45 白鳥麗華はごく普通。その手はね悪意の証。一生痛みを抱えて生きてください。愚かさを決して忘れないように。悪夢のような痛みはこれからも苛み続けるのだろう
現代/ざまぁ
白鳥麗華はごく普通の日本の女子高生だった。いや、ごく普通だった、と過去形で言えるのは数ヶ月前のことだ。
階段から転落し、その際に前世の記憶に目覚めたと同時に向けられる悪意を悪意を放った相手に返す、という不思議な力を手に入れた。
地味で目立たず、いつも理不尽な目に遭っていたけれどこの世界で前世とは比べ物にならない美貌を持って生まれる。力と相まって人生を大きく変えることになるし、美貌は常にトラブルを招いた。
放課後、学校の裏庭でクラスの女王様の宮田彩と取り巻きたちに囲まれてしまう。最悪。
「ちょっと、白鳥さん。あんた、なんでそんなに目立つの?まじムカつくんだけど」
制服の胸元を掴み、吐き捨てるように言った目には醜い嫉妬の炎が燃え上がっていた。彩の取り巻きたちは、面白そうに私を囲んでいる理不尽な状況に冷たい怒りが湧き上がる。怒りが能力を活性化していく。
「宮田さん、手……もう二度と私に触れられなくなりますよ」
彩は嘲笑した。
「は?何言ってんの、このブスが」
次の瞬間、彩の表情が凍りついた。手から火傷したかのような激痛が走り、掴んでいた制服から手を離す。
「いっ、痛い……!何これ、熱い!」
彩は自分の手を握りしめ、顔を歪めて悲鳴を上げた。しかし、その手はまるで火に焼かれたように赤く腫れ上がり、見る間にも醜い水ぶくれができていく。
それは、魔力が悪意を放った相手の体の一部に、その悪意を痛みとして刻み込む呪い。一度発動すれば、二度と消えない。
「あんた、まさか呪いでもかけたの!?」
彩は恐怖に震えながら、醜い手を何度も見つめていた。彼女の取り巻きたちも異様な光景に顔を青ざめさせ、彩から距離を取り始めた。彩に近づき、静かに囁く。
「さようなら、宮田さん。その手はね、悪意の証。一生、痛みを抱えて生きてください。愚かさを決して忘れないようにね」
彩に背を向けて後にした。
街で有名なモデル、青山ユウ。同じ高校の三年生で完璧なルックスと、冷酷な性格で知られていた。
自分のモデルとしての地位を脅かす存在だと考え、ネット上で陰湿な嫌がらせを繰り返し、取り巻きは顔だけの女と罵りネット上の掲示板に容姿を中傷する書き込みが溢れる。
この程度の悪意には慣れていた。放つ悪意はただの反撃のスイッチでしかないのにユウは呼び出し、嘲笑する。
「ねえ、白鳥さん。君みたいな素人が土俵に上がろうなんて、無理な話だよ。はは。ま、せいぜい頑張ってよ」
言葉には愚弄して貶めようとする悪意が満ちていた。瞬間、魔力がユウが持っていた携帯電話へと流れていくと、力は悪意が放たれた媒体にも影響を及ぼす。
「そうですね。では、あなたの土俵で破滅させてあげます」
ユウは顔を歪めた時、携帯電話から聞いたこともないような高音が鳴り響いた。携帯は悪意を吸い取り、増幅させてから体へと返す。
「な、なんだこれ!」
携帯電話を放り投げた。携帯電話の画面に顔を嘲笑うような、無数の顔文字が浮かび上がるとスマートフォンからネットに書き込んだ、中傷するコメントが大音量で読み上げられ始める。
「……顔だけの女」
「……才能なんてない」
「……整形女」
「……一生僕の足元にも及ばない」
悪意ある言葉が周りにいた人に、大音量でさらされていく。ユウは真っ青な顔で携帯電話を必死に踏み潰そうとしたが、携帯は生きているかのように足元から逃げ回る。
「やめろ!やめろおおおお!」
悲鳴は、放った悪意の言葉に掻き消されていった。悪行は最も大切にしている名声と顔を、自ら汚すことになったのだ。崩れ落ちたユウに背を向ける。
「ごきげんよう、青山さん。言葉は誰にも届かないでしょう。孤立させるのも無理だし。自業自得です」
幼馴染の藤原ハヤトはこちらの美貌を利用して、自分の人気を高めようとしていた。優しく接し、誰もが羨むような友情を演じていた裏では秘密を周囲に言いふらし、困惑する姿を見て楽しんでいたらしい。
