35 最強の番に溺愛される転生王女は王家の恥だと追放されたけどあなた達は今どんな気持ちですか?番から嫌悪感を向けられる妹王女は嫉妬する前に言動を見つめ直した方がいいと思います
眩しい光に包まれたかと思えば、見慣れない天井が目に飛び込んできた。ここはどこ?確かトラックに轢かれて。
「う」
混乱する意識の中、幼い少女の声が聞こえた。
「お姉様、お目覚めになられましたか?」
声の主は、妹であるはずのミーアだったがどこか様子がおかしい。豪華すぎる寝室、着慣れないフリルのついたドレス、ミーアの冷たい眼差し。
「姉上は、私たちの番になるはずだった高位の獣人様を、醜い姿で魅了することができなかった。王家の恥よ。早く出て行ってください」
信じられない言葉がミーアの口から紡がれ前世の記憶が蘇る。そうだ、王国の第一王女として転生して番と呼ばれる、魂の伴侶となる存在がいるはず。
ミーアは強力な力を持つ獣人の男性と番になるはずだったが、なぜか獣人が私に興味を示したらしい。余計な真似をされている。
嫉妬がここまで歪ませてしまったのだろうと、両親もまたミーアの言葉を否定しなかったのは自分の容姿が王家の血筋にあるまじき、黒髪と瞳であることも、理由の一つ。くだらない理由だ。色素なんて確率なのに。
「厄介払いできてせいせいするわ」
母の冷酷な言葉が胸に突き刺さる。
何の準備も与えられないまま、王城を追い出されてしまい夜の森は暗く、獣の咆哮が遠くで聞こえた。びくっとなる。
震える足で歩き続け、力尽きて倒れ込むと足が痛い。もう、歩けない。どれくらい時間が経っただろうか。ぐらりとなる。
冷たい雨に打たれ、意識が朦朧とする中、温かい毛皮に包まれたような感触がしたから恐る恐る目を開けると、そこにいたのは巨大な黒豹。え、なに?
鋭い牙、獲物を射抜くような金色の瞳。恐怖で体が竦む中、黒豹は優しく頬を舐めてくる。べろりと。
「ダヴィン……?」
思わず呟いた言葉に黒豹は嬉しそうに喉を鳴らした。ダヴィンは前世で飼っていた黒猫の名前。まさかダヴィンもこの世界に転生していたなんて、しかもこんなにも強く、美しい獣人の姿で。カッコ良すぎる。
ダヴィンは言葉を発することはできないが、瞳からは溢れんばかりの愛情が伝わってくるままに優しく抱き上げ、安全な洞窟へと運んでくれた。
温かい毛皮は心地よく、久しぶりに安堵感に包まれ、深い眠りに落ちるそこからの日々は、ダヴィンとの穏やかな時間。毛皮はふさふさ。
狩りで食料を調達し、寒さから守ってくれ、言葉はなくとも痛いほど伝わってきた。グルルと喉を鳴らす猫感。
甘えん坊の小さな猫だったダヴィンが、今は頼りがいのある番として、支えてくれ、洞窟の外を警戒するように見つめたので嫌な予感がする。
しばらくすると数人の人影が近づいてきたと思えば、ミーアと数人の騎士たちが来た。どこまで深追いしてきてるんだろう。やりすぎでは。
「こんなところにいやがったわね、疫病神め!」
憎悪に満ちた目で睨みつけた後ろには、以前私に興味を示したという獣人の男性もいてミーアの言葉、言動に不快感を露わにしていた。嫌なら離れればいいのに。
「ミーア様、言葉を慎んでください。王女殿下であられたお方です」
獣人の言葉にミーアは顔を歪めた。
「うるさいわね!どうせこんな汚い女、あなたもすぐに飽きるわ!」
金色の瞳が怒りの炎を宿しながら唸り声を上げ、威嚇するように牙を剥き出す迫力に騎士たちは後ずさる。怖かろう。
「ダヴィン、大丈夫」
頭を撫で、前に進み出た。
「ミーア、あなたに言っておく。私を追い出したことをきっと後悔する日が来るから」
ミーアは鼻で笑う。仮にもこの子は貴族なのに品がない。
「たかが、落ちぶれた王女に何ができるっていうの?」
ダヴィンが信じられないほどの速さで動き、巨大な体躯からは想像もできない俊敏さで騎士たちを次々と吹き飛ばしていく。
