14 ホテルの品質管理伝統ある一流コンシェルジュ。無能な二代目社長による解雇宣告へのカウンター。自分が城の主だとでも思っているのだろうか。私以外とは話さない契約をホテルではなく私個人と結んでいますが
現代ざまぁ
このホテルのロビーで宿泊客の視線も気にせず、二代目社長の息子で現副社長が辞令を叩きつけた。
「高梨、君はクビだ。融通の利かない女がコンシェルジュのチーフでは我がホテルの新しい風が台無しだ。これからはSNSで人気の彼女にこの席を譲ってもらう」
隣にはフォロワー数だけが自慢の、ホテルの業務内容すら把握していないインフルエンサーの女性がデスクに腰掛けて笑っている。
「労働基準法に基づく解雇予告手当の即時支払い、私が保有する顧客リレーション資産の完全引き揚げについて同意されたと見なしてよろしいですね」
「資産?客はホテルについているんだ、君個人じゃない!勘違いするな!」
バカバカしいと白い手袋をゆっくりと脱ぎ、デスクの上に置いた。感情を動かす価値なし。ホテルの格が今、音を立てて崩れたことを数値的に理解した。
自分のホテルの実力だと思っている。年間数億円を落とす超VIPたち。彼らがホテルを選ぶのは、建物の古さや料理のためではない。
彼らのアレルギー、好み、記念日、さらには愛人の誕生日からペットの持病までを完璧に管理し、先回りして手配しているから。
「わかりました。即刻退去いたします。確認ですが今夜ご宿泊予定の某国の石油王アル・サード閣下への対応はどうされますか?私以外とは話さないという契約を我がホテルではなく個人と結んでいます」
「な……なにっ!?そんな勝手な契約があるか!」
「ありますよ。コンシェルジュとしてのスキルはホテルの備品ではなく、知的財産ですから。ああ、個人携帯に閣下から高梨がいないなら今夜のスイート十室の予約はすべてキャンセルし、違約金も法務部を通して争うとの連絡が入りました」
副社長の顔が一気に土気色に変わった。それだけではない。指を鳴らすとロビーに控えていた数名のベテランスタッフたちが、静かにバッジを外して背後に並んだ。
「さらに調理長、フロントマネージャー、清掃責任者。彼らも私と共に本日付で退職いたします。彼らもまたチームとして個人と雇用契約の覚書を交わしておりますので」
「ま、待て!冗談だろう!全員いなくなったら今日からの運営はどうする!」
「SNSで人気の彼女にやらせてみてはいかがですか?映えだけで石油王の気難しさを宥められるのなら、素晴らしい経営判断と言えるでしょうね」
一瞥もせずにロビーの自動ドアへと歩き出したドアの外には既に一台の黒塗りの高級車が停まっている。
「……お疲れ様高梨。やっと君を迎えに来られた」
車のドアを開けて待っていたのは、業界最大手のライバルホテルの若きCEO松永。スカウトしようとして「今のホテルへの義理があるから」と断られた男。
「松永様。いえ、松永社長一分遅れです。私の時給を考えればかなりの損失ですよ」
「手厳しい。君の無駄のなさが欲しかったんだ。これからは僕の隣で世界一効率的で温かなホテルを作ってくれないか?」
「……検討しましょう。私のチーム全員の給与、今の倍に設定してくださいね」
「安いものだよ。宝を手に入れるための対価としてはね」
車に乗り込み、一度も振り返らずにアクセルを踏ませた背後では予約キャンセルとスタッフの不在でパニックに陥るホテルの喧騒が聞こえるが、それはもう管理外。