「麗華、お前みたいな子が一人でいるなんて許さないよ。いつでも俺を頼ってくれ」
ハヤトは周りの生徒たちの前で言った言葉は、天使のようだったが心の中は利用しようとする醜い欲望に満ちていた。能力はハヤトが持つ友情という感情に作用する。
「ありがとう、ハヤト。でも、もうあなたを頼ることはありませんので」
ハヤトは怪訝な顔をした。
「どうしたんだよ?何かあったのか?」
周りにいた生徒たちがざわめき始めた。知らないところで嘲笑していた会話が、頭の中に直接流れ込んでいたから。
「あいつ、マジチョロいから。俺が適当に優しくしとけば、なんでも言うこと聞くし」
「麗華は俺のアクセサリー。俺の価値を上げるための道具でしかない」
生徒たちはハヤトの裏の顔を知り、冷たい視線を向けた。顔を真っ青にして、生徒たちに弁解しようとしたが、言葉が出てこない。
「ち、違うんだ!これは、何かの間違いだ!だろ?」
しかし、生徒たちの心に直接響く魔力によって、かき消される。
「友情を演じることで私を利用しようとした偽りの心は、誰にも信じてもらえない」
周りから人々が離れていき、彼は一人、絶望的な顔で立ち尽くしていた。
有名なIT企業の社長、黒崎ユウトは美貌を金儲けの道具にしようと目論んでいた。わざわざ学校にまでやってきて、豪華なブランド品を送りつけ、自分の広告塔にしようと画策する。
「白鳥麗華さんの美貌は世界を変える力を持っている。私と組んで、世界を支配しないか」
得意げに笑う。モノとして扱うような、下劣な欲望が宿る男の悪意は能力を最大限に引き出す。
「支配?いいえ、支配されるのはあなた」
黒崎は笑い飛ばした。スマホから会社の不正なデータが、世界中の人に一斉に送信され始めるまでの天下の笑いであったが。
「な、なんだ!?」
黒崎は慌ててスマホを操作したが、データ送信は止まらないまま不正がすべて暴かれ、築き上げた会社は砂の城のように崩れていった。
「ありえない!私の会社が……うわあああああ!」
絶望的な顔で崩れゆく会社を遠くから見つめるしかなく、欲望は破滅へと導いたのだろう。
*
宮田彩。私にはすべてが思い通りになる人生が約束されていたはずだった。家柄も容姿も、成績も、すべてが完璧。学校で誰もが私に憧れ、私の言葉に耳を傾ける。
それが当然だと思っていた。だからあの日、白鳥麗華が現れた時、ひどく腹立たしくて。彼女は私よりも少しだけ、ほんの少しだけ容姿が抜きんでていたのだ。
それが、完璧な世界を侵食するような許しがたい違和感。彼女の制服の胸元を掴む。いつものことだ。取り巻きたちが嘲笑し、怯える。それが日常。
「あんた、なんでそんなに目立つの?まじムカつくんだけど」
彼女を貶める言葉を吐いた。当然、震えながら謝罪すると思っていたが、怯えるどころかじっと見つめ不気味に微笑んだ。
「宮田さん。その手、もう二度と私に触れられなくなりますよ」
ただの強がりだと思った……いや、そう思いたかった。次の瞬間、手から激痛が走り、目に見えない火に焼かれているようだった。悲鳴を上げて手を離し、床に崩れ落ちたあと、指先はみるみるうちに赤く腫れ上がり醜い水ぶくれができていく。
「いっ、痛い……!何これ、熱い!」
悲鳴に取り巻きたちは顔を青ざめさせ、距離を取った。彼女たちに助けを求めたが、彼女たちはただ恐怖の目で見つめるだけ。
「さようなら、宮田さん」
彼女は言い残し、背を向けた。その場でただ泣き叫ぶしかなく、痛みは病院に行っても治らない。皮膚科の先生は首を傾げるばかりで、原因さえわからない。
痛みは日増しに強くなり、誰かに触れることも触れられることもできなくなった、完璧な世界はたった一人の女のせいで音を立てて崩れ去った。
なぜ、こんな目に遭わなければならない?ただ、自分の世界を守りたかっただけなのに。白鳥麗華という存在を心から呪った。
この痛みは彼女のせいだ。すべては、あの女のせいなのだ。悪夢のような痛みは、これからも苛み続けるのだろう。




