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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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19/28

19 公爵家の妻としては不適格だ。我々の家にはもっと相応しい人間が必要なんだ。あのぉ、それってあなたにも当て嵌まるのでは?

 ファラリーラは幼い頃から物や人に触れると、記憶や優しい感情が光の記憶として見える不思議な力を持っていた。

 力を理解してくれる人はいなかったし、周囲からは変わった子と距離を置かれずっと孤独にされる。


 唯一優しくしてくれたのが、この国の次期公爵であるオイオニスだった。彼はこの力を「面白い」と言ってくれ、彼の婚約者として迎え入れてくれたことに夢見心地になる。


 これでもう孤独ではない、そう信じて疑わなかった。公爵家での生活は思い描いていたものとは違い、社交界の厳しいルールや貴族としての振る舞いを徹底させられる。

 常に公爵家の妻としてという前提があり、個性や光の記憶の力は彼にとって飾りでしかなかった。


「お前の力は公爵家の権威を示すためのものだ。無駄なことに使うな」


 無機質に言われるたびに心は少しずつ冷えていった。本当に求めていたのは力を理解し、自身を受け入れてくれる人だったのだと気づき始めた頃、事件は起きる。

 公爵家の晩餐会でオイオニスは突然、婚約破棄を告げた。


「ファラリーラ。公爵家の妻としては不適格だ。我々の家にはもっと相応しい人間が必要なんだ」


 彼の隣には家柄が良く、社交界でも華やかな笑顔を振りまく別の女性が立っていた。光の記憶の力とは真逆の全てを完璧にこなせる才媛。

 オイオニスは壊れた人形のように扱ってきて、心は粉々に砕け散った。場に崩れ落ちた女に誰かがぶっきらぼうに声をかけた。


「……随分と、くだらねぇ茶番を見せられたもんだな」


 声の主は会場の隅で静かにワインを傾けていたアッシュだった。彼は国の裏社会を牛耳る危険な男だと噂されていたが、その場の誰もが彼に逆らえない。アッシュは一瞥し、フンと鼻で笑った。


「そんな価値のない男にいつまでも縋ってんじゃねぇ。時間の無駄だ」


 言い放つと腕を掴み、公爵家から連れ出した。腕は噂とは裏腹に意外なほど温かく、アッシュが連れてきたのは街の裏路地にある、古びた洋館。

 孤児たちや傷ついた動物たちを受け入れている、小さな救護院。救護院の裏方を取り仕切っているらしい。


「ここで好きにしていろ……だが、妙な力、少しは役に立てるようにしてみせろ。無駄にするなら、邪魔にしかならん」


 言い放ち救護院に残した。アッシュは常にぶっきらぼうで、優しい言葉をかけることはほとんどなかったけれど傷ついた動物を夜通し看病したり、寂しそうな子供にそっとお菓子を渡したりする姿を何度も目にして、人となりを知る。


 彼の不器用な優しさが凍りついた心を少しずつ溶かしていき、自分の光の記憶の力が救護院で役立つことに気づいた。

 壊れたおもちゃに触れると子供たちの笑顔の記憶が見え、どうすれば直るのかが分かる。


 病気の動物に触れると、どこが痛いのか、どんなケアを求めているのかが光の記憶として見える。光の記憶で修繕したり、動物の状態を伝えたりするたびに口元を少しだけ緩めることがあった。


