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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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24/31

24 魔王軍の経理ソアリスは恋と数字で突き進む。大好きなスマホゲームの世界に来た。ラスボス魔王とともに

ざまぁなし

 ソアリスは呆然とした。


「え、ここエレメンタル・ファンタジアの世界かも!」


 朝、見慣れないシャンデリアと豪華すぎる執務室で目を覚ましたときに、盛大に叫んだ。叫びたくもなる。昨日まで平凡なOLだったのに、なぜか大好きなスマホゲームの世界にいる。

 おまけに。目の前にはゲームのラスボス、冷酷な魔王がいるのだ。漆黒のオーラをまとい、深紅の瞳が射抜く。怖い。


(やばい、ラスボスだ……!でも、めちゃくちゃイケメン……!)


 ゲームの中では恐ろしい存在だったが、間近で見ると美貌に息をのむ。震えた。しかし、恐怖が先に立つ。ここになぜ?

 どうして自分がこんなところに?

 混乱するソアリスにローディスは低い声で言った。低ボイス。CV、声優まんま。


「貴様が、新しい経理担当か」


「け、経理担当?」


 どうやら、魔王軍には経理という役職があるらしい。えっ、となる。そして、なぜかその担当になったようだ。

 やばい、記憶にない。状況が全く飲み込めないまま「は、はい!」と返事をしてしまった。ゲームのヒロインは経理なんて設定でもないし。実は密かな目的があった。


 ラッキーだ。ゲームで一番好きだったキャラクター、聖騎士ルークの傍にいたい。

 邪だけど。ルークはローディスの宿敵でありながら、その高潔さと優しさにソアリスは心惹かれていたのだ。


 ミーハーと言え。魔王軍に潜り込めば、もしかしたらルークに会えるかもしれない。

 うまくいけば。そんな淡い期待を胸に、経理として働くことを決意した。


 数日後、実感する。激務だ。魔王軍の経理の仕事は想像以上に煩雑だった。ぐちゃぐちゃになっている。

 各地からの報告書の数字は合わないし、魔獣の食費は異常に高いし。謎のアイテムの勘定科目は不明だし。

 皆が計算できるわけじゃない。それでも、持ち前の明るさと経理スキルでなんとか業務をこなしていく。明るさといっても、社会人の社交辞令なんだけどね?


「今月の財政状況ですが、魔界フルーツの仕入れ価格が高騰しており」


「ふむ。分析は的確だな」


 最初は冷たい態度だったローディスも仕事ぶりを認めるようになってきた。やりやすい。彼の評価曰く、出す書類は正確で分かりやすく無駄遣いを減らすための提案も的を射ている。

 何より、いつも明るく前向きなソアリスの存在はどこか殺伐とした魔王軍の雰囲気を和らげる効果もあった。らしい。

 メイドが教えてくれた。


 そうして念願のルークと再会する。


(ルークだ!ルークぅ)


 ミーハー心、見参!敵として相対する立場ではあったがルークはゲームの中と変わらず優しく、ソアリスの身を案じてくれた。


「なぜ、君が魔王軍に……?」


 たまたまバッタリ出会って。


「あの……色々とありまして!」


 詳しい経緯は言えないけれど、ルークに会えただけでもソアリスは幸せだった。色々うっかり。体をぐねぐねし、悶えるのを耐えたよ。バレずに済んだ。

 そんなある日、魔王軍に大きな問題が発生する。事件だ。重要な資金が何者かに盗まれたのだ。最悪な出来事。


 激怒し、軍全体に犯人捜しを命じる。怒り心頭だったのでわかる。経理担当として帳簿を徹底的に調べた。徹夜して。気付く。これでも仕事してきたからね?

