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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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20/28

20 りんごを届ける健気な婚約者を捨てた王子はりんごの木になってしまったらしい。過去の悲しい婚約のことは考えませんでした。報われなかった愛は彼の姿を変え、犯した過ちを永遠に語り継ぐのでしょうね

 昔々、ある国にりんごのように愛らしい少女がいました。名前はレイテエル。瞳は若葉の色、髪は熟れたりんごの赤色でいつも元気いっぱいの笑顔が特徴でした。そんなレイテエルは幼い頃から隣国の王子様、フランソワドと婚約していました。絵に描いたような素敵な王子様で、憧れの人。

 彼のために、毎日りんごの世話をしていました。真っ赤でつやつやのりんごを育てるのが大切な役目だったのです。


「このりんごのようにフランソワド様の愛も育っていくのね」


 いつも夢見ていました。ある日、いつものように摘みたてのりんごをフランソワド様に届けに城へ向かいました。お城に着くと、フランソワド様と見慣れない美しい女性が楽しそうにお話しているのが見えました。


 白いドレスを身につけ氷の女王様のようにクールで、それでいてとても魅力的な方。

 レイテエルは胸の奥がチクッとしましたが、笑顔でフランソワド様に声をかけました。


「フランソワド様、今日もとれたてのりんごをお持ちしましたわ」


 フランソワド様は振り返り、顔を見ると少し気まずそうな顔をしました。


「レイテエルか。ちょうどいいところに」


 フランソワド様は隣の女性の手を取り、レイテエルに紹介しました。


「こちらは、隣国の公爵令嬢、メイフィス様だ。メイフィス様と私はこの度婚約することになった」


 耳を疑いました。心臓がドクンと大きく鳴り、持っていたりんごの入った籠が手から滑り落ちました。ガタンと音を立てて、真っ赤なりんごが床に転がります。


「え……?」


 か細い声で尋ねました。


「フランソワド様、私との婚約は……?」


 フランソワド様はため息をつきました。


「レイテエル、すまない。君は素晴らしい女性だがメイフィス様が必要なんだ。彼女こそ国の未来を共に築くのにふさわしい」


 メイフィス様はじっと見つめました。視線は凍えるような冷たさ。大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちました。たった今落ちたりんごから染み出す蜜のように。


「そんな……ひどいです、フランソワド様!」


 泣きながらお城を飛び出しました。後ろからフランソワド様が追いかけてくることはありませんでした。心は砕け散ったガラスのようにバラバラになり、夢見ていた未来は、一瞬にして消えてしまいました。


 帰り道、泣きながら地面に座り込みました。目の前にはたった今落ちて傷ついたりんごが転がっています。りんごをそっと拾い上げました。


「私と同じね……」


 その時、一陣の風が吹き頬を優しく撫でました。風に乗ってどこからか甘いりんごの香りがしてきて顔を上げました。


「そうよ、私にはまだりんごがあるわ」


 涙を拭いました。たとえフランソワド様がいなくても自分には大切な役割がある。美味しいりんごを育てみんなを笑顔にする、という役目が。


 心に決めたのです。もうフランソワド様を追いかけるのはやめよう。自分の手で新しい未来を切り開こうと。故郷に戻り、これまで以上に一生懸命りんごの世話をしました。育てるりんごは以前にも増して甘く、美しくなりました。


 レイテエルが育てるりんごは瞬く間に評判となり、遠い国からも買い付けに来る人がいるほどになりました。

 そして、りんごを使って美味しいジャムやパイも作るようになりました。作ったお菓子は食べる人をみんな笑顔にする不思議な力がありました。


 ある日、見知らぬ若い商人が訪ねてきました。


「レイテエル様が作るりんごのお菓子は国で一番美味しいと評判です。ぜひ、私の店で扱わせていただけませんか?」


 商人は優しく微笑みかけました。瞳は澄んだ泉のように美しく、心を温かくしました。彼と共に新しいお店を開くことになりました。

 もうフランソワド様のことを思い出すことはほとんどありませんでした。自分の手で新しい幸せを掴んだのです。そして、少女と若い商人はたくさんのりんごに囲まれて、いつまでも幸せに暮らしました。


 レイテエルが若い商人とともに新しい生活を始めて、数年が経ったある日のこと。隣国からやってきた行商人がお店で休憩していました。水を飲みながらそっとレイテエルに話しかけました。


「あの、レイテエル様。フランソワド王子のことをご存じですか?」


 手が止まりました。フランソワド様のことを思い出すことはほとんどありませんでしたが、急に昔の傷がうずくのを感じました。


「ええ、少し」


 レイテエルは答えました。行商人はヒソヒソ声で話し始めました。


「実は、ひどい奇病にかかってしまったとか。体が徐々に硬くなり、肌は木肌のようにごつごつとして全身が赤く変色していっているそうです。りんごの木のように」


 息を呑みました。


「不思議なことに病はメイフィス様が王妃になられてから急に始まったと。メイフィス様はレイテエル様が育てたりんごを、ことのほか嫌がっていたと聞いています。毎日、お城に届けられるはずのりんごを全て捨てさせていたそうですから」


「まさか……」


 震える声でつぶやきました。行商人は続けます。


「この国の誰もがこれは天罰ではないかと噂しています。フランソワド様が純粋な愛と国に恵みをもたらすはずだったりんごの精のようなレイテエル様を裏切った報いではないかと」


 遠い目をして、届けた真っ赤な、愛を込めたはずのりんごを思い出していました。


「先週のことです。フランソワド様はとうとう完全に木の姿に変わってしまわれました。場所はレイテエル様が毎日りんごを運んだ、お城の庭の一番日当たりの良い場所だそうです」


「メイフィス様は木を恐れ、毎日泣き叫んでいるとか。王妃としての威厳もなく周りの人らからも冷たい視線を浴びています。フランソワド様の病は誰にも治すことができない、謎の病だそうです」


 頷きました。胸の奥のモヤモヤがすっと晴れていくのを感じました。復讐心などはありませんでしたが残酷な裏切りが、形を変えて彼自身に戻っていったことに奇妙な安堵を覚えました。


「そう」


 優しい笑顔を浮かべ、行商人に焼き立てのりんごパイを差し出しました。


「一番新しいパイです。よろしければどうぞ」


 行商人はパイを受け取り、美味しい香りに笑顔になりました。窓の外の青空を見上げました。隣には優しい商人がいて、目の前には愛するりんごがたくさんあります。

 過去の悲しい婚約のことは考えませんでした。報われなかった愛は彼の姿を変え、犯した過ちを永遠に語り継ぐりんごの木となったのです。


 代わりに新しい、本当に甘い幸せを手に入れました。ここからさらに、豊かに明るく続いていくのでしょう。いえ、続けていくのです。

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