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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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01 今さら特効薬がないと泣きつかれてもわたしには関係ないのですが?悪気はないって信じられませんよ

追放済み聖女

 辺境伯領にある竜の離宮。


 魔獣が蔓延る死の地と呼ばれていた場所は、今や大陸一の薬草園と温泉地を有するリゾート地へと変貌を遂げていた。美しい庭園で優雅にティータイムを楽しんでいた女が一人。


「リトリエラ、口元にクリームがついているぞ」


「あら、ごめんなさいカイド様」


 目の前に座る、白銀の髪に黄金の瞳を持つ絶世の美丈夫のカイドが唇を親指で拭う。

 呪われたトカゲ公爵と呼ばれ、全身が鱗に覆われていた彼だがこちらが生成した特級ポーション風呂に一週間浸かっただけで、この通りの美貌を取り戻したのだ。


「甘いな……イチゴのタルトより」


「ふふ、もう、カイド様ったら」


 微笑み合っているとけたたましい音が静寂を破る。


「リトリエラ!リトリエラはどこだ!!」


「離せ!私は王子だぞ!!」


 執事に取り押さえられながら庭園に転がり込んできたのは、薄汚れたローブを纏った男女だ。カップを置き、首をかしげる。


「……まあ。どこの浮浪者の方かしら?」


「リトリエラ、ぼ、僕だ!グーノシルだ!」


 浮浪者もとい、グーノシルが顔を上げた。キラキラしい金髪は見る影もなくパサつき、肌は吹き出物だらけ。目の下には濃い隈があり、十年は歳をとったように老け込んでいた。

 隣にいる聖女クエリムも同様。自慢のピンク色の髪は枝毛だらけで、厚化粧でも隠しきれない肌荒れを起こしている。


「あ、グーノシル……殿下?どうしてそのようなお姿に」


「うるさい!全部!全部お前のせいだ!」


 充血した目で睨みつけた。


「お前がいなくなってから城の薬は泥水のように苦いし、飲むと腹を下す!クエリムの聖魔法で治してもすぐに再発するし傷跡が残るんだ!騎士団もそうだ。遠征に行くと全員が疲労で倒れる!お前が淹れていたあのお茶……あれがないと動けないと言い出した!」


