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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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34/46

34 幻よ、手を伸ばしても消えるのみ。ないものを得ようとしても得られまい。実家である侯爵家からも「婚約破棄された娘など、わが家の恥だ!」と冷たく告げられた

婚約破棄

 幻よ、手を伸ばしても消えるのみ。ないものを得ようとしても得られまい。


「はあ……やっぱりこうなるのね」


 王城の冷たい石畳にアプルは一人佇んでいた。

 婚約者である第一王子から突きつけられたのは、一方的な婚約破棄の言葉。


「君のような無能な女に、王妃の務めなど到底果たせない!」


 声高に言い放たれた彼の顔は信じられないほど冷酷だった。驚きよりも納得に近い感情を抱いていた。

 だって、国の公務はほとんど彼女一人で回していたのだから。王子はといえば夜会で浮かれた話ばかり。


 いずれこの国は傾くだろうと薄々感じていたのだ。追い打ちをかけるように実家である侯爵家からも「婚約破棄された娘など、わが家の恥だ!」と、冷たく告げられた。

 行く当てもなく王城を追い出され、薄暗い道をアプルは一人あてもなく歩き出す。


(まったく、どこまでツイてないんだか……)


 現代日本の記憶を持つアプルにとって、貴族社会の理不尽さは今更驚くことではなかった。けれど、実際に自分がその渦中に放り込まれるとやはり堪えるものがある。

 そんな時、一台の立派な馬車がアプルの傍らで止まった。


「お困りのご様子。もしよろしければお乗せしましょうか?」


 馬車から降りてきたのは、見慣れない顔の青年。整った顔立ちに知的な眼差し。どこか物憂げな雰囲気を漂わせている。


「あなたは……?」


 警戒しながら問いかけるアプルに青年は優雅に微笑む。


「わたしはエルネストと申します。はるばる隣国から参りました、ジール王子の側近です」


 ジール王子……確か、この国から二つ隣の国の王子だったか。公務で何度か顔を合わせたことがある。聡明で物腰の柔らかな王子だったと記憶している。


「もし行き先がないのでしたら、わが国までご一緒しませんか?王子も、きっと貴女にお会いしたがるでしょう」


 エルネストの言葉にアプルは一瞬躊躇した。見知らぬ国へ行くのは不安がないと言えば嘘になる。このままここにいても待っているのは絶望だけ。


「……お世話になります」


 意を決して、アプルは馬車に乗り込んだ。馬車の中、エルネストは穏やかな口調で様々な話をしてくれた。隣国の文化、風習、ジール王子の人となり。

 話しているうちにアプルの心は少しずつ安らいでいった。


 数日後。二人が辿り着いたのは豊かな緑と美しい街並みが広がる国。ジール王子は予想以上に温かく、アプルを迎え入れてくれた。エルネストの言葉通り、アプルに興味を持ったらしい。


「アプル様。あなたの聡明さと、困難にも立ち向かう強い意志に心惹かれました」


 出会って間もないにも関わらず、ジール王子は率直に想いを告げてきた。現代の感覚からすると少し早すぎる展開に戸惑いを覚えるアプル。

 真剣な眼差しはこの気持ちを揺さぶった。


(この人は……本気だ)


 そう感じ始めた頃、アプルはふとある考えが頭をよぎった。


(そういえば、あの王子や家族は私が本当に無能だと思っていた……)


 そこでアプルは初めて明かすことにした。


「実は……わたしが今まで皆さまの前に現れていたのは、魔法で作り出した幻影なのです」


 驚愕に目を見開くジール王子とエルネスト。


「本当のわたしはずっと影から、この国を見ていました。公務を滞りなく行っていたのも、全てこの幻影がこなしていたのです」


 アプルは自分が現代の記憶を持っていたこと。知識とこの世界で身につけた魔法を使って、密かに国の運営を支えてきたことを語った。


「婚約者殿下はわたしの幻影を見て、無能だと判断したのでしょう。家族も幻影しか見ていなかった。真のわたしはずっとこの国のために力を尽くしてきたのです」


 静かに語るアプルの言葉にジール王子は深く頷いた。


「なるほど……だから、あなたはあのような状況でも、どこか達観されていたのですね」


 彼は真剣な眼差しでアプルを見つめた。


「アプル様。幻影だとしても、あなたは私の心を惹きつけました。真のあなたを知った今、その想いは本物。私の隣で国を共に治めていただけませんか?」


 ジール王子の言葉にほかほかしたものが胸に広がっていくのを感じる。初めて自分の存在そのものを認められた気がした。


「……喜んで」


 アプルは、微笑んで答えた。幻影でない本物を。

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