「……ふん。ようやく力が役に立つようになったのか。遅すぎるくらいだがな」


 そう言われるたびに身はポカポカと温かくなる。


 救護院での日々は本当の居場所でアッシュは相変わらずぶっきらぼうだったが、彼の行動の端々から子供たちや動物たち、不器用な優しさが伝わってきた。


 救護院に一人の老人が運び込まれてきて、この街で名を馳せた有名な彫金師だったが今は笑顔をすっかり忘れ、何も話さなくなっているとか。

 彼の周りからは見えないはずの光の記憶が、まるで澱んだ泥のように濁って見えた。


「……また、こういうのが来たか。最近、この街じゃ珍しくねぇな」


 アッシュは老人を一瞥し、忌々しそうに呟く。このところ、街では同様の症状を訴える人が増えてきているのだ。

 皆、何かに心を閉ざされたかのように笑顔を忘れ、無感情になっていく。


「これは、ただの病気じゃねぇ。何か別の力が働いている」


 アッシュは言って、古い絵本を差し出してきたのだが絵本は彫金師が子供たちに読み聞かせていたものだと、救護院のスタッフが教えてくれた。


 絵本に触れるとぼんやりとたくさんの子供たちの笑い声と、彫金師の優しい眼差しが見えた。光はすぐに闇に飲み込まれていく。


「ファラリーラ、お前の光の記憶で、奴らの心を取り戻せ……奴らが失くした光を見つけ出せるのはお前しかいない」


 アッシュの命令の奥には彼自身の焦りと、失われた温もりを取り戻したいという強い願いが込められているのが分かった。

 彫金師の失われた笑顔を取り戻すため、彼が大切にしていたであろう光の記憶を辿ることに。絵本から辿った光の記憶は、街の片隅にある忘れ去られた工房へと導く。


 そこは埃まみれで長い間使われていないらしい。工房の奥には奇妙な紋様が刻まれた古い石板が隠されていた。


 石板に触れると激しい頭痛に襲われ、これまで見たことのないおぞましい闇の記憶が流れ込んできたそれは、人々から温かい記憶を吸い取り心を蝕む呪われた遺物の記憶。

 遺物は街の地下に封印されていたものだということも分かる。封印が何者かの手によって破られたことも。


「……見つけたか。チッ、やはり厄介なものに手を出したな、連中は」


 いつの間にかアッシュが隣に立っていて、彼の表情は普段よりも険しく、警戒の色が濃くなる。


「街の地下深くにある、魂の貯蔵庫から漏れ出た闇の瘴気があの遺物に反応して、人の心を蝕んでいるんだ」


 彼の話によると魂の貯蔵庫とは、この街の開祖が人の温かい感情や美しい記憶を集めて封印した場所だという。

 街を守るための聖なる場所であると同時に、負の感情が混じればそれが呪いとなって広がる危険も孕んでいる。


「このままでは街中の人間が心を失ってしまう……奴らを止める方法は一つだけだ」


 アッシュは真っ直ぐに見つめ瞳の奥には、いつも通りの冷たさの中に強い決意が。


「お前の光の記憶の力で遺物に触れて、魂の貯蔵庫の光と繋げろ。そうすれば瘴気を浄化し、心を蝕む力を止められる」


 あまりにも危険な提案。闇の記憶に触れることは心まで蝕む可能性があるから。街を守りたいという強い思いと、揺るぎない信頼が込められているのを感じた。


 迷わず頷く。彫金師の絵本から伝わる温かい記憶、救護院の子供たちの笑顔。それらを取り戻すためなら、どんな危険も恐れはしない。


「賢明な判断だ。だが、くれぐれも無茶はするな。お前の代わりはいない」


 アッシュは言い放ち、一緒に救護院の地下へと向かった。外部からは決して見えない、古びた地下道が続いていた。

 ひんやりとした空気が肌を刺し、奥へ進むほど不気味な瘴気が濃くなっていくのを感じる。


「ここが、魂の貯蔵庫へと続く道だ。あの呪われた遺物が封印されていた場所でもある」


 足元を照らす小さな光を頼りに導いた。彼の表情はいつも以上に真剣で、その瞳には街への深い想いが見える。

 やがて、広大な空間にたどり着いたそこには禍々しいオーラを放つ、巨大な石の祭壇が。

 祭壇の上には彫金師の工房で見たものと同じ、不気味な紋様が刻まれた呪われた遺物が鎮座していた。


 周りに生きているかのように蠢く、黒い影のような闇の記憶が渦巻いている。


「あれに触れるんだ。お前の光の記憶を遺物と魂の貯蔵庫の光に繋げる。だが、少しでも躊躇すればお前まで闇に引きずり込まれるぞ」


 じっと見つめた。言葉は冷たかったが眼差しには、信じ、守ろうとする強い意志が感じられて大きく息を吸い込む。

 震える手で呪われた遺物に触れた瞬間、おぞましい闇の記憶が津波のように押し寄せた。人の絶望、憎悪、悲しみ……。


 あらゆる負の感情が心に直接流れ込んできた。


「ぐっ……う!」


 意識が遠のきそうになるとアッシュが強く支えてくれた。


「しっかりしろ、ファラリーラ! お前は一人じゃない。奴らに呑み込まれるな!」


 アッシュの声が耳元で響いた。温かい手が背中を優しく擦ってくれる。

 その温もりが闇に飲まれそうになっていた意識を、現実に引き戻す。

 信じ、奥底に眠っていた光の記憶を呼び起こしたそれを呪われた遺物と魂の貯蔵庫へと繋げるイメージを強く念じた。


 光が放たれ闇の記憶を少しずつ押し返していく。光と闇がぶつかり合い、激しい衝突が起こる。歯を食いしばり、必死に光の力を送り続けた。


 祭壇の呪われた遺物から、黒い瘴気が少しずつ晴れていくのが見え、奥から温かい優しい光が溢れ出す。魂の貯蔵庫に蓄えられていた、人々の温かい記憶の光。

 呪われた遺物から闇の瘴気が完全に消え去り、穏やかな光を放つ美しい水晶が残されていた。


 街を覆っていた重苦しい空気は消え、人から失われていた笑顔が、少しずつ戻る。彫金師の老人にも穏やかな笑顔が戻り、彼は救護院の子供たちに再び絵本を読み聞かせた。


「……ふん。まぁ、及第点といったところか。」


 アッシュは満足げに水晶を見つめた。彼の表情はほんの少しだけ柔らかい。


「これで、しばらくは平和が続くだろう。だが、この街の地下にはまだ知られていない遺物が眠っている。……俺たちの仕事はまだ終わっちゃいねぇ」


 その仕草はぶっきらぼうながらも、感謝が込められているように感じられフフッと笑う。

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