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第21話 冒険者なのに、冒険者じゃない


草原を駆け抜ける。

頬を流れる汗に、風の感触。


呼吸は荒い……けど、

まだ苦しくはない。 


いける。


フォグウルフの側面――

その隙を狙って、剣を振る。


速さも迫力もない。

けど、軌道は俺の思い描いたとおり。


剣が……

腕そのものになったみたいだ。



当たった。

刃はフォグウルフの首筋を裂き、

鮮血が噴き出す。


低く唸り声を上げ、

体勢を低くして飛びかかろうとしてくる。


だが――問題ない。


次の瞬間、空を裂く音。


フォグウルフの身体が弾き飛ばされ、

腹に大穴を開けて、地面に転がった。


「……いいタイミングだったな、

 スピカ。」


後方でまだ

射撃の姿勢を崩さないスピカが、

わずかに笑った。



「ユニ兄、すごい! 

 スピカさんの矢も、

 すっごく強かった!

 タイミング完璧だったよ!」


「……うん。

 このクロスボウ、本当にすごい。

 威力が想像以上……

 ユニクスの言ったとおりだった。」


「大事なのは、

 一撃を確実に当てることだ。

 

 このクロスボウの一矢は、

 普通の弓の数倍の価値がある。」


「……作ってくれて、ありがとう。

 

 そして“場所”をくれた。

 ずっと、

 本物の狩人になりたかったから。」


「嫌がるかと思ってたけどさ。」


「……最初は確かに嫌だった。

 でも、このクロスボウは違う。 

 ……本当に別物。」


「そうだよ! 

 ユニ兄が作ったクロスボウだから、

 スピカさんが撃つと、

 もう別物なんだよ! 本当だって!」


翠が嬉しそうに喋り続ける。


俺とスピカは思わず顔を見合わせて、

笑った。



……想像以上にパーティの形は悪くない。


俺が前衛で抑えて、 スピカが狙撃、

翠は後方で支援しながら、

ある程度は自分を守れる。


あいつがメイスのスキルを

持ってるなんて、

……正直、意外だな。


そういやギルドで中古のメイスもらって、

こっそり練習してたっけ。


逆に俺は……

剣をどれだけ振り続けても進展なし。


結局レオ指導員のおかげで、

ようやく剣術スキルを手に

……入れたんだよな。



女神様……

お前の“オススメ”は正しかったのか?


翠にメイスを振らせる未来を

想定してるのか?


……考えたって仕方ねぇ。

これが、この世界の“ルール”なんだから。



「フォグウルフも狩れたし、帰るか。

 ついでに

 何体か狩れりゃ稼ぎになるけど……

 結局、持ち運べなきゃ意味ねぇしな。」


「ユニクス……私の天職、忘れてる。」


「あぁ……そうだったな。


 スピカは“運搬士”だった。

 なら……リヤカーでも作るか。」


俺がそう言うと、

スピカは小さく吹き出した。


「なにがおかしい?」


「ううん……

 私を“狙撃手”として見てくれてるから、

 運搬士ってこと忘れてる。

 なんか、おかしくて。」


「雇ったのは荷物持ちじゃなくて、

 後衛の火力だ。」


「……うん、わかってる。」


また小さく笑って、

肩の力が抜けた顔をしてた。


――まあいい。

荷物持ちやってた頃より、

今の方がずっといい顔してる。


「じゃ、戻ろう。……その前に、

 グレンおやじの倉庫を漁って、

 リヤカーにできそうな部品が

 ないか探すか。


 ……俺の仕事、

 どんどん職人寄りになってないか?」


「ユニ兄、

 あとでレオ指導員との練習、

 忘れないでね。」



※ ※ ※



「こちらが今回の報酬です。

 “七輪”の皆さん、お疲れさまでした。」


カウンター越しにエマさんが

明るく言って、袋を手渡してくれた。


「ありがとうございます、エマさん。」


「正直ね、

 最初にみんなでパーティを

 組むって聞いたときはびっくりしたの。

 心配で眠れなかったくらい。

 

 ……でも、ここまで頑張ってたのね。

 レオも評価してたわよ。」


「……本当に、ありがとうございます。」



報酬を受け取って休憩所へ向かう途中、

壁にデカデカと貼られた

「冒険者ギルド規約」が目に入った。


……嫌でも目に入る場所だな。

つまり「必ず読め」ってことだな。



※ ※ ※



――冒険者ギルド規約・必読――


1.階級と収入

 毎月の稼ぎで

 ランク(F~S級)が決まる。

 足りなかったら、すぐに降格。

 

2.降格制度

 降格の記録は残り続ける。

 三回目で、

 そのランクには二度と戻れない。



……月収査定、未達なら即降格。

三回で永久追放?


「……ノルマ制? 三回でアウト? 

 完全に……

 ブラック企業じゃねぇか、これ。」


……と一瞬キレそうになったが、

まあ合理的といえば合理的か。


高ランクに

居座って仕事しない冒険者なんて、

ただの寄生虫だしな。


翠は横からひょいと覗き込んで、

きらきらした目で読み上げた。


「ふーん! 

 つまりお金さえ稼げば

 ランク維持できるんでしょ? 

 

 単純でわかりやすいよねっ!

