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第8話 夜中の光と、痛いほどの努力



昼間の陽射しが木々の隙間から

キャンプに差し込んでくる。


いつも通り、

それぞれが自分の作業に集中していた。


最近の翠は、ちょっと変わってきた。


もう隅っこで

じっと立ってるだけじゃない。


自分から動いて、

黙々と細かいところを

チェックしてくれてる。


朝はいつも一番に起きて、

俺がまだメラトニンと格闘してる頃には、

もう拠点をぐるっと一周見回ってる。


罠の確認、物資のチェック。


……本当に、真面目な子だなって思う。


でも知ってる。


彼女は、目を覚ましたばかりでも

まだ眠たそうで、

体も完全に起きてないのに、


無理して動いてるんだ。



「ここ、

 ちょっと緩んでたから、結び直すね……」


翠はそう言って、

優しく包帯を直してくれる。


「うん、ずっと楽になったよ。

 ありがとう、星野。」


みんなが笑顔でお礼を言うと、

彼女は小さく会釈して、

微笑みながら呟いた。


「……どういたしまして」


「小林くん、

 リュックの紐が切れてるよ。直すね?」


「わ、ありがとう、星野。

 最近ちょっと雑に使ってたからなあ……」


小林は苦笑しながら言う。


「星野、最近めっちゃ真面目だよな。

 なんかクラス委員長みたい」


すると、隣にいた長谷川がツッコむ。


「こらこら、からかうなよ。

 翠は元からしっかりしてたじゃん」


言われた翠は顔を赤くして、

慌てて手を振った。


「ち、違うの……

 みんなの役に立ちたくて、

 ただそれだけで……」


うん、分かってる。


彼女は、

陽太たちがいなくなった穴を、

必死に埋めようとしてるんだ。


「じゃあ、果樹を見てくるね」


「待って、朝も一回行ったでしょ?」


「……大丈夫。すぐ戻るから」


「今は少し休もう?

 あとで一緒に行けばいいじゃん」


「……ううん。

 陽太がいないし、

 みんなの人数も減ってるし……」


そう言って、

彼女は苦笑しながら背を向けた。


──やっぱり、無理してる。



※ ※ ※



昼食の時間になって、みんなで集まって、

魔物の肉を乾燥させた保存食や、

採ってきた果物を食べる。


翠はほんの少しだけ口にした後、

すぐに立ち上がって、

無言で片付けを始めた。


あたりを見渡して、

まだやることが

残っていないか探している。


彼女の足取りは少しふらついていたけど、

止まらない。


その背中を見ていたら、

胸の奥が少し痛くなった。



こんなに頑張ってるのを見せられたら、

俺もサボってる場合じゃない。


食後、

物資置き場からいくつか材料を取り出し、

簡単な木の台を作った。


中央に砂を敷き詰めて、石で囲み、

その真ん中に、

クマ型魔物から取り出した魔石を固定。


うっすら赤く光ってるし、

たぶん火属性だと思う。


魔力を注いでみたところ──


加熱が持続する「魔石炉台」が完成した。


火力調整はまだできないけど、

熱は出せる。


乾燥食料の加熱や、

お湯を沸かすくらいなら十分。


夜はこの炉台を

洞窟内に置けば暖房になるし、


外の焚き火は

そのまま照明と魔物避けに使える。



試作してると、

休憩中の同級生たちが寄ってきた。


「夜見、これ何?」


「魔石の炉台だよ。

 薪より安全だし、煙も出ない」


安心したように、みんな少し笑っていた。


和やかで、

ちょっと賑やかな雰囲気だった。



※ ※ ※



午後。

俺は魔石をいくつか取り出して、

試してみることにした。


あの熊型の魔物と戦ったときに使った、


いわゆる閃光弾っぽいやつを

再現できないかって。


魔石を握って、頭の中でイメージする──

さあ、異世界といえばこれ。


「異世界といえば魔法、

 だよな……よし、試してみるか」



ファイアボール

──球状の炎。飛んですぐに消えた。


ウィンドカッター

──手に当ててみたらちょっと痛い。

 細いツタくらいなら切れるかも。


ロックショット

──射程は短いが、

 質量があるからそこそこ打撃力はある。


ウォーターストリーム

──威力が弱すぎないか?

