26 だからなぜ追い出すの?王都を追われた聖女は隣国の王子に溺愛されると少しずつ財政が傾いていると報告を受けている
追放
「……はあ?」
信じられない言葉を耳にした。婚約者の第二王子は冷たい瞳でカタリナを見下ろしている。
「カタリナ。貴様との婚約は破棄する」
(いや、なんでそうなる?)
理由は聞くまでもない。王子の隣にはつい先日現れたばかりの男爵令嬢が、いかにも庇護されている様子で立っている。浮気だ。
王子の寵愛を一身に受けているその令嬢と比べれば、地味で取り柄のないカタリナなど眼中にないのだろう。
(やってらんない)
心の中で盛大にため息をつく。現代の記憶を持つ女にとってこの手の昼ドラのような展開は他人事。前世では、地元のニュース番組で似たような事件を見たような気もする。
「承知いたしました」
表情一つ変えずに答えた。無理に縋り付いたところで無駄なことは分かりきっている。
それに未練など微もなく、これで煩わしい王族との付き合いから解放されるのだと思えば、せいせいする。
現実はそう甘くはなかった。婚約破棄の知らせはすぐに家族にも届く。
「王家に泥を塗るような娘はわが家の恥である」
と、父親である侯爵に激昂され、カタリナはあっという間に侯爵家からも追い出されてしまった。だからなぜ追い出す。
普通に他の人と縁づかせればいいのに。いや、王侯貴族の忠誠心があったら、犬みたいに尻尾を振るような刷り込みがあるのかも?
行く当てもなく、一人ぼうぜんと王都の街を彷徨う。今まで王族の一員として国の公務を一人でこなしてきた。
手腕は確かだと自負している。それなのに婚約破棄されたというだけで、全てを失ってしまうのか。
(まあ、いいか)
どこか他人事のように思った。どうにかなるだろう。前世でも似たような状況から這い上がってきた経験があるし。てくてく行く。そんな時一人の男性が前に現れた。
「お困りのようですね、お嬢さん」
深みのある声と射抜くような視線。見慣れない顔だったがどこか知性を感じさせる佇まいだ。既視感。
「……どちら様ですか?」
警戒しながら問いかけるカタリナに男性は優雅に微笑んだ。
「隣国、ルシエル王国の第五王子、トトイナの側近を務めております、セバスチャンと申します」
ルシエル王国。カタリナが以前、公務で少しだけ関わったことのあるこの国から二つ隣にある国。
「このような場所で、一体何を?」
セバスチャンは身なりを一瞥し、察したように深く頷いた。
「事情は察しております。もしよろしければ、わが国へお越しになりませんか?トトイナ王子がぜひあなたにお会いしたいと申しております」
トトイナ王子。聡明で有能な王子として名高い人物。しかし、なぜこちらに?
訝しむとセバスチャンは、さらに言葉を重ねた。
「あなたがこの国でどのようなご活躍をされていたか、殿下はよくご存知なのです。あなたの力を、ぜひわが国で貸していただきたいと」
渡りに船。行く当てもない今、申し出を断る理由はない。
「お世話になります」
カタリナが答えるとセバスチャンの顔がぱっと明るくなった。こうして連れられ、ルシエル王国へと向かうことになった。
馬車に揺られながら、これからの生活に、ほんの少しだけ期待を抱いていると、ルシエル王国に到着したカタリナを待っていたのは予想をはるかに超える歓迎。
トトイナ王子はどうやらカタリナの聡明さと、物事に動じない凛とした態度にすぐに惹かれたらしい。
「カタリナ様。あなたの力は、わが国にとってなくてはならないものです。どうか、わたしの傍で、その知恵を貸してください」
トトイナ王子の熱烈なアプローチに、カタリナは戸惑いを覚えながらも、次第に心を許していき、記憶を持つカタリナにとって、トトイナ王子の真摯な眼差しは、どこか懐かしく温かかった。
公務を通じて、さらに深く理解し合っていく。
祖国は、少しずつ財政が傾いていると報告を受けている。
斬新な発想と、トトイナ王子の実行力は、ルシエル王国の発展に大きく貢献した。
ある夜。
「カタリナ。初めてあなたにお会いした時から、惹かれていました。どうか、妻になってください、ませんか」
真剣なプロポーズに、少女の心は大きく揺れ動いた。最低な婚約者とは違う、温かくも自分を必要としてくれる男性。
「……喜んで」
嬉しさにふわりと微笑んだ。