悲鳴と怒号が飛び交う中、ミーアは恐怖で顔面蒼白に獣人の男性は強さに驚愕している。強かろう。
「こ、これは……ただの獣ではない。まさか、伝説に語られる神獣の血を引く者……なのか!?」
神獣。稀にしか存在しない、強大な力を持つ聖なる獣のことか。ダヴィンがその血を引いているとは想像もしていなかったな。でも、もう向こうに勝機はないってことだ。
「きゃあああ!!」
最後にミーアの前にゆっくりと歩み寄って、鋭い爪が足元をかすめるとミーアは悲鳴を上げ、へたり込んだ。結局、手持ちのコマで粋がってただけなんだな。
「ダヴィン、もういい」
大人しくそばに戻ってきた。ミーアは、まだ恐怖で震えながらも睨みつける。こちらも睨む。
「覚えておきなさい!か、必ず、あなたたちをこの土地から追い出してやる!」
捨て台詞を残し、ミーアと騎士たちは逃げるように森の奥へと消えていく。
「ダヴィン、ありがとう。私を守ってくれて」
大きな体に抱きつき、感謝の気持ちを伝えた。言葉は通じなくても、温もりと力強い鼓動が、安らぎを与えて、しばらくして、静かな生活は再び変化を迎えることになる。
森の中で出会った旅の商人から、王都で大変な騒ぎが起きていると聞いてしまう。よくわからないけど、どういうことなのか。
ミーアと番になるはずだった獣人の男性が、実はとんでもない悪人で、王国の財産を横領し、多くの人を苦しめていたという。ふーんとしか思えない。
悪事を暴いたのは行方不明になっていた第一王女、つまり私だと名乗る人物らしいが、まさか、なりすます者が現れたのだろうか?
警戒しながらも王都へと向かうことにした。王都は混乱の極みにあり、悪事が明るみに出た獣人の男は捕らえられ、王家は責任を追及されているとか。
そんな中、民衆は「真の王女様はどこに?」と声を上げているらしい。今更?遅すぎない?
城に近づくと、見慣れた顔に気づき、駆け寄ってきたのはミーアの婚約者だった獣人の男性。まだ近くにいたのか。
「あ、あなた様は……やはり、ご無事だったのですね!」
深々と頭を下げ、城へと案内したところで待っていたのは憔悴しきった様子の国王と王妃。歓迎されている。よくもそこまで手のひら返しできるものだ。
「ハルメリア……本当に、あなたなの?」
母の震える声に頷いた。死んだと思われているみたい。笑った。
「ええ、そうです。酷い仕打ちを受けましたが、こうして生きていますね?よかったですか?嬉しいですか?」
両親は言葉を失う。獣人の男性が、代わりに事の顛末を説明してきた。なりすましていたのは、なんとミーアで悪人の男と共謀し姉を追い出した後、自分が番として王家に完全に取り入ろうとしたらしい。
待っていたら勝手に王座が来ると思ったのだが、もっと早く欲しかったようだ。しかし、悪事が露見し、企みも全て明るみになると民衆は、真の王女の帰還を熱烈に歓迎した。
隣に控える巨大で美しい黒豹、ダヴィンの存在に驚きと畏敬の念を抱いているから、神獣の血を引く力は、王国の新たな希望となるだろう。
ミーアは全ての罪を暴かれ、王家の恥として幽閉されると両親は仕打ちを深く後悔し何度も謝罪してきたが、一度失われた信頼は簡単に取り戻せるものではない。
バカにしないでほしいと憤った。
王冠蹴り飛ばし、ダヴィンと共に新しい道を歩むことにした。王女という立場に縛られず自分の信じる道を進みたいし、温かい愛情と力強い力で支えてくれるから。
「ダヴィン!行くよ!」
「がう」
追い出した家族は愚かな行いを深く後悔することになるだろう。理不尽な扱いを受けたが、番との出会いと自身の成長によって過去を乗り越え、新たな幸せを掴む隣にはいつも愛するものがいて。
見つめられるたび、転生して再会できた幸運を心から感謝したい。なにがなんでも幸せになるんだから。




