42竜に愛される者が見つかると家には莫大な富と地位が約束された。竜族は花嫁や花婿を連れ去る代わりに残された家族の生活を永久に保証した
婚姻と離婚。ざまぁではない
竜に愛される者が見つかると、家には莫大な富と地位が約束された。竜族は花嫁や花婿を連れ去る代わりに残された家族の生活を永久に保証したのだ。
しかし、選ばれる者はごく稀であり、選ばれなかった家庭は期待の落差に苦しみ、経済的に困窮することも多かった。
平民の家に生まれた双子の姉、クロウティアの家庭はまさにその経済的な苦境にあった。妹は竜族が求める素直で愛らしい外見を完璧に備えていたが、家族全員が愛情を注いだ結果、妹は世間知らずで甘やかされた性格になってしまう。
家族の愛情は妹に一極集中したが、それを見て、妹を家庭を救うための道具として冷静に観察していた。嫉妬なんてはなからしない。目的は貧困から脱出すること、ただそれだけ。
選ばれるということは、金銭と地位と同義だったから。しかし、知っていた。竜族が求めるのは心の強さと知性も伴う者であると。
妹は外見は満たしていても、竜族との対話に耐えうる知性がなかった。そこで決意する。自分が妹の運命を利用し、家族を救済すると。
自ら目立たない凡庸な存在となり、家族の無関心を逆手に取り、図書館で徹底的に知識を蓄えた。選んだのは当時の最新技術である、魔導車の運行管理の知識。
クロウティアが独り立ち可能な年齢になった年、竜人が国を訪れるという情報が流れた。これが最後のチャンスだと判断する。家族に内緒で隣国の広域輸送管理センターの試験に応募し、合格していた。
仕事は自動魔導車の運行を統括・監視する、高度な知識と冷静な判断力が求められる職だ。
誕生日の夜明け前、家を出た。妹への手紙を残し「私を追って。これが、家族を救う唯一の道」と伝える。向かったのは広域輸送管理センターがある隣国。自分の職場で権威と情報を得ることで、竜族と交渉する準備を始めた。
数年後、センターの最年少のエキスパートになっていたある日、二人の竜人が接触してきた。クロウティアが運命の花嫁だと主張したけれど、動じない。
冷静沈着な態度と高度な知識に裏打ちされた知性こそが、竜族が求めていたものだったのだ。クロウティアが以前、妹に注がれていた愛情とは無縁の自立した強い魂を持っていることを見抜く。
「私が花嫁であることを認めましょう。取引をさせていただきます」
きっぱりと言い放った要求は家族の金銭的援助ではなく、妹を広域輸送管理センターの職員として雇い、自立させること。竜族は驚いた。
花嫁は通常、家族の経済的な安泰を願う。クロウティアの要求は家族の社会的な地位と自立。正反対なのだ。
「なぜ、金銭を求めない?」
「竜族の庇護のもとで家族が堕落する姿は見たくありません。妹には自らの力で生きる術を身につけさせたい。それが私の家族への愛です」
竜族はクロウティアの強い意志と計算高さを評価し、取引に応じた。妹を呼び寄せ、広域輸送管理センターの新人スタッフとして受け入れた。妹は当初、慣れない仕事に苦労したが、クロウティアの指導と竜族が監視しているというプレッシャーのもと、徐々に自立する。
家族もまた妹が権威ある場所で働いているという名誉を得て、経済的な援助なしで立ち直る希望を得た。竜族の一人、冷静で知的な竜人と形式的な婚姻関係を結んだ。
クロウティアの計画性を愛し、隣にいることを選んだらしい。そんな中、クロウティアの前に以前センターの視察に来ていた異国の魔導技術者が再び現れ、仕事のやり方を称賛し共同研究を持ちかけてきた。
「クロウティア、君の運行管理の設計は魔導タクシーの未来の道筋だ。運命の花嫁だと聞くが君が運命を設計する者に見える」
初めて竜族の運命の外側で自分の存在を認められた気がした。微笑んでしまう。
「設計できます。私が選び、設計した運命ですから」
