37 村ごと冷遇してくるから逃げたメイプルは勇み足で確認するけれどとっくに矛先はなにもなくなっていたと知らないので肩透かしを喰らうのである
深い夜の闇に包まれた異世界の小さな村、リーフェンの一角に赤ん坊の泣き声がひっそりと響いていた。
現代日本から転生してきた一人の少女、メイプルは村で育つうちに自身の中に強大な力が眠っていることに気づいたが、意味はない。
力は村人たちには理解されず恐れられ、彼女は厄介者として扱われ、冷たい視線と陰湿な言葉を浴びせられる日々を送ることになり、酷いなんてものではないのでイラっとなる。幼いながらにメイプルは悟った。
村にいても自分の居場所はないと、いつか必ず、ここを出て行こうと心に誓うと直ぐにその日は来る。
十二歳になったメイプルは誰にも告げず、夜の闇に紛れて村を後にした。急ぐ急ぐ小さな背中には未来への不安と、この村への静かな憎しみが入り混じる。
メイプルが去った後のリーフェン村は徐々に活気を失っていった。なぜか?それはメイプルが隠し持っていた強大な力は村の結界のような役割も果たしていたから。
去ったことで村は魔物の襲撃を受けやすくなり、作物は不作に見舞われ穏やかだった村の雰囲気は一変し、住人たちの間には不信感と不満が渦巻くようになる。
メイプルがいた頃には何とか保たれていた均衡は崩れ、村は見る影もなく衰退していく、冷遇をした村人たちは自分たちの愚かさに気づく由もなく、一方、メイプルは故郷を後に自分の力を隠しながら、様々な場所を旅する。
いつか自分の居場所を見つけ、自由に生きることを夢見て、瞳には故郷の村への未練など微塵も感じられず、ただ静かに燃える復讐の炎が奥底で揺らめく。
村を後にしたメイプルは自身の強大な力を封印し、少女であることを隠しながら広大な異世界を旅する。野宿を繰り返し、時には小さな村で日雇いの仕事を見つけながら生きる術を身につけていった過程で、様々な人々との出会いと別れを経験し。世の中の理不尽さや温かさを知る。
自分を冷遇した村への恨みを忘れなかったが思いを表に出すことはなかった。今はただ、自分の身を守り自由に生きられるだけの力を蓄えることが最優先。
一方、メイプルが去ったリーフェン村は日ごとに衰退の度合いを深め、魔物の襲撃は頻繁になり村人たちは怯えながら暮らすことになり、作物は以前のように実らず食料は常に不足。メイプルを追い出した村長は憔悴しきっていた。
原因不明の災厄が次々と起こり、村人たちの間では「あの娘の祟りだ」という噂が囁かれることは無責任極まりない。
村の長老たちは過去の出来事を思い返し、メイプルに対して酷い仕打ちをしてきたことを後悔し始めていたが今となっては、居場所を知る者はいないのだ。
村は活気を失い、忘れ去られたように静まり返っていく数年後。メイプルはとある大きな街に辿り着いたそこで、自分の持つ特別な力を見抜いた老錬金術師と出会う。
老人はメイプルの才能に驚き、錬金術の知識と技術を教え始め、驚異的な速さで知識を吸収し誰もが認めるほどの腕を持つ、錬金術師へと成長していく。
力を得た心には故郷の村への複雑な感情が湧き上がって、憎しみは薄れることはなかったが同時に場所が今どうなっているのかという興味も湧き上がると、意を決して長い年月を経ての故郷のリーフェン村へと向かう。
自分の目で村の現状を確かめるために、もし機会があれば自分が受けた仕打ちに対する報いを受けさせてやろうと、静かに心に誓いながら瞳には少女のような怯えはもうなく、代わりに静かに燃える。もう、復讐をするまでもないと知るまで。




