11 会場を出ていく背中にクスクスという嘲笑が聞こえますが誰も気づいていませんでした。扇子の下で満面の笑みを浮かべていることに……明日から地獄のパレード行きですのに
夜会の大広間に、第一王子の品のない叫び声が響き渡りました。シャンデリアが輝く煌びやかな会場は、一瞬にして静まり返ります。
中心で勝ち誇った顔をしているのは私の婚約者であるバカ王子……いえ、元婚約者のババハルト。腕にへばりついているのは、ピンク髪のふわふわした男爵令嬢。
「イエーラ!お前のような可愛げのない女は、もう願い下げだ!私は真実の愛を見つけた。この愛らしいミルルウカこそが、次期王妃にふさわしい!」
鼻息荒く宣言。汚いです。
「よって、お前との婚約は破棄する!悔しいか?惨めだろう?今まで偉そうに私の補佐をしてきた報いだ。はっはっはっ!」
会場中の視線がイエーラに突き刺る。普通ならここで泣き崩れたり、怒ったりする場面。でも、扇子で口元を隠し、ニッコリと微笑みました。
「あはは……承知いたしました」
「は?」
男は間の抜けた声を出します。
「至らなさにより婚約破棄の件、謹んでお受けいたします。これにてお役御免ということで、今この瞬間から自由の身にならせていただきます……ね」
「あ、ああ。そうだ!二度と顔を見せるな!醜女!」
「醜女?ふっ。かしこまりました。では、ごきげんよう」
優雅にカーテシーをすると、くるりと背を向けました。会場を出ていく背中に、クスクスという嘲笑が聞こえます。でも、誰も気づいていませんでした。扇子の下で、満面の笑みを浮かべていることに。皆、明日から地獄のパレード行きですのに。
翌朝、意気揚々と執務室に入ったババハルトは、机の上を見て固まる。
「な、なんだこれは……?」
そこにあったのは天井まで届きそうな書類の山、山、山。どっさりと。
「おおお、おい!これはどういうことだ!?なんだこれは?」
側近が青い顔で駆け寄る。
「た、大変です!今までイエーラ様が処理していた予算管理と貴族間の調整、外交文書の翻訳と陳情がすべて手つかずで戻ってきました!」
「は?あれは全部、私が魔法のようにササッと終わらせていたはずだろう!?」
「え?は?いいえ?殿下があとでやると放り投げたものを、イエーラ様が毎晩徹夜で片付けていたのです!」
「な……!?」
さらに別の文官が飛び込んできます。
「報告します!ミルルウカ様がお茶会を開きたいから国庫からお金を出してと騒いで、金庫番ともめています!」
「なんだと!?イエーラならうまく宥めていたぞ!」
「イエーラ様はもういらっしゃいません!それに隣国との貿易協定の期限が今日までです!イエーラ様のサインがないと更新できません!どうなさいますか!?」
「どうって……う、嘘だろ……?」
ババハルトは顔面蒼白に。今まで自分の能力が高いと勘違いしていましたが、実は超有能な婚約者という名のオート・モードで人生をプレイしていただけだった。
その頃のイエーラは。
「あ~、最高」
領地の別荘で優雅に紅茶を飲んでいました。激務から解放され、肌ツヤも絶好調。
王都から離れた地は空気も美味しく、今まで読む暇もなかった恋愛小説を読み漁る日々。まさに天国。
ボロボロの服を着た男が馬を飛ばしてやってきました。どかどかとうるさく。目の下に巨大なクマを作った、ババハルト。
「エ、イエーラァァァ!!頼む!戻ってきてくれぇぇ!!」
庭の柵にしがみつき、必死に叫ぶ。
「私が悪かった!ミルルウカは浪費家だ!やっぱりお前じゃないとダメなんだ!国が終わってしまう!こ、婚約者に戻してやるから!なあ!?最高だろ!」
バルコニーから見下ろし、冷たいアイスティーを一口飲み一番いい笑顔でお返し。
「元々あなたの仕事です」
「無理だっ!不可能なんだ!」
「無能の極みですわね」
追い返された男は書類の山に埋もれ、国王から大目玉を食らう。現在はミルルウカと共に地方の修道院で反省の日々を送っているとか、いないとか。
「王子!爪がボロボロになってる!びえーん!」
「泣くな。泣いても仕事は減らんのだぞ」
婚約破棄されたあと、イエーラは隣国の賢王に「その手腕をぜひ我が国で!」と好待遇で再就職。溺愛されながら幸せな日々を送ることになった。
「イエーラ、そろそろ返事を」
国宝級の顔に見つめられたけど簡単に堕ちはしない。
「そう急かさないでください。あなたを知っていく時間がほしいのです」
指先にキスをされても堕ちないわ?




