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第4話:衝撃の救出 ―マッスル・インパクト―

「ボートを下ろせッ! 早くしろ、もう船首が沈み始めているぞッ!!」


 アトランティス号のボートデッキ。そこには最後の救命艇を囲み、極限の恐怖に顔を歪めるおよそ二百名の乗客たちがいた。だが、運命はどこまでも冷酷であったッ!!


 氷点下の海水と吹き付ける寒風が、ボートを吊るす巨大な滑車を完全に凍結させていたッ! さらに、避難を急ぐあまり強引に引かれた手動ハンドルが、経年劣化と過度な負荷によって根元から無残にへし折れたッ!! 数トンの重量を持つ救命艇は宙吊りのまま、死の静止を保っていたのだ。


「だめだ……滑車が死んでいるッ! 人間の力では、このボートを動かすことなどできんッ!!」


 乗組員が絶望に泣き崩れたその時ッ! 凄まじい熱風を撒き散らし、周囲の冷気を力尽くで押し返す「肉の巨塔」が歩み寄ってきたッ!! 魁巌さきがけ いわおであるッ!! 彼の広背筋は、先ほどの「アルティメット・ローイング」によって異常なまでに充血し、もはや人間のシルエットを完全に逸脱しているッ!!


「……滑車が死んだだと? ……ならば、俺が『生きたエンジン』になればいいだけの話だッ!!」


 魁は迷うことなく、救命艇を吊るす極太の鋼鉄製鎖を掴み取ると、自らの太い首周りと僧帽筋に力任せに巻き付けたッ!! 鋼鉄の冷たさすら、彼の体温ですぐに蒸発していくッ!!


「何をしている!? まさか、一人で下ろすつもりかッ!?」


  驚愕する周囲を余所に、魁は甲板に深く脚をセットした。その瞬間、彼の全細胞が覚醒するッ!! 先ほどのセットによって完全に温まった筋肉バルクが、最大出力を求めて唸りを上げたッ!!


「ハァァァァッ!! 効率などという甘えは、筋肉の純度を濁らせるッ!! 俺の脚力こそが、地球の重力そのものだッ!! フルスクワット・デッドリフトォォォッ!!」


 魁が甲板を蹴り飛ばした瞬間、ドォォォォォンッ!! という大砲のような重低音が響き、鋼鉄の床が彼の足の形に陥没したッ!!


 ギチ、ギチギチギチィィッ!!


  数トンの自重を持つ救命艇が、魁の脚力という名の「神の推力」によって、強引に下降を始めたッ!! 錆びついた滑車が摩擦熱で火花を散らし、魁の肩に食い込む鎖が、彼の僧帽筋の硬度によって逆にひしゃげていくッ!!


「グ、オォォォォッ!! 効くッ!! 効くぞォォォッ!! 先ほどのセットのおかげで、この程度の重量ウェイト……まるでおもちゃのように軽く感じるぞォォッ!!」


 魁の毛穴から噴き出す汗は、瞬時に沸騰して白い蒸気となり、彼を包む爆煙の如きオーラと化したッ!! 凄まじいスピードで下降したボートは、無事に海面へと着水。だが、神はなおも魁に究極の試練を与えるッ!!


 沈没の圧力により船体が大きく傾斜。不沈を誇ったアトランティス号の象徴である、巨大な第一煙突が根元から爆発・破断し、着水したばかりのボートに向かって倒れ込んできたのだッ!! 数百トンの鋼鉄の塊が、重力に従って避難民の頭上に降り注ぐッ!!


「終わりだ……押し潰されるッ!!」


  誰もが死を覚悟したその瞬間ッ! 魁巌が空を仰ぎ、右の拳を極限まで後方に引き絞ったッ!! 大胸筋が弾丸のように収縮し、腕全体の血管が浮き上がるッ!!


「筋肉は、触れずとも語るものだッ!! この風圧……食らって散れッ!!」


「シャウト・マッスル・インパクトォォォォッ!!!」


 魁が放った一撃は、もはや正拳突きの範疇を超えていたッ!! 超高速で収縮した広背筋と大胸筋が空気を一瞬で圧縮し、目に見えるほどの『衝撃波ソニックブーム』を発生させたのだッ!!


  ドォォォォォンッ!!


  空気を穿つ衝撃が、倒れくる巨大煙突を中空で直撃ッ!! 数百トンの鋼鉄が、まるで薄いガラス細工のように木っ端微塵に粉砕されたッ!! 降り注ぐはずの死の破片は、魁の拳圧による暴風によって霧散し、大西洋の夜の海へと消え去ったのだ……ッ!


「……ふぅ。……サイドチェストの変形だが、良い風圧パンプだった。次が……ラストセットか」


 魁巌。彼は今、物理的な接触すら不要とする「筋肉の特異点」へと到達したのであるッ!!


(第5話・最終回へ続くッ!!)

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