竜族の地位を利用して妹の自立を促し、家族を救済したその裏で真に愛し尊敬できるパートナーと魔導世界の未来を設計する道を見つけた。
形式上の夫である竜人の権威を妹の自立と家族の安定のために利用した今、真のパートナーとなるべきガッドと新たな未来を築こうとしていた。
竜族の夫はクロウティアの契約結婚という形を受け入れていた。竜族の威信を人間に示すための賢明な駒であり、管理能力は非常に有用だったからだ。
クロウティアの要求通り、彼女がガッドと共同研究を進めることを黙認した。竜族にとっても魔導技術の最先端に触れることは利益になる。
広域輸送管理センターでの地位を維持しつつ、ガッドとの研究に没頭した。専門知識である自動魔導車の運行管理と、ガッドの魔導工学が融合することで研究は急速に進展することに。
妹はクロウティアの予想以上に早く成長していた。竜族の監視というプレッシャーはあったものの、姉の地位を守るという目的意識が支えとなる。妹はこれまでの甘やかされた生活を捨て、センターの新人スタッフとして真面目に職務に取り組んでいた。
家族もまた、名誉を心の支えに貧困から脱却しようと努力していた。彼らが自力で立ち直ることこそが、真の救済だと信じている。冷徹に見える愛が、家族を依存から解放しつつあったのだろう。
クロウティアと竜族の夫との関係は、公的な場での完璧な夫婦としての振る舞いに限定されていた。誰もが竜族の甘い溺愛を受けていると信じていたが実態は、冷たいビジネス上の契約。
「君の計画は完璧だ、クロウティア」
竜人である夫はある夜、執務室で研究資料を広げるクロウティアに声をかけた。
「私と契約することで妹の社会的地位を確保し、その上で真に価値のある人間と未来を築こうとしている。計算高さこそ評価する理由だ」
「ありがとうございます。私も貴方の権威がなければ、この計画は実行できませんでした」
二人の間には愛情はなかったが互いの利益を理解し合う共犯者のような信頼が生まれていた。一方、ガッドとの関係は仕事の情熱を共有することから始まったもの。
「運行設計図は美しい。未来の都市の神経網を見ているようだな」
ガッドはクロウティアが魔導車の運行を最適化するために編み出した複雑なアルゴリズムを、運命の法則と呼び、賞賛した。クロウティアにとって、ガッドは自分の冷徹な知性を否定せず情熱と受け止めてくれる唯一。
ある日、研究に行き詰まったクロウティアが思わず過去の呪いについて口にした。
「選ばれることを拒否してこの道を選んだ。誰も愛さず、誰にも愛されない方が、安全だと信じていた」
ガッドは冷たい手を取り、静かに言った。
「誰にも愛されない道を設計したかもしれないが、僕にとっては違う。君の設計図こそが未来の道標だ。君の知性に愛を誓う。竜族の愛とは違う。共に未来を創る愛だからな」
凍てついた心を初めて溶かした。自ら選んだはずの拒絶の道の先に真の愛が存在していた。
数ヶ月後、クロウティアとガッドは共同で画期的な予測運行システムを発表。このシステムは都市の交通の流れ、天候、人の行動パターンを予測し自動魔導車の運行を最適化する。
発表会には竜族の夫も公的な立場で参加していた。彼は静かに拍手を送る。クロウティアの功績は彼の地位をさらに強固なものにしたのだ。発表の直後、公の場で宣言した。
「このシステムの未来をガッドと共に創り上げていきます。竜族との関係は、国家間の協力関係へと移行します」
竜族との形式的な婚姻関係の解消を意味していた。竜族の夫はクロウティアの成長ともたらされた利益を鑑み、静かに彼女の意思を受け入れた。
自らの知識と意志で運命の呪いを国家間の協力という利益に変え、家族を依存から自立へと導き、真のパートナーを見つけることができたのだ。
誰かの運命の花嫁ではない。魔導世界の未来を設計する者、ガッドの運命を共に歩む者となれたのだ。




