ張る。広間は、昨夜の華やかさが嘘のように静まり返っていた。豪華なシャンデリアは消え、窓から差し込む太陽。床に残るわずかな汚れを照らし出している。


「昨日は、ここに大臣が座っていた」


 ライシルに促され、大臣が倒れたという場所まで歩み寄った。床には、何かを拭き取ったような跡がうっすらと残っている。


「侍従たちが、すぐに片付けたそうだ」


 ライシルが少し残念そうに言った。やっぱり、初動捜査が甘いんだよなあこの世界は。


「うーんでも、何か手がかりが残っているかもしれない。ちょっと、その辺りをよく見てみて」


 そう言って、しゃがみ込んだ。ライシルもすぐに意図を理解し、一緒に床やテーブルの下を注意深く調べ始める。彼の美しい王族の衣装が、床につかないように気をつけながら。


「何か見つかったか、ミスティ?」


 しばらく探した後、ライシルが声をかけた。首を横に振る。


「まだ。でも、このテーブルクロス、ちょっとおかしくない?」


 大臣が座っていたテーブルの端を指さした。よく見ると、テーブルクロスにごく小さな、ほとんど目立たないシミのようなものが付いている。


「シミ?昨夜の食べ物の染みだろうか」


 ライシルはそう言うけれど、首を横に振った。


「違う。もっとこうインクみたいな、でもちょっと違う感じの色と質感。それに、このシミの周りだけ、布の繊維が少し溶けてるみたいに見える」


 自分のハンカチを取り出し、そのシミをちょっと擦ってみると微かに刺激臭が鼻を突いた。


「やっぱり!これ、ただの染みじゃない!何か強い連鎖反応を起こしたんじゃないかな」


 言葉に、ライシルの表情が険しくなった。


「君は、一体何を知っているんだ?」


「夢でいた世界ではね毒物の中には、物に付着すると変化を起こして痕跡を残すものがある。もしかしたら、このシミが犯人が使った毒の手がかりになるかもしれない」


 立ち上がりライシルに興奮気味に言った。


「ライくん、このテーブルクロスを詳しく調べさせて。それと昨夜、このテーブルの周りにいた人たちの証言も、もう一度聞き直すべき。きっと何か見落としていることがあるはず」


 力強い言葉にライシルはしばらく考え込んだ後、力強く頷いた。


「わかったミスティ。君の言う通りにしよう。私も、もう一度、関係者たちに話を聞いてみる。君の現代の知識とやらが難事件を解決する鍵になるかもしれないな」


 ライシルの言葉に小さくガッツポーズ。よし、これで捜査は大きく前進するはず。


「ミスティ」


 真剣な顔で捜査の話をしていたライシルが、急に優しい眼差しで見つめてきた。そして、少し照れたように、手を握りしめる。


「君が真剣になってくれることが、とても嬉しいんだ。だからその」


 普段は堂々とした王様なのにこんな風にピュアな部分を見せられると。キュンとしちゃうんですよね〜。彼の潤む瞳が、じっと見つめている。


「だから?」


 からかうように聞き返してみた。


「だからその少しだけ、君の温もりを感じても、いいだろうか?」


 彼の顔が、ほんのり赤くなっている。普段は愛情表現をするタイプじゃないから、こういう時の彼は本当に可愛い。


「もう、ライくんったら」


 思わずクスッと笑って、彼の頬に手を添えた。


「こんな大事な事件の前なのに、集中力がなくなっちゃうよ?」


 そう言いながらも顔は自然と彼の顔に近づいていく。彼の吐息が唇にかかる。


「君のキスは、何より愛を高める妙薬だ」


 なんて甘い言葉を囁くんでしょう、この人は。まったく、昔から口だけは達者なんだから。


「仕方ないなぁ」


 そう言って、彼の唇にそっと自分の唇を重ねたキスは愛情がたっぷりと伝わってくる。


「さあ、これでプライベートな時間は終わり。早く、この未遂事件を解決しよう?」


 腕から身体を離し、再びテーブルクロスに視線を戻した。でも、顔はりんごみたいに赤いままだろうな。

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