 これで何か貫けるのか?



「……………」


一応、魔法っぽいものは出た。


ちょっと感動したけど、

想像してたのとは……違うなあ。


職業適性の問題か?


「くそ……俺も、

 カッコよくて使えるスキルが欲しいな。


 ……やっぱ、火球って

 少しは憧れるよな。」


……まあいいや。


ないものを嘆いても仕方ないし、

他にできること探そう。


体力もそこまで上がってないし、

魔法も微妙。


うん、自分には

戦闘センスがあんまりないってことだけは、


よく分かった。


その頃も、翠はずっと動き回っていた。


「ここのロープ、緩んでるかも。

 罠がうまく作動しないかもしれない……

 一緒に直してくれる?」


「おっけー、一緒にやろっか。

 さすが翠、

 細かいとこまでよく見てるな」


みんなで角度や力加減を調整して、

罠を元通りにした。


翠はようやく安心したように、

ふっと息をついた。


俺はというと、

拠点の外周にフェンスやバリケードを

増設しながら、


魔石の性質をいろいろと試していた。



※ ※ ※



まずは、小型の無色魔石を

長さ2メートルの木棒の先に埋め込んで、

地面に刺して「街灯」代わりにしてみた。


基本の使い方としては、これで充分。


でも──そこからさらに、

ちょっと面白いことに気づいた。


魔石には、

「想像」を込めることができるらしい。


たとえば──回転、みたいな。


魔石に魔力を込めるとき、

「回れ」と意識してみた。


それを石と木の棒で作った

即席の槍にくっつけて──


いざ、スイッチオン!


すると、槍の先端がぐるぐる回り始めた。


回転の勢いで摩擦が強すぎて、

手がめちゃくちゃ痛くて

すぐ手を放したけど……


手を離したら、ちゃんと止まった。


──これ、電動ドリルじゃん。


これは使える!


グリップ部分に薄い木片と獣皮を巻いて、

持っても怪我しないようにしてみた。


ちょうど近くにいた石田に渡してみた。


彼は夜間警備を担当してるから、

試してもらうにはうってつけ。


「うおおっ!? 

 これ、電動ドリルじゃん!

 すげぇ!

 これなら熊にも穴開けられる!」


テンション爆上がりの石田。


……まあ、

こういうのって、男のロマンだよな。


うん。



次に、

「焦点」のイメージを魔石に込めてみた。


今度は短めの木の棒にくくりつけて──


できた!


さっきまでの

ぼんやり灯る照明とは違って、

前方をしっかり照らせる「懐中電灯」だ!


これで夜の巡回がめっちゃ楽になる。


松明よりずっと明るいし、煙も出ないし。


「夜見、また何か変なの作ってる~?」


佐野と小林が、

興味津々って感じで近づいてきた。


「簡単な道具だけど、

 必要なら自由に使って。

 

