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第6話 街を見つけた、その先に


拠点を出発して、すでに三日が経った。


残念ながら、

まだこの森の中を彷徨っている。


どんなに高い木に登って見渡しても、

村や町らしきものは一切見つからない。


ぬかるんだ地面と厚い落ち葉には、

人が通った痕跡は何も残っていない。


あるのは、俺たちの足跡だけ──

未知の先へと、ひたすら伸びていく。


……状況は、あまり良くない。


あとどれくらい歩けば、

この森を抜けられるのか、

見当もつかない。


拠点を出ると決めたとき、

俺たちは悠の提案に従い、

川沿いに上流を目指すことにした。


彼が以前、人工物らしき漂流物を

見つけたと言っていたからだ。


──ボロボロの布切れや、

ひとつだけ流れてきた木の樽。


そういうものが流れてくる以上、

上流に人が住んでいる可能性は、

当然高くなる。


「陽~、拠点は本当に大丈夫なの……?」


「何度も聞かれたけど、

 たまには悠を信じてやれよ」


「……お姉ちゃん。

 悠月に任せれば、大丈夫だから」


俺は思わず眉をひそめ、

話題を変えるように口を開いた。


「拠点より、

 今はこっちの班のほうが心配だ……」


振り返ると、そこには──

制御なんて不可能な五人組と、

なぜか「行きたい」と言い出した

枯川の姿があった。


まさに悠月の言ったとおりだった。


この五人は連携力がゼロに近く、

最低限のコミュニケーションですら、

疲れるほどだ。


「もう~ほんとに探してんの? 

 二日も歩いたよ~?」


「俺、見張りとかムリ。

 陽太が強いし、いいでしょ~」


「ヤダヤダ~。町見つけないとマジで

 原始人になっちゃう~」


「佐藤がヒゲ生やしてボサボサ頭に

 なったら絶対ウケる~!」


「だよね~、アハハハ~~~!」




「悠が最初に拠点から追い出したの、

 今なら納得できる」


「ほんと、こいつらと一緒に動くの、

 めっちゃ疲れる……」


「……見張りしないなら、

 それでもいいけど。

 もし魔物に襲われたら、

 あいつらも逃げられないし」


晶は落ち着いた口調で、

背筋の寒くなるようなことを言った。


確かに、今、

見張りをしているのは俺たち三人だけ。


あいつらは、

守ってくれる人がいるから

安心して寝ているにすぎない。


もし奇襲されたら、

助かる保証なんてない。


枯川はというと、

騒ぐ五人に混じって一緒に笑っていた。


本当に楽しいのか、

それとも……何か他の目的があるのか。


最初に

彼が遠征に参加したいと言い出した時、

俺は違和感を覚えた。


普段の彼の性格なら、

こんな積極的な行動はとらないはずだ。


悠からも「様子をよく見ておけ」と

言われている。


拠点組より、

この班の方がよっぽど

精神的に疲れる気がする。



午後。

光と晶は、突如現れたドリルラビットの

処理をしていた。


持ってきた乾パンは

昨日の時点で食べ尽くしてしまい、

これからは狩りをしながら進むしかない。


食料を確保しつつ、

行軍のペースも維持しなければならない。


近くには水源がある。


道中では、

茂みの中に食べられそうな果物が

ないかも注意して見ている。


この二日間で遭遇した魔物は、

ドリルラビットと狼のほかに、

背中が小山のように盛り上がった、

巨大なイノシシもいた。


太くて鋭い牙と、

大きな鼻を持つあいつは、

さすがに手強かったが――


力を合わせて、何とか倒せた。


ただ、運べる量には限りがあり、

最終的には魔石と一部の牙だけを

持ち帰ることにした。


これらが町で

多少なりとも価値を持つことを願う。


少なくとも、

人との物資交換の手段にはなるはずだ。


「……陽太、処理完了。

 先に何か食べる?それとも先を急ぐ?」


「日が暮れる前に、もう少し進もう。

 空腹は我慢できるけど、

 暗くなったら動けなくなる。」


「了解~。

 晶、ウサギ肉を包んで出発しよ!」


明るいうちに、

できるだけ距離を稼ぐのが得策だ。



黄昏時、

光はひらりと身軽に近くの高木に登り、

優れた視力を活かして、遠くを見渡した。


悠の推測によれば、

光の職業はおそらく「斥候」だ。


この職業の割り振りは、

いったい何を基準に決まるのだろう?


地球時代の経験か、

それともこの世界のルール、

あるいはどこかの神様の気まぐれか。


光はもともと陸上部だったし、

運動神経や視力には自信がある。


そうした過去が、

職業に影響を与えているのかもしれない。



「ん~~~~っ! あった! 

 遠くに煙が見えるよ!」


「!!本当か、光! 

 だいたいどれくらいの距離かわかる?」


「うん……あそこまで行くと、

 たぶん日が沈んじゃうかな」


光は満面の笑みで手を振った。

まるで宝物を見つけた子供のように。


……こんな表情、

久しぶりに見た気がする。


「……陽太、

 今から一気に走って行かない?」


俺がまだ考えているうちに、

光は素早く木から飛び降りた。


「どう思う? 

 この世界に来てから、

 体力もだいぶ上がった気がするし。

 2時間くらいなら走れると思うよ」


「私も、問題なく走れる!」


「……うん、

 この世界のスキル補正は確かに強い」


「じゃあ決まり。一気に突っ込もう!」


ただし、後ろの連中にも

一声かけておく必要がある。


あいつらはだらけた態度だけど、

スキルは持ってるはずだし──


ついてこれるだろう。


「煙が見えた。

 たぶん、あそこには人がいる。

 日が沈む前に、一気に走ろう!」


「マジで? よっしゃ! 直行だー!」


「文明社会サイコー!」


そんな中、枯川だけが静かに尋ねた。


「距離は……どれくらい? 