 巧妙に隠された不正の痕跡を。犯人は魔王の側近の一人だった。あいつか〜。


 証拠をまとめ、ローディスに報告する。チクった。最初は信じなかったが示した証拠を見て愕然とする。速攻で側近をボコった魔王。


 事件は無事に解決し、魔王軍には再び平穏が訪れた。めでたいムード。功績を認め、褒美を与えようとする。


「今回の件、貴様の手柄は大きい。何か望みはあるか?」


 少し迷った後、笑顔で言った。私欲でスマン。


「あの、できればルーク様ともっとお話できる機会をいただけませんか?」


 一瞬、意外そうな顔をしたがすぐに小さく笑った。


「面白い女だ。許可しよう」


 おもしれー女認定を受けた。ルークとの面会が許されてから時折、執務室に呼ばれるようになった。相手も忙しい。もっとも、最初はルークの動向を探るための質問が多かった。

 内情知りたいんだってさ。そのうち、ゲーム知識や異世界での生活に関する話題にも及ぶようになった。


「ソアリス、貴様の故郷という世界では、ゲームなるものが存在するというな。それは一体、どのようなものなのだ?」


 興味深そうに尋ねる。異世界を認識しているのが不思議。自分がプレイしていた『エレメンタル・ファンタジア』がいかに魅力的で、キャラクターたちが魅力的だったかを熱心に語る。

 異世界転生も受け入れられていた。特に、騎士道精神。仲間を思う優しさを語る、ソアリスの目はキラキラと輝いていた。


 静かに聞いていたが時折、何か考え込むような表情を見せる。軍師っぽい。

 一方、ルークとの面会もローディスの計らい(?)で何度か実現。ミーハーでスマン、ルークよ。

 最初は警戒していたが敵意のない態度に心を開き始めた。ゲームの中でのルークの活躍や名言を嬉しそうに語り、照れさせる。


「まさか、そんなに詳しく知っている方がいるとは……」


 苦笑しながらもどこか嬉しそう。夢のような時間だった。しかし、平穏な日々は長く続かない。魔王軍の勢力拡大を快く思わない人間族の国々が、大規模な討伐軍を組織し始めたのだ。

 緊張が高まる中、経理としての立場から戦に備えるよう指示する。


「戦は金がかかる。物資の調達、兵站の管理、全て滞りなく行え」


 初めて経験する戦いの準備に戸惑いながらも、必死に数字と向き合った。


 ゲームの中では背景としてしか描かれていなかった物資の流れや兵士たちの食料、武器の調達など、全てがソアリスの肩にかかっている。そんな中、意外な一面を知ることになる。

 普段は冷酷な魔王として振る舞っているが部下たちのことを深く案じ、無駄な犠牲を出さないために綿密な作戦を立てていることを知ったのだ。


「この世界の人間ではないのだろう?なぜ、そこまで真剣に働く?」


 問われて、少し考えて答えた。


「好きになったからです。ルーク様のような素敵な人もいるし、本当は優しい人だって知っていますから」


 真剣な言葉に一瞬言葉を失い、豪快に笑った。


 ついに討伐軍との決戦の日がやってきた。

 後方で、物資の補給や負傷兵の管理に奔走。戦場ではルークが聖騎士として先頭に立ち、圧倒的な力で敵を打ち破っていく。

 凛々しい姿に目を奪われた。

 戦況は一進一退を繰り返す。討伐軍も必死の抵抗を見せ、魔王軍にも徐々に犠牲が出始めた。そんな中、前線に送るはずの回復薬が不足していることに気付く。


「大変!回復薬の在庫が!」


 慌てて倉庫に向かうがほとんど残っていなかった。誰かが横流ししたのか?それとも、単なる手違いか?

 原因は不明だがこのままでは負傷兵たちの命が危ない。一瞬ためらったが執務室に駆け込んだ。


「回復薬が足りません!このままでは、多くの兵士たちが……!」


 必死の訴えに眉をひそめた。


「何だと?すぐに調査しろ!」


 調査を待っている時間はない。自分が持っていたわずかなポーションと、経理の仕事で貯めていたわずかな金貨を握りしめ、一人で戦場へと向かおうとする。その時、背後から低い声が聞こえた。


