22 私の最高傑作の音楽を騒音とバカにした彼らから音を永遠に奪うことにした〜そんなに音が好きならば好きなだけお互いの罵る声を聞き合えばいい〜
追放
元は侯爵令嬢だけど、今は辺境の村でヴィニオラは音の魔術師として大人気。音楽家っていうより音響技師、サウンドエンジニアと呼んでほしい。
半年前、突然追放したのは元婚約者の第二王子カークサー。やつは公衆の面前で断じた。
「ヴィニオラ、お前が熱中する騒音のような音響調整や野蛮な楽器の演奏は、王家の品位を損なう。私は天の歌声を持つと評判の公爵令嬢、ロウサリアと婚約する!これは決まったことだ」
騒音?操るのは人間の耳が感知できる全ての周波数帯と、音波が持つ振動エネルギーなんだけど。
カークサーは音楽界の支配者だと知らずに自称歌姫のロウサリアを選んだわけ。素人らしい。
さて、そのカークサーとロウサリアが今夜、王都最大の慈善コンサートを開催するらしい。もちろん、メインはロウサリアの天の歌声だとか。あーあ、吐き気がする。
コンサートの数時間前、警備が手薄なうちに会場に潜入。目的は一つ。最高の音響をロウサリアたちにプレゼントすること。
用意した破壊を起こす周波数は二種類。人間の耳には聞こえない、超低周波数の音波。
効果は聴覚以外の身体機能に影響を与え、体内のバランスを乱してしまう。極度の不快感と聴覚麻痺を引き起こす。
ロウサリアの自称歌声破壊には共振の高周波。歌声のピッチと完全に一致するが、ごく僅かにズレた高周波。
ロウサリアの歌声を聴く人全員にとって、耳をつんざく騒音に変える。コンサートホールの音響システムとカークサーが座る貴賓席の真下の床に、特殊な音波発生装置を仕掛けた。
カークサー、ロウサリア、あなたたちの誇りと聴覚、まとめてぶっ壊してあげる!
慈善コンサートが始まった。会場は満員。カークサー王子がロウサリアをエスコートし、貴賓席に座る。
「皆様、本日のメイン、我が愛するロウサリア嬢の天の歌声を!」
カークサーが優雅に挨拶した瞬間、ヴィニオラは遠隔でスイッチを入れた。ぽちっとな。
王子カークサーの身体機能が破壊されるための仕掛け。貴賓席の床下から極秘の不協和の低周波が発動。
「う、頭が」
カークサーには音は聞こえないのに、急激な吐き気と激しい耳鳴りに襲われた。体内の水分と神経が超低周波の振動で揺さぶられているのだ。周囲がざわめく中で顔面を蒼白にさせ、立っていることもできなくなる。
「き、気持ち悪い……お、音が、音が全く聞こえない?」
カークサーは低周波の影響で、一時的に重度の難聴に陥る。王族として最も重要な周囲の声を正確に聴き取る能力が奪われた瞬間。
そして、ロウサリアがマイクを握り、天の歌声を披露し始めた。音響システムから発せられた共振の高周波が歌声と衝突。見事に当たった。
「あああああ!痛い!耳が裂ける!」
会場の観客たちはロウサリアの歌声がガラスをひっかくような、耳をつんざく不快な騒音に変わったのを感じ、次々と耳を塞いで悲鳴を上げていく。
ロウサリアは自分の歌声が、会場全体を不協和音の地獄に変えていることに気づかず、必死に歌い続けた。
自慢の歌声は、ヴィニオラの周波数操作によって一瞬にして公開騒音へと変貌したのだ。うふふふ、と笑う。
コンサートはカークサー王子の体調急変による、重度難聴とロウサリアの歌声による騒音パニックという、最悪の形で中止された。
女は、自分の歌声が聴衆を苦しめたと知って偽りの歌姫の烙印を押され、名誉を完全に失う。
カークサーの不調は一時的なものだったが、重度の難聴はすぐに回復せず、聴覚に異常をきたした王子として王位継承権の正当性を大きく失墜させた。
王族が耳を使えないなんて致命的なのだ。声を聞けない統治者に未来はない。
ヴィニオラは遠くの隠れ家で自分の仕掛けた音波発生装置の停止音を、満足げに聴く。
「ふふ、騒音だと蔑んだ力が最も大切な聴覚を奪った。歌声という偽りの名誉を粉砕したし。これが真の音の力」
ヴィニオラは辺境で聴覚の女神として、皆から崇められるようになる。
一方、カークサーとロウサリアは音の世界から永遠に追放されたのだった。
そんなに音が好きならば、好きなだけお互いの罵る声を聞き合えばいい。