 

 ……ユニ兄、

 試験官ぶん殴って昇格したいの?」


「……やるわけねぇだろ。」


スピカはぼそっと呟いた。


「……この前、

 三回降格でランク封鎖された人を見た。

 『実力あるのに』って泣いてたけど……

 ギルドは容赦なかった。」


……ほんと、会社そのものじゃねぇか。



3.依頼の前金制度

 依頼を受けるときは、

 報酬の半分を前金として払う。

 成功すれば前金は返ってくるが、

 一割は手数料として引かれる。

 失敗や放棄のときは前金は没収。

 その金で依頼人に補償する。



「五割も前金!? 

 失敗したら返ってこねぇの!?

 

 ……いや待て、

 こうしとけば無責任に依頼を

 受けるやつも減るのか。」


「やることやれば戻ってくるんでしょ?

 単純でいいじゃん!」

 

翠はまったく気にしてない様子。


……いや、 金欠冒険者に

とっちゃ致命傷なんだけどな……


スピカは眉をひそめた。


「……高難度依頼を受けて失敗、

 前金を失って、

 

 宿に泊まれなくなったパーティを

 見たことがある。

 

 馬小屋で寝て……

 結局、冒険者をやめた。」


……やっぱり、これは厳しすぎるな。



4.活動休止

 ケガや用事があれば休んでいい。

 休んでいる間、ランクは下がらないが、

 特典は全部止まる。

 戻るときは「復職試験」を受けること。


5.復職試験

 試験は休む前のランクに合った依頼。

 成功すればランクそのまま。

 失敗すれば降格。

 しかも失敗の記録は消えない。



「休止と復職試験……。

 完全に会社の休職制度じゃん。

 

 ……いや、

 まるでネトゲのギルドポイント

 管理だな。」


翠はあっけらかんと笑う。


「いいと思うけどなー! 

 ケガしたら無理しなくていいし、

 試験受かれば戻れるんでしょ? 

 優しいじゃん。」


「……俺は見た。

 準備不足のまま試験を受けて落ちて、

 そのまま降格した人間を。」


要は……

戻るなら万全の状態で、ってことか。

ふるい落とし、容赦なし……



6.特権と制限

 まじめに働けば信用が上がり、

 同ランクでも稼げる依頼を回される。

 サボれば信用は落ち、

 残り物の依頼しか回らなくなる。


――冒険者ギルド本部より――

「努力する者には手を貸す。

 怠け者は家に帰って畑でも耕してろ。」




「……これ、もうゲームのギルド

 そのまんまじゃねぇか。


 ランクが上がれば責任は増えるし、

 依頼拒否しすぎると冷遇。

 

 ……まるで

 オンラインのポイント制じゃねぇか。」


……自由なんて建前で、

実際は数字と出勤率に

縛られてるだけだ。


冒険者って、

もっと自由な存在じゃなかったのか……?


でも、自由すぎても崩壊する。


結局ここは

“冒険者ギルド”じゃなくて……


“冒険者って名前の会社”だな……。


……まあ、

辞めるわけにもいかねぇけどな。



※ ※ ※



このあと、

ギルド食堂で飯を食って、

宿に帰るのがもう習慣になっていた。


扉を開けた瞬間、肉の匂いが鼻を刺す。

煮込みの湯気と焼き立てパンの香り……

腹が鳴りそうになる。


丸テーブルじゃ先輩冒険者が

ジョッキをぶつけて、

笑い声と怒鳴り声でうるさいくらい。


壁際の新人組は肩寄せて、

次の依頼の相談か。


安いし、うまいし……

何より、腹いっぱいになれる。



「スイナちゃん、スピカちゃん、

 栄養あるやつ入れといたぞ。

 

 残さず食べな。

 

 ユニクス、お前は細いから、

 大盛りにしといたぞ。」


「……サンキュー、おじさん。」


「ありがとう! トマスおじさん。」


翠は元気に返事して、

スピカは小さく頷く。


温かい飯を食える――

それだけで十分ありがたい。


あの森での飢えを思えば、なおさらだ。


……にしても、大盛りか。



……って、おい。


アザミたちまで

当然の顔して混ざってるし。


佐野は豪快に肉をかじりながら、

「働いたあとの飯は最高だ!」

と叫んでる。


田村は好きなものばっか皿に盛って……

絶対食い切れねぇだろ、それ。


小林は黙って、

トマスおじさんの特盛を

一口ずつ片付けていく。


長谷川はその横で笑いながら

食べ終えた皿をまとめ、

果汁をみんなのコップに注いでる。


……伊賀?

さっきまで見えなかったのに、

気づいたらもう飯食ってやがる。


せめて音くらい立てろよ……。

……忍者かよ。……慣れねぇよ、ほんと。


楽しそうに食ってる分にはいいか。



※ ※ ※



飯を食い終えて、宿へ歩く帰り道。


夜風が少し冷たい。

石畳に靴音がやけに響く。


みんな無事で、

自分の居場所を掴み始めてる。



陽太、光、晶……。


待ってろ。

絶対に強くなって、探しに行く。



……って、あ。


しまった、

今日レオ指導員んとこ顔出すの忘れてた。




《読後感:スピカ》


運搬士のはずなのに……

ユニクスは、狙撃手として見てくれてた。


……正直、びっくりした。

でも、嬉しくて……胸がドキドキしてる。


ギルドの規約は、やっぱり怖い。

失敗したら全部なくなっちゃう。


だけど―― あの人と一緒なら……

少しは大丈夫、かも。


最後にみんなで食べた温かいご飯、

あれが……私の「居場所」なんだと思う。

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