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令嬢たちのざまぁコレクション(一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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04 婚約破棄から始まる古代遺物修復師としての才能開花は陶片と偽りの慈悲。愛という名の自己満足で遊ぶあなたのために私の人生を浪費するつもりはありません

婚約破棄/追放/古語

 春の訪れを祝う王立舞踏会での出来事だった。イガベラ・ルーシオーンは婚約者である第一王子レシナベ殿下から、公衆の面前で婚約破棄を言い渡された。


「あなたの硬すぎる知性は、王家の装飾品としてふさわしくない。魂の安らぎを与えてくれる優美な女性を伴侶に選んだ」


 と言いつつ選んだのは男爵令嬢タタッシャ。王家が発掘した古代遺物のレプリカ作成という一見地味だが、慎ましやかな才能を持ちながらも常に怯えた小動物のように殿下の影に寄り添っていた。いくらなんでも爵位が低すぎるような。


「私の不完全さを愛してくださるのです。あなたの完璧すぎる知識は殿下を息苦しくさせていたのですよ。ふふふ」


 タタッシャの口元に浮かんだのは優美な笑みではなく、勝利に酔った計算高い微笑。けれど、イガベラは泣き崩れるどころか一切の感情を顔に出さなかった。胸中で沸騰していたのは悲しみではなく、鋭い怒り。


(完璧すぎる知識?ふざけないで!)


 イガベラは知っていた。レシナベ殿下が望んだのは知識、具体的にはルーシオーン家が所有する古代文字の解読技術であり、彼女ではない。タタッシャを選んだのはルーシオーン家の協力を得るための安易な乗り換えに過ぎないと、一歩前進した。


「レシナベ殿下。タタッシャ嬢の言う通り、硬すぎる知性を持っています。報復にも使えるのですけれどね」


 懐から王家の紋章が入った小箱を取り出した。殿下がタタッシャを自慢するために最近発掘現場から持ち帰った紀元前の陶片。


「この陶片は贋作です」


 会場がざわめくと殿下が青ざめる。

「知識が告げています。陶片を焼いた土にはこの時代の粘土に混じるはずのない微量の火山性ミネラルが含まれている。最近作られたものです。殿下は贋作を自慢するために国家の資金を浪費されましたね?」


 陶片を床に落とすとカーンと乾いた音を立てて砕けた。


「追放する前に嘘で騒ぎを起こすとは!」


殿下が激昂する。


「ご心配なく。本当に追放されるのならルーシオーン家が長年独占してきた古代語解読の全技術サポートを、今すぐ撤廃させていただきます。お二人が解読を試みても一生、泥遊びが終わることはないでしょう」


 彼らの権力基盤を直接脅かした。結局、王家は慌ててイガベラを追放ではなく辺境への名誉ある赴任という形で切り崩し、技術サポートの撤廃だけは阻止した。

しかし、イガベラはルーシオーン家が所有する重要なデータベースの鍵を、密かに一つだけ持って出る。

 赴任したのは古代遺跡発掘の最前線である辺境の港町。泥臭く潮の匂いが満ちていたが、王都の偽善的な空気に比べればよほど清々しい。

 王都では知性と蔑まれたイガベラだが、辺境の現場では古代文字の知識と論理的な判断力は即戦力として重宝された。


 ある日、発掘現場でイガベラは泥にまみれた陶片の山と向き合っていた。タタッシャが破壊した贋作とは違い、本物の粉々になった歴史の断片だ。

 手を泥まみれにしながらひたすら陶片を組み合わせる作業に没頭した作業は、王妃になるために身につけた優雅なピアノや刺繍とは程遠いもの。

しかし、指先に伝わる土の冷たさと一片がピタリと嵌まる瞬間の快感は、今まで感じたことのない充実感だ。


「イガベラ様はすごいな。陶片自身と会話しているみたいだ」


 現場の責任者である顔に大きな傷跡のある実直な考古学者、ディミトリが言う。


「パズルではなく歴史を復元する作業です。一片一片に製作者の意思や時代背景が込められている。論理的に繋ぐのが仕事ですから」


 そんな中、王都ではレシナベ殿下が解読の行き詰まりに苛まれていた。ルーシオーン家から与えられたデータでは鍵となる特定のデータベースが欠けており、肝心な部分の解読が進まない。

 辺境のイガベラに助けを求めようとしたものの、連絡が来る前に一つの極秘情報を入手する。

 王都で元婚約者の殿下が自慢した贋作陶片は、タタッシャ嬢が殿下を喜ばせるために自分の手で作ったものだったという真実。


タタッシャは、殿下は完璧なものを愛さない。不完全な私を愛してくださるという自己陶酔の延長で不完全な贋作を贈ったのだ。殿下は偽りの愛に騙されたということになる。

 イガベラはこの情報と自身が辺境で復元した古代の祭祀文字が刻まれた、巨大なレリーフの写真を王都に送った。レリーフには王家が古代に犯した最大の過ちについての記述が刻まれていた。


 復元作業は王城に伝わる古代語解読よりも遥かに正確だと証明されてしまう。それにより、追い詰められたレシナベはイガベラを連れ戻せば全て解決すると暴走。辺境の港町に兵士を送り込み、イガベラを強制的に王都へ連行しようとした。

 しかし、港町に着いた兵士たちが見たのは泥まみれの服を着たイガベラが、ディミトリや他の考古学者たちと共に巨大なレリーフを船に積み込んでいる姿。


「何のつもりだイガベラ!お前はすぐに王都に戻り、解読の鍵を渡せ!」


 レシナベが王子の威厳をもって命令するが、イガベラは船上から殿下を見下ろした。手は土で黒く汚れていたが瞳は、王都にいた頃よりもずっと強く輝いている。


「お断りします。知識と才能は、真の歴史を解き明かすために使われるべきです。愛という名の自己満足で遊ぶあなたのために、私の人生を浪費するつもりはありません」


 差し出したのはルーシオーン家の古代語データベースの、完全なアクセスキー。


「これは世界中の学者と共有します。殿下が欲しがった鍵は開きません。船で真の古代文明を探しに行きますのでさようなら」


 汽笛を鳴らして港を離れていく。イガベラは後ろで兵士たちに詰め寄られ、醜態を晒しているレシナベ殿下に、心からの軽蔑を一瞥だけくれてやった。どうするのかと指示待ちしているのに、海に向かって捕まえろなんて無茶を言うからだろう。

硬すぎる知性ではなく自分の情熱に従い、誰も見たことのない水平線へと漕ぎ出していった。

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