12 双子の妹と共謀。悪事?婚約者であるあなた様のために夜会で浮気相手を遠ざけたこと?学園で浮気嬢が迷惑をかけた尻ぬぐいをしたことでしょうか?
目の前で繰り広げられる茶番劇を冷たい視線で見つめていた。場所は王立学園の卒業パーティー。華やかな会場の真ん中で金色の髪が眩しい第二王子のミッシェルが、壇上からイリスに向かって指を突きつけている。
「貴様との婚約を破棄する!」
大勢の視線が突き刺さる中、王子の隣にはイリスの双子の妹が可憐に涙を浮かべて寄り添っていた。
「姉様、ごめんなさい……私ミッシェル様のお役に立ちたくて、姉様が裏でしてきた悪事をすべて殿下にお話ししたの……!」
アーシアが震える声で告白すると会場はざわめきに包まれた。イリスがアーシアを苛めていたこと、王子の寵愛を邪魔しようと画策していたこと——それらは全て、アーシアが王子に吹き込んだ毒の告白。しかし、イリスの口元には微かな笑みが浮かんでいた。
「悪事?婚約者であるあなた様のために、夜会で浮気相手を遠ざけたこと?学園でアーシア嬢が迷惑をかけた尻ぬぐいをしたこと、でしょうか?」
イリスはため息をつくと優雅にお辞儀をした。態度は断罪されている者とは思えないほど堂々としている。
「ご安心くださいミッシェル殿下。婚約はもう私にとって何の価値もありません」
イリスは双子の妹アーシアにまっすぐ視線を向けた。
「ねぇ、アーシア。私たちが初めて入れ替わったのはいつだったかしらね?」
会場が再び静まり返る。イリスは突然とんだ話題に困惑する王子と、顔色を変えた妹を見てさらに笑みを深めた。
「あなたとミッシェル殿下の甘い逢瀬。あなたが姉として振る舞い、立場を利用して殿下を籠絡した。でも、その間に妹として振る舞っていたのは誰だったと思いますか?」
瞬間、アーシアの背後に控えていたアーシアの従者として誰もが認識していた人物が、ゆっくりと顔を上げる。イリスと瓜二つの顔を持つ、もう一人の双子の妹プリアラ。顔が同じ。
プリアラはアーシアと同じくドレス姿だが表情は冷酷なほど無機質。
「アーシア嬢、楽しかったですか?姉の婚約者を奪って、悪女に仕立て上げるお芝居は」
プリアラの冷たい声が響き渡る。会場の誰もが今目の前にいるイリスとプリアラが、信じられないほどそっくりなことに気づき始めていた。
「私たちはあなたたちよりずっと前から、イリス・ヴェルナーの役割を交代していたのですよ。アーシア嬢、あなたが告白をした相手は本当のイリスではありません。双子の妹プリアラでした」
イリスはプリアラと視線を合わせ、同時にふたりは目の前のミッシェルとアーシアに最高の笑顔を向けた。
「時間ですわ」
プリアラの告白により会場は阿鼻叫喚の渦となった。ミッシェル王子は狼狽し、アーシアは顔面蒼白になっている。
「な、何を言っているんだ!姉妹で企んで騙そうとしているのか!」
ミッシェルは怒鳴ったが本物のイリスは王子を哀れむような目で見つめた。
「殿下、あなたはいつもそうでしたね。都合の悪い真実は全て騙されていることにする。でも、私たちが姉妹で企んだのは事実です。あなたとアーシア嬢を……この場で完璧に破滅させるために」
イリスは静かに手を上げた。すると会場の後ろに控えていた数名の使用人たちが、王子の前に次々と証拠の品を運び出す。
プリアラがアーシアとして王子に近づいていた際、アーシアが悪徳な錬金術師に極秘で作成を依頼していたイリス殺害計画の毒薬の製造依頼書。言い逃れできないものを。
「アーシア嬢は婚約を破棄しただけでは満足せず、暗殺する計画まで立てていました。ご丁寧に依頼書にはアーシア嬢直筆のサインがございます」
ミッシェル王子がアーシアの浪費を補うために、王家の軍事機密文書を他国のスパイに売り渡していた帳簿の写しは、公爵家が密かに王子側近に仕込んでいた者が入手したもの。
「そして殿下。あなたは色香に溺れ、貢ぐために我が国を危機に晒す大罪を犯していました。謀反に匹敵する重罪です」
アーシアとミッシェルが逢瀬を重ねた際にプリアラ(イリスになりすまし中)が、アーシアがイリスとして残していった日記や手紙を保管していた。
「アーシア嬢がイリスの立場にいた時に書いた記録です。筆跡鑑定の結果、今日までイリスが書いた文書と筆跡がすべて一致しています。つまり、あなたは長期間において偽りのイリスと愛を語らっていたということです」
証拠の数々にミッシェルは膝から崩れ落ちた。アーシアは絶叫して助けを求めるが、声に耳を傾ける者はもういない。公爵家はすでにこのパーティーに、王族内のイリス派閥の重鎮や司法のトップまでを招待していたから。
震えるアーシアの前に立ち、冷酷に告げた。
「貴女がイリスを装い、遊びほうけている間、本物の姉様は公爵家で何をしてきたか知っていますか?貴女が作る借金の尻ぬぐい、貴女が起こす外交上の失態の隠蔽、手をつけかけた王家の機密を守るための証拠固め」
本物のイリスが凛とした声で結んだ。
「殿下、アーシア嬢。イリス・ヴェルナーは貴方たちとの婚約破棄を強く要求します。機密漏洩、暗殺未遂の罪をもって国王陛下へ告発します」
後日、ミッシェル王子は王位継承権の剥奪と、機密漏洩の罪で生涯を辺境の監獄で過ごすことが確定。アーシアは姉を陥れ、王子の立場を利用した詐欺と暗殺未遂の罪で庶民籍に落とされた上で、重労働の刑に処せられ未来は泥にまみれたものとなる。
二人は揃って高らかに笑い合った。
「お疲れ様、イリス。あなたの計画は完璧ね」
「貴女の演技力もよプリアラ。公爵令嬢の役割、もう当分はいいかしら?」
イリスとプリアラは悪事が暴かれたミッシェルとアーシアを背に会場の扉へ向かう。
「私たちはもう自由。新しい人生を始めましょう」
扉の外ではイリスの真の理解者であり、すべての計画の裏で資金と情報を援助していた、他国の若き国王が微笑んで待っていた。
「私の花嫁、よくやった。迎えに行こう」
イリスはこれまでの重圧から解放され、心からの笑顔を浮かべる。双子の妹と共謀し、悪役令嬢として振る舞うことで自らの人生を勝ち取ったのだ。