 不便なとこあったら教えて。

 改善してみるよ」


二人は顔を見合わせて、にやっと笑った。


「ふむふむ、

 見た目より実用性ありそうじゃん。

 後で試してみる」


「他にアイディアあったら、

 こっちからも言うね」



※ ※ ※



午後、日差しがだんだん傾いてきた。


翠は顔色こそ疲れていたけど、

それでも手を止めず、


他の女子たちと一緒に、

簡単な作業を続けていた。


「ここ、こうやって結ぶと、

 もっとしっかり固定できるよ」


「わあ、翠ちゃんすごい……

 私、こういうのやったことないや……」


「昔、

 家でお母さんの手伝いしてた時に、

 ちょっとだけ覚えたの」


彼女はそう言って、少しだけ笑った。


俺は少し離れたところから、

夕日に照らされる彼女の横顔と、

額に浮かぶ汗を見つめていた。


──強くなったな。

でも、やっぱり心配になるよ。



※ ※ ※



夜になると、

森の虫の声がいつもよりも

はっきりと聞こえた。


焚き火のぱちぱちという音も、

妙に大きく感じる。


みんなはもう寝静まっていた。


俺も草の上に横になっていたけど、

まだ眠れていなかった。


──気配がした。


衣擦れの小さな音。

誰かが洞窟を出た。


……誰かなんて、決まってる。


俺は数分待ってから、

そっと起き上がった。


岩肌沿いに歩いて

三十メートルほど進んだところで、


しゃがみこむ。


そこにいたのは、

見慣れた小さな背中だった。


翠。


一人で石の上に座って、

手には石製のナイフ。


その刃で、

自分の手のひらをすっと傷つける。


ぽた、ぽた、と血が落ちる中、

彼女はそっと呟いた。


治癒(ヒール)。』


魔力の光が、

彼女の掌に集まり──すぐにかき消えた。


自分自身に対する治癒魔法の練習だった。


……失敗。

でもすぐにもう一度。


治癒(ヒール)……』


今度は成功。

ゆっくりと、傷が癒えていく。


頬を涙が伝う。


小さくしゃくり上げながら、

でも声は出さず、

彼女は再び刃を当てた。


この自主練は、今日で三回目。



──止まらない。


ただ、

黙々と同じ動作を繰り返していた。


俺は声をかけず、

その場でそっと数を数えた。


高精度の詠唱が3回。

失敗や不安定な発動が11回。

平均成功率は、およそ七割。


感情との関係は……

まだよく分かんないな。


詠唱回数は昨日より約二割増。

発動速度は1秒短縮。


回復のスピードも、

昨日よりだいぶ早くなってた。


……まあ、

数字だけ見れば成長してる、かな。


でも──この訓練方法は、

あまりにもつらすぎる。


 

俺は握った拳を見下ろした。


あの傷が、

自分の手についていたらよかったのに。


代わってあげられるなら、

迷いなんてない。


けど、それを彼女は絶対に許さない。


俺が血を流したら──

きっと彼女は怯える。


訓練をやめてしまう。


「私の治癒じゃ足りない」


「他人の痛みを見るのが、怖い」


……分かってる。だから、俺は。


何も言わず、ただ見守るしかない。


彼女の努力と、

流れ落ちた一粒一粒の涙を、

心に刻むしかないんだ。


それでも、胸の痛みは消えなかった。



※ ※ ※ 



翌朝。

朝の光が林に差し込む。


いつも通り、

俺は拠点の整備をしていたけど──


……今日はちょっとだけ、運が悪かった。


手が滑って、丸太が足元に落ち、

足首を打った。


「悠兄!? 大丈夫!?」


翠が慌てて駆け寄ってきた。

顔には明らかな動揺が浮かんでいる。


「ちょっと手元が滑っただけ……

 たぶん捻ったかな。

 治癒、お願いできる?」


彼女は一瞬固まった後、

すぐに両手を差し出してくれた。


震える手が、俺の足首にそっと触れる。


光がきらめいた。

温かな感覚が傷口を包む。


昨夜よりも、明らかに早く

──そして、優しい光だった。


「……なんでこんなに不注意なの

 ……もう……」

(おや? 昨晩より発動が早いし、

 光の質も良くなってる?)


俺は黙って、彼女の手元を見つめていた。


「……悠兄。どう、だった?」


「翠の治癒魔法、

 すっごくあったかくて、

 痛みももうないよ。

 ありがとう。」


そう言って、

俺はそっと彼女の頭を撫でた。


彼女は一瞬ぽかんとして、

そして顔を真っ赤にして、

視線を落とした。


「……もう、ちゃんと気をつけてよ……」


俺は何も言わず、

ただ彼女の背中を見つめた。


願うのはひとつだけ。

あの努力と、涙が──



けっして、

無駄じゃないって、

ちゃんと伝わりますように。





《読後感:石田》


ドリルwwwww

おいおい異世界に電動工具出すなよwww

チートだろwww


……でも男なら分かるよな?

ああいう回転するやつ、

ぜったい触りたくなるやつだろ。


夜見って陰キャだと思ってたけど……

普通に発明家じゃん。なんだよそれ。

ちょっと尊敬するわ。



で、星野。

真面目で可愛いとか……反則だろ。


もし彼女が横にいたら、

異世界だろうが関係ねぇ。

むしろ最高じゃん。


……でも分かってる。

あの子の視線は、

最初から夜見に向いてるんだよな。



――で、俺は? 俺はどうすんの?

異世界きても彼女ゼロなんですけど!?


現充ども爆発しろ!!!

俺にもヒロインよこせェェ!!!

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