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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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44 キャンディ作りの天才に弟子ができる。弟子は浮気で失恋して作る情熱を失いかけたが世知辛さや苦いも知ったのなら甘さがさらに際立つと静かに教えてみた

 キャンディ作りの天才、シャンテルは砂糖とシロップの甘い魔法で世界中の人を笑顔にしてきた。工房シュガー・ウィスパーは、いつしか、夢と希望が詰まった場所として知られるようになる。

 夢は叶う。シャンテルの元に、一人の少年が訪れ、名をリオンと名乗り、大きな瞳は希望に満ちているが、どこか影がある。


「シャンテルさん!僕に、キャンディ作りを教えてください!」


 リオンは、深々と頭を下げた。叫ぶように。


「なぜ?」

 シャンテルは、いつものように淡々と尋ねた。自分はそこまで感情的になれない。首を傾げる。


「僕の村は、いつも悲しいんです。みんな、笑顔を忘れてしまったみたいで。だから、僕は」


 リオンの声は震えていた。我慢するように。


「だから、僕が、みんなを笑顔にしたいんです。シャンテルさんのキャンディで、みんなの心を温めてあげたいんです!」


 リオンの純粋な思いに、シャンテルの心は揺さぶられた。


「わかった。でも、キャンディ作りは、魔法じゃない。努力とたくさんの失敗の先に本当の甘さがあるの」


 シャンテルは、リオンを工房に招き入れた。弟子のキャンディ作りは、困難の連続だ。熱いシロップに火傷を負い、砂糖を焦がし何度も何度も失敗を繰り返す。


「もう、だめだ……」


 リオンは、しゃがみ込んだ。え、となる。


「ねぇ、リオン」


 シャンテルは、失敗作のキャンディを一つ手に取った。


「失敗作、食べてみて」


 リオンは、言われるがままに失敗作を口にした。苦味で目が細まる。

「う……苦い」


「そう。でも、苦さを知っているからこそ、次に成功したときの甘さが、より一層輝く」


 シャンテルの言葉に瞳に、再び光が灯り、それからリオンは、失敗を恐れることなくひたむきにキャンディ作りに打ち込んだ。

 数ヶ月後、ついに一つのキャンディを完成させた。夜空に輝く星のような、美しいキャンディ。


「これは……!」


 シャンテルはキャンディを見て、息をのんだ。


「キャンディの名前はスター・ライト。村の夜空をもう一度、星でいっぱいにしたいという僕の願いが詰まっています。どうでしょう」


 リオンは誇らしげに胸を張り、完成したキャンディを手に、自分の村に帰った。

 村人たちは最初、リオンのキャンディに興味を示さなかったが、一人一人にキャンディを配り、キャンディに込められた想いを語ると、村人たちの表情は、少しずつ変わる。


「このキャンディ、なんだか、温かい味がする」


「昔の、みんなが笑っていた頃の思い出が、蘇ってくるようだ」


 一人の村人が、涙を流しながら言う。


「リオン、おかえり」


 それを皮切りに村中が、涙と笑顔で溢れかえった。リオンがシャンテルの工房に戻ったのは、それから数日後だ。


「シャンテルさん!僕、もっと、たくさんの人を笑顔にしたいです!」


 輝くような笑顔を見せられたシャンテルは元気な様子を見て、静かに微笑んだ。感情の動きは小さいが、弟子は喜んでくれていることを察する。


「そう。じゃあ、次の課題」


 シャンテルは一枚の地図を広げた。


「今度は、地図の一番遠くにある村。そこには、心を閉ざしてしまった、一人の王女がいる。彼女のために世界で一番、美味しいキャンディを作ってあげて」


 リオンの新たな挑戦が今、始まる。王女のために、これまでで一番美味しいキャンディを作ろうと、ひたむきに努力していた。


「頑張って!」


「ああ!」


 彼の隣には、いつも婚約者のフロリアンスがいた。フロリアンスは、リオンの才能を信じ、いつも優しく支えてくれる、心優しい女性。支えがあったからこそ、厳しい修行にも耐えられ、彼にとって、甘く、温かい、欠かせない存在。


 しかし、ある日のこと。リオンは、信じられない光景を目にした。男といたのだ。見知らぬ男性と、楽しそうに話している二人の距離は、どう見てもただの友人ではない。


 その場に立ちすくんでしまう。心が凍りついた夜、リオンはフロリアンスに、そのことを尋ねた。


「フロリアンス……あの男性は、誰?」


 フロリアンスは一瞬、戸惑った顔をしたが、やがて静かに口を開いた。


「ごめんなさい、リオン。彼とは、もう随分前から。えっと」


 リオンの心に、苦い、苦い味が広がった。失敗したキャンディの味よりも、ずっとずっと苦く、フロリアンスと別れることになる。


 キャンディ作りの情熱を失い、工房に閉じこもってしまう。シャンテルはリオンを見て何も言わなかったが、彼のためにあるキャンディを作る。

 透明なシロップの中に、一粒の小さな星が輝いている、シンプルなキャンディを。


「食べてみて」


 キャンディを差し出した。リオンは、言われるままにキャンディを口にすると口の中に、甘さとほんの少しの塩味が広がる。


「ん。しょっぱい……なぁ」


 リオンは、静かに言う。


「そう。それは、涙の味」


 声は、優しかった。


「悲しい時は、思いっきり泣けばいい。無理に笑わなくていい。涙の先に、本当の甘さがある」


 その言葉を聞いて、堰を切ったように泣き出し、シャンテルは、何も言わずに彼のそばに座る。どれくらい時間が経っただろうか。リオンは、顔を上げ、シャンテルに告げる。


「ぐす。シャンテルさん。僕、もう一度、キャンディを作りたいです」


 目は、まだ少し赤いが以前のような、希望に満ちた輝きを取り戻していた。


「今度は、王女のためじゃない。誰かのためでもない。僕自身の悲しみを甘さに変えるために」


 シャンテルは、静かに頷いた。


「じゃあ、まずは悲しみをどんな甘さに変えたいか、考えてみましょう」


 シャンテルの言葉に、深く頷いた。

 心の中には、まだ悲しみが残っていたが悲しみはもう苦しめるだけのものではない。これから作られる、新しいキャンディの始まりの味なのだ。

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