「どこへ行くつもりだ?」


 振り返ると立っていたのはローディスで。漆黒のオーラはいつもより強く、表情は険しい。


「回復薬を調達してきます!」


 必死に訴えた。


「少しでも多くの兵士を助けたいんです!」


 強い眼差しを見つめ、しばらく沈黙した後、笑い出した。


「やはり面白い女だ。一人で行かせるとでも思ったか」


 前に立ち、手を差し出してくる。


「私も行く。無鉄砲さにはいつも驚かされるな」


 ボスである魔王と経理は、共に戦場へと向かうことになった。強大な魔力で瞬く間に回復薬の材料となる薬草が生息する地域を特定し、ソアリスと共に採取に向かった。


 普段は冷酷な表情しか見せないが、薬草の知識は豊富で一つ一つ丁寧に説明してくれる。横顔は知るゲームのラスボスとはまるで別人。


「これは治癒効果の高い月光草だ。夜にしか咲かないため見つけるのは難しい」


 言いながら淡い光を放つ小さな花を優しく摘み取った。指先は想像していたよりもずっと繊細。


「色々なことをご存知なのですね」


 感心したように言うと少しだけ目を逸らす。


「この世界で生きていれば、それなりに知識も増える」


 素っ気なく答えた。耳がほんのり赤くなっているように見えたのは、気のせいだろうか。薬草を集め終え、魔王軍の陣地に戻る途中、二人は討伐軍の斥候に遭遇してしまう。


「なっ」


 数人の敵兵が襲い掛かってきたが、庇いながら一瞬で彼らを退けた。


「怪我はないか?」


 低い声がソアリスの耳元で響く。間近で見る真剣な表情にドキドキして言葉が出なかった。


「だ、大丈夫です。ありがとうございます」


 小さく頷き、再び歩き出した。歩幅を合わせるように少しゆっくりになっている。

 陣地に戻った二人は急いで回復薬を精製し、負傷兵たちの元へと届けた。献身的に手当てをする兵士たちの姿を見て、胸が熱くなる。


 その夜、自室に呼び出された。疲労の色が見えるソアリスに温かい飲み物を手渡す。


「今日はよくやった。貴様がいなければ、多くの兵士が命を落としていただろう」


 いつものような冷たさはなく、労わるような温かさが。


「そんな……皆さんの役に立ちたかっただけです」


 ソアリスが照れくさそうに答えると静かに見つめた深紅の瞳には、これまで見たことのないような優しい色が。


「ソアリス」


 低い声で名前を呼ぶと近づき、手を握った。


「私にとって……特別な、女だ」


 突然の告白に顔を赤く染めた。あの冷酷な人からこんな言葉を聞く日が来るなんて。

 想像もしていなかった。


「ローディス様」


 戸惑いながらも見つめ返すと、さらに顔を近づけ、額に口づけた。


「えっ」


 唖然とする。


「初めて貴様を見た時から、諦めない強さに惹かれていた。抑えられない」


 甘い言葉に心臓は激しく鼓動する。憧れのゲームの世界でラスボスであるローディスと、こんな関係になるとは。


「私も……尊敬しています。いつも皆のことを考えている優しいローディス様が、大好きです」


 勇気を出して自分の気持ちを伝えると満足そうに微笑み、優しく抱きしめた。


「そうか。ならばこれからもずっと、傍にいてほしい」


 腕の中で身を預ける。


 戦いの後、二人は静かな時間を過ごしていた。安堵のため息をつく。戦場の喧騒が嘘のように穏やかな空気が二人を包んでいた。


「ローディス様」


 小さく呟くとローディスは優しく髪を梳いた。


「どうした?」


 凛々しさの中に少しの優しさを滲ませている。声を聞くだけで胸の奥が温かい。


「あの時助けてくれなかったら。私はどうなっていたか」


 ソアリスの言葉に顔をしかめた。


「そんなことを考えるな。お前を絶対に守ると決めたんだから」


 力強い言葉に改めて覚悟を感じた。初めて会った時から瞳の奥に宿る強さと優しさに惹かれていく。決して諦めない姿勢に何度励まされたことか。


「ありがとうございます」


 そっと胸に顔を埋めた。鼓動が耳に優しく響く。温もりを感じているとどんな不安も消えていくよう。


 それから数日後、二人は共に過ごす時間の中で言葉を交わすだけでなく、互いの沈黙も心地よく感じるようになっていた。共に食事をし、共に景色を眺める。そんな何気ない日常。


 ある夜、自分の夢を語った。いつか争いのない世界で、ローディスと共に穏やかに暮らしたいと。言葉を聞き終えると目を見て頷いた。


「ああ、おれも同じだ。お前と二人、静かで平和な世界を築きたい」


 聞いた瞬間、心は喜びに満ち溢れた。同じ未来を願ってくれていると。事実が何よりも心強い。二人は互いの手を握りしめた。

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