 ため息をついた。


「淹れていたのはお茶ではありません。ハイ・エリクサー茶葉に疲労完全回復ドロップを溶かしたものです」


「なっ……エリクサー!?」


「苦い薬?素材の下処理をしていないからです。スキルの薬生成なら、不純物を取り除いてフルーツ味に加工できますから」


 グーノシルは絶句し、ワナワナと震えだした隣で聖女クエリムが金切り声を上げる。


「そんなの知らないわよ!だいたい、アンタが黙って出ていくからいけないのよ!早く薬をよこしなさいよ!肌、ボロボロなのよ!」


「クエリム様。貴女、伝染病の治療と称して皮膚の表面を光魔法で覆って隠していただけですよね?体内で病気が進行しているのに」


「っ!?」


「そのせいで王都でパンデミックが起きたと聞きましたよ……自業自得では?」


 冷ややかな言葉に二人は言葉を詰まらせたとき。ようやく周囲の状況、座る豪華なガゼボ、テーブルに並ぶ見たこともない美しい菓子、隣に座るカイド様の威圧感に気づいた。


「ひっ……なんだその男は!」


「紹介します。私の夫のカイド公爵です」


「な……は?あの化け物公爵か!な、なぜ?夫?」


 カイドがゆっくりと立ち上がり、じっとした瞳で二人を見下ろすだけで、グーノシルたちは腰を抜かしてへたり込む。


「私の妻をお茶くみ係と侮り、追放した愚か者が貴様らか」


「ま、待ってくれ!悪気はなかったんだ!だから、リトリエラ、戻ってきてくれ!」


 グーノシルはプライドをかなぐり捨て地面に頭を擦り付けた。


「正妃にしてやる!いや、側室でもいい!頼む、薬を作ってくれ!親父の国王も腰痛で寝込んでるんだ!お前がいないと国が回らないんだよぉぉ!頼むう!」


 冷めた紅茶を一口飲み、にっこりと微笑んだ。


「ふふ!お断りします!」


「なっ……!」


「薬は、大切にしてくれる人のためにしか作りません。それに……」


 カイド様の寄り添う。


「私は世界一幸せなので。泥船に戻るつもりはありません」


「そ、そんな……!」


「衛兵、つまみ出せ」


 カイド様の一声で屈強な兵士たちが二人をズルズルと引きずっていく。


「リトリエラァァ!頼む、せめて肌荒れのクリームだけでもぉぉ!!」


「嫌よぉ!牢屋なんて行きたくないぃぃわああああ!」


 情けない断末魔が遠ざかっていくと再び静寂が戻った庭園で、カイドが手を取り、甲にキスを落とす。


「虫がいなくなったな。お茶を淹れ直そうかリトリエラ」


「ええ、お願いします。カイド様」


 王都がその後、疫病と騎士団のストライキで崩壊寸前まで追い込まれ、隣国の属国に成り下がったと聞いたのはそれから数ヶ月後のことだった。


 それから半年。王都の混乱は収拾がつかなくなり疫病と食糧難、騎士団の機能停止によって国は正式に隣国へ併合されることになった。

 リトリエラの元には敗戦国の貴族たちが最後の望みをかけて、連日使者を送り付けてきている。無駄なことをする。


「リトリエラ様!どうかレシピだけでも!薬草だけでも!」


「公爵様にお願いし、国境を開いていただくわけにはいきませんか!」


 カイドは一切取り合わず、すべて跳ね返し、すべての手紙は目の前で火に投げ込まれた。


「リトリエラ、君がわずかでも関わる必要はない。君は私とこの領地の民のためにだけに類稀なる力を使ってくれればいい」


 カイドは額に深いキスを落とす。


「ありがとうございます、カイド様」


 もう国のため、騎士団のため誰かの役に立つために薬を生成することに疲れていた。

 今はカイドが遠征で疲れた時に作ってあげるぐっすり安眠アロマポーションと生成するお肌ツヤツヤ美容エリクサーだけを作っていれば満たされる。

 ある日の夕食後に暖炉のそばで寄り添っていた。カイドは髪を梳かしながら尋ねる。


「……王子グーノシルは今、どうしているか知っているか?」


 王国の終焉は知っていたが二人の末路は知らない。


「さあ……王家は皆、称号を剥奪され重労働に就かされたと聞きましたが」


「ふむ。奴は君が疲労回復茶を供給していた、魔獣が這い出る国境の警備隊へ送られたそうだ」


「まあ」


「もちろん薬の供給はない。あの男は今ごろ腰を痛め、肌もボロボロのまま激務に耐えているだろう」


 カイドは楽しそうに笑い頬を優しく包んだ。


「君が作る薬は味も香りも良く、効能も確かなものだった。それを当たり前と見下し、粗末なものとして投げ捨てた報いだ。泥の中で苦しみながら君がくれた普通の生活がいかに貴重だったか、身をもって知る」


 静かに微笑み、怒りも憎しみも湧いてこない。追放した彼らが支えていた環境以下で苦しんでいるだけで十分だ。


「私の力はカイド様を癒すために使うのが一番だと心から思います」


 立ち上がり、カイドのために今宵飲む愛のたっぷり入った特製カモミールミルクを準備する。


「おや、新しい匂いだ。私を蕩けさせる気か?リトリエラ」


「ふふ、そんなつもりはありませんが……でも、カイド様が元気になれば嬉しいのです」


 彼はリトリエラを抱き上げ、寝室へと向かう。


「君は誰かのために尽くす前に、まず自分自身が愛されるべきだ。そうだろう?」


 腕の中で頷いた。王国の健康を支える地味な薬師だったが今は、たった一人の愛する公爵の健康と心を支える、唯一無二の公爵夫人。

 薬生成スキルは世界を救う力ではない。

 私を心から愛してくれる、たった一人のカイド様を救うためのスキルなのだ。


 夜空には星空のテーマで作ったポーションのようにきらきらと星が輝いていた。

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