 どのくらい走ることになる?」


「正確にはわからないけど、

 およそ2時間くらいの距離かな」


「……了解。まだ、体力は大丈夫だ」


「じゃあ、出発しよう」




俺たちは走ることに全神経を集中させ、

誰一人として口を開かなかった。


話したところで、

体力を消耗するだけだし、呼吸も乱れる。


光が先頭を走り、

晶は俺の隣で

安定したペースを保っている。


時々振り返って、

後ろがついてきているかを確認する。


誰も脱落していないことを、

ちゃんと確かめるために。



走り続けて、もうすぐ一時間になる頃。


ふと、

枯川が先に聞いていたことを思い出した。


あの五人組は、

何も考えずについてきたが──

たぶん、自分の体力には

自信があるんだろう。


でも……枯川は、

なぜあのとき「距離と時間」を

わざわざ聞いたんだ?


まさか、

体力補正系のスキルを持っていないのか?


それなのに、どうして遠征に参加した?


あいつの性格なら、

無謀なことはしないはずだ。


……何を計算してる?

一体、何を考えてるんだ?



さらに一時間ほど走って、ようやく──

俺たちは、森を抜けた。


「やった~! ついに森から出たよ~!」


「……こんなに開けた空、

 久しぶりに見たな」


「日が沈みかけてるけど、

 まだ煙は見える。

 あと三十分も走れば着きそうだ」


人の暮らしの痕跡を目にして、

皆の表情が一気に明るくなった。


誰も文句は言わず、

軽く水分補給をして、再び走り出す。


そして、ついにそれが見えた。

──町だ。


町の中央を流れる

一本の小川が、生活用水として

使われているらしい。


町の規模は、

俺たちが元いた町と同じくらいだろうか。


ただし、地球と違って、

この町は二重の城壁に囲まれていた。


内側の城壁には家がびっしりと建ち並び、

外壁と内壁の間には、

農地や小さな集落が点在している。


まるで、

生活圏と生産圏が明確に分かれている

小都市って感じだ。


「わあ……ほんとに町だ……!

 でっか……!

 人、いっぱいいそうっ!」


「よかった……やっと町を見つけた……」


「……陽太、これからどうする?」


晶が口を開いた、その瞬間――

後ろから、

またしてもあの騒がしい声が飛んできた。



「着いた~! 全然疲れてなーい!」


「なら迷わず行こうぜ~!」


「ようやく原始人生活から解放だ~! 

 もう獣と場所取りしたくないし!」



「バカ、ちょっと待てって!」


叫ぶ間もなく、やつらは勝手に

突っ走って行ってしまった。



……はぁ。

悠月、お前の言ってたこと、

やっぱ正解だったよ。


こいつら、本当にダメだ。

話なんて通じるわけがない。


「……直接に追いかける?

 それとも様子を見る?」


「別に、

 直接話しかけてもいいんじゃない?」


「だよね〜。

 せっかくここまで来たんだし!」


晶は口をつぐんで、

少し考えるような仕草を見せた。


普段はあまり喋らない彼女が、

今回は自ら口を開いた。


「……あの、ちょっと提案があって……」


「え〜めずらしっ、

 晶から提案なんて! 聞かせて〜」


「……ねえ、私たちって、

 この町の言葉、通じるのかな……?」


ああ、それは盲点だったかもな……


「……異世界なら、

 翻訳スキルとかあるはずだけど、

 私たち、まだ試してないよね

 

 この時間に町に入るのは、

 ちょっと目立ちすぎると思うし……

 今日は、ここで野営した方がいいかも

 

 明日、近くまで行って、

 通りがかった人に声をかけて……

 言葉が通じるか確かめてみよう?

 

 大丈夫そうなら、

 昼すぎくらいに、

 自然に町へ入ればいいと思う。」


「「……………………」」


「……え? 何か変だった?」


晶が首をかしげて、

黙り込んでる俺と光の顔を

交互に見てきた。


「うわ~ビックリした~!

 晶がこんなに喋るなんて!」


「“こんなに”どころか、

 ちゃんと作戦を話すの、

 たぶん初めてじゃない?」


……冷静に考えれば、

確かに理にかなってる。

安全第一だ。


せっかく森を抜けたんだし、

もう一晩くらい野営してもいい。


「……うん。

 じゃあ 悠 の案に従おう。

 そっちの方が確実だ。」


俺は顎に手を当て、少し考えてから、

それとなく、そう答えた。


晶は、少しだけ目を見開いた。

驚いたような……

でも、どこか嬉しそうな顔。


……ん?


なんだよ。

なんで二人して、俺を見てるんだ?


俺、何か変なこと言ったか?


しかも、目を合わせたまま

アイコンタクトしてるし……?


「……え、なに?」


光は、いつもの調子でニコッと笑って、

ひらひらと手を振った。


「なーんでもないって~!

 とりあえず町の近くで、

 テント張れそうな場所、探そっか?」

 

「……ああ、そうだな。」


……妙だな。

晶……今、顔……

ちょっと赤くなってなかったか?



……なんなんだよ、一体。





《読後感:天川晶》


……やっと、見つけた。

ちゃんと、人が住んでる町。


やっぱり……悠月の判断、正しかった。


上流の方角――

ほんとに、人の暮らしがあったんだ。


それにしても……

あの五人、

やっぱり置いてこなくてよかった。


町を見ただけで、理性が飛んで。

何も考えずに、勝手に走っていった。


……本当に、

あのまま拠点に残してたら、

どうなってたか。


……でも。

このせいで、

入城が難しくならなければいいけど。

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