30アホが上だと下が苦労する。長年連れ添った家族からも冷たい視線を浴びせられ「出て行け」と突き放された。他国で認められて評価されることがこんなにも健康にいいなんて
アホが上だと下が苦労する。
「はあ……」
王城の石畳に深いため息が落ちた。婚約者である第一王子から一方的に告げられた婚約破棄。
長年連れ添った家族からも冷たい視線を浴びせられ「出て行け」と突き放された。王城で公務を一人で担ってきたというのに、手のひらを返すように。
(まあ、いい。あんな男、こっちから願い下げ。どうせ私がいないとあの国はすぐに立ち行かなくなる)
強がってみるものの、行く当てもなく一人ぼっちで王城を後にする足取りは重い。
「お困りのようですね」
背後から落ち着いた低い声が聞こえた。振り返ると見慣れない顔の男性が立っている。整った顔立ちに知的な眼差し。どこの国の人間だろうか。
「あなた様は?」
警戒しながら問いかけると男性は穏やかに微笑んだ。
「わたくは隣国、ルシエル王国の第三王子、トーマス様の側近を務めておりますセオドアと申します。先ほど、王都へ向かう途中でお一人で佇んでいらっしゃるご様子が気になり、お声がけさせていただきました」
隣国、ルシエル王国。確か公務で何度か書類をやり取りしたことがある国だ。第三王子の側近、セオドア。
「実は……」
これまでの経緯を簡単に説明。セオドアは聞いたあと。
「そのようなご事情でしたか。それは、大変お辛い経験をされましたね」
同情の色を滲ませた瞳が優しく見つめる。初めて会ったばかりなのに、この人の前では素直になれた気がした。って気が早いか。
「もしよろしければ、わたくしどもと一緒にルシエル王国へいらっしゃいませんか?第三王子であられるトーマス様は聡明で温かいお方です。きっとあなた様のお力になってくださるでしょう」
突然の申し出に戸惑った。見ず知らずの男の人についていくなんて、普通ならありえない。でも、他に頼る人も行く場所もないしなあ。
「その……ご迷惑でなければ、お願いしてもよろしいでしょうか」
セオドアは安堵したように微笑んだ。
「もちろんです。さあ、こちらへ」
優雅な馬車へと促した。馬車に揺られながらルシエル王国、その先のまだ見ぬ国へと向かうことになる。
数日後。ルシエル王国を通り過ぎ、さらに二つ隣の国アストリア王国へと到着した。アストリア王国の王都は活気に満ち溢れ、どこか華やかだ。
案内されたのは王城の一室。質素ではあるが清潔で落ち着ける部屋だった。
「しばらくはこちらでゆっくりとお過ごしください。トーマス様はあなた様のご都合の良い時にお会いしたいと仰っています」
セオドアは深々と頭を下げる。アストリア王国での生活は驚くほど穏やか。身の回りの世話を焼き、何かと気遣ってくれる。
共に過ごすうちに彼の穏やかさや知性。優しい笑顔に心惹かれていった。言葉遣いや考え方も、どこか似ていて親近感を感じる。
ある日の夕暮れ、セオドアは庭園に誘った。夕焼け空の下、色とりどりの花々が美しく咲き誇っている。
「あの……セオドア様」
「セオドア、と呼んでください」
優しい声にドキリと胸が高鳴る。
「セオドア……様。あの、私のような婚約破棄された身の上の女が、こうしてあなた様の国にいられるのはご迷惑なのではないでしょうか」
不安を口にすると優しく首を横に振った。
「そんなことはありません。聡明で美しい女性とお知り合いになれたことを、わたくしは光栄に思っています」
真剣な眼差しが射抜く。
「初めてお会いした時から強い意志と、内に秘めた優しさに惹かれていました。もし、よろしければ……わたくしのそばにいていただけませんか」
甘く優しく、心に深く染み渡った。
「……はい」
返事にセオドアはとびきり優しい笑顔を見せた。過去の傷は癒えていっている。
(あの時、セオドア様に出会えて本当によかった)
隣国のさらに二つ隣の国で始まった、新しい人生。
アストリア王国での穏やかな日々は過ぎ。
セオドアと共に国をより良くするために、何かできないかと考えるようになっていた。
前世の記憶にある様々な知識は国にはまだないものばかりだ。セオドアに提案した。
「セオドア様、まだない技術や知識がたくさんあります。もしよろしければ知っていることを少しずつ、お伝えしていきたいのですが」
興味深そうに身を乗り出した。
「それは素晴らしいお考えです。具体的には、どのようなことを?」
まず生活に関わることから話始めた。衛生観念の向上、効率的な農業技術、少しずつではあるが簡単な読み書きの普及。セオドアは話に熱心に耳を傾け、時折質問を挟んだ。
そのうちの一つの製品。完成した月光草と星の油樹の石鹸は泡立ちと、しっとりとした洗い上がりが特徴のもの。
アストリアの人たちに試してもらうと、使い心地の良さに驚きの声が上がった。セオドアの協力もあり、提案は少しずつ実行に移されていく。
王城の一角に実験農場を作り、新しい作物の栽培方法を試したり、衛生的な手洗いの習慣を広めたり。最初は訝しんでいた人も目に見える効果が現れるにつれて、徐々に興味を持つようになっていった。
特に大きな変化をもたらしたのは教育分野への取り組み。識字率の低さを憂慮。
セオドアと共に、平民の子どもたちが読み書きを学べる小さな学校を作った。最初は数人しか集まらなかった生徒たちも口コミで評判が広がり、次第に増えていったのだ。
「こんなにも早く効果が出るとは」
驚きに呟く。熱心に学ぶ子どもたちの姿を見て、セオドアは目を細めた。
「あなたの知識と、それを分かりやすく伝える力があればこそでしょう」
背中をそっと押してくれる。もちろん、全てが順調に進んだわけではない。古くからの慣習を重んじる貴族たちからは、異質な知識は国を惑わすといった反発もあった。
セオドアは常に味方でいてくれた。冷静な判断と根気強い説得によって、反対の声は徐々に小さくなっていったのだ。
そんな日々の中で共に課題に取り組み、喜びを分かち合う。優しい眼差し、知的な会話。考えを尊重してくれる姿勢が温かく包み込む。
星が瞬く庭園で二人きりで話していた。
「国が少しずつですが、良い方向へ向かっているのを感じます」
試しに言うと、セオドアは穏やかに微笑んだ。
「ええ。それはあなたのおかげです。あなたがいなければ国は何も変わらなかったでしょう」
頬が染まり、胸が熱くなる。
「でも、私一人の力ではありません。セオドア様をはじめ、周りの方々の協力があってこそです」
「いいえ、あなたの功績は大きい。初めて会った時、辛い過去を背負っていたはずなのに、それでも前を向こうとしている強さに心を打たれました。アストリア王国の未来を照らしている」
真剣な眼差しが心を捉える。
「あなたと出会えて、本当によかった。愛しています」
告白は優しく響いた。いつの間にか自分も同じように彼のことを深く愛していたのだと、気づく。
「私、セオドア様を愛しています」
静かに見つめ合い、そっと口づけを交わした。星空の下、二つの魂が深く結びついた瞬間。
その後も、セオドアと共にアストリア王国の発展に尽力した。新しい技術や制度を導入し、教育を充実させ生活水準は着実に向上。
いつの日か、アストリア王国は周辺諸国からも注目される、豊かな国へと成長を遂げるだろう。
祖国?仕入れた話ではジリ貧になっているらしく手紙が来たけれど、燃やしましたが何か?




