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第17話 見つけた、俺だけの扉


作業を進めつつ、

一区切りつくたびに、

別のスキルを覚えていく。


錬成師の

錬成(レンセイ)初心(ノービス)】、【分解(ブンカイ)初心(ノービス)】。


魔石職人の【研磨(ケンマ)初心(ノービス)】。


さらに鍛冶屋の

鍛造(タンゾウ)初心(ノービス)】まで習得した。


グレンおやじは、満足そうに笑った。


「お前さん、本当に

 職人になるために

 生まれてきたようなもんだな。」


生まれつきの職人……なのか?


いや……これだけ

生産系のスキルが覚えられるなら、


戦闘系のスキルだって

覚えられるはずだ。



それに、天職の成長も悪くない……。


もともと持っていた

解析(カイセキ)】と【解体(カイタイ)】は、

熟練(スキルド)】に上がったとき、


正直、少しうれしかった。


けど、

グレンおやじは

「俺のほうが早い」って言った。



今ではもう【専精(アデプト)】まで

上がっている。


作業速度は

おやじにも引けを取らない……


魔力量はまだ及ばないけど。



魔導具職人の中核スキル【構築(コウチク)】。


使い古した部品で練習を重ね、

ついに【熟練(スキルド)】まで成長させた。


これで作れるのは、

魔導提灯みたいな基礎品だけじゃない。


もっと高位の魔導具だって作れる。


……けど、

俺が本当に欲しいのは【剣術(ケンジュツ)】だ。


手で掴める、確かな力――


それこそが、自分を守る力であり

――翠を守る力だと思う。



「昼休みに何やってんだ? 

 小僧、冒険者にでもなりたいのか?」


「……大事な人がいるんです。」


剣の稽古をしていると、

グレンおやじが突然現れ、

作業台にどかっと腰を下ろす。


干し肉をくわえていた。


「ここに残れ。

 お前の資質は俺が保証する。


 いずれは工房の看板職人になれる。

 独立するのも止めやしない。


 だが……死にに行く必要はねぇ……」


「やらなきゃ……何も始まらない……」


わかってる。

俺だってわかってる。


ここにいれば、

安全で、腹を空かせることもない。



だけど……

陽太、光、そして晶――

きっと今も、俺たちを探している。


これ以上待たせたくない……

一日遅れるたびに、

胸の奥がまたズキンと痛む。


一刻も早く合流して、

安心させたい……焦るように。



考え込んでいた俺の意識を、

「コトン」という音が引き戻した。


……これは……義足?


「俺も昔は、冒険者をやっててな。

 そのときに、脚を一本失った。」


「………………」


「たまに夢に見るんだ、

 あの日のことを。

 

 任務に失敗した日をな……

 

 脚一本で済んでよかった……

 

 もし仲間だったら……」



そこで、おやじの言葉は途切れた。


義足を装着し直すと、

無言のまま倉庫を出ていった。


俺は、

手にした剣をさらに強く握りしめた。


……離すもんか。



※ ※ ※



午後、グレンおやじに

呼ばれて工房へ向かった。


装備の一括修理が入ったらしく、

俺も作業を手伝うことに。


「これは……この装備、見覚えが……」


佐藤の手甲、それに小林の剣だ。


おやじと話していた冒険者が、

俺の独り言に気づき、

こちらを振り返った。


「おや? 知り合いの装備か?」


「この装備……どうしてここに? 

 まさか……?!」


「大丈夫、大丈夫。無事だよ。」


その言葉に、

胸を締めつけていた不安がスッとほどけた。


よかった……最悪の想像じゃなくて……


「むしろ優秀すぎてな。

 ギルドが装備のメンテを決めたんだ。」


「ギルド?」


「ああ。 そうだ、 俺はレオ。

 ギルドで指導員をしてる。」


彼は豪快に笑い、

どこか安心させる空気をまとっていた。


「こんなに真面目で頑張る新人冒険者は

 久しぶりだ。

 依頼の達成率は百パーセント。

 慢心もなく、

 よく俺のところへ顔を出してくる。」


「初めまして。

 ユニクス(夜見悠月)です。

 そうだったんですか……よかった。

 これからも、よろしくお願いします。」


レオさんと軽く握手を交わし、

作業へ戻る。



金属部分を外し、

職人たちと並んで修理を進めた。


……この装備が、

アザミのみんなを守ってくれたんだな。


心の中で、そっと礼を言った。



※ ※ ※



作業を終えて倉庫に戻り、

再び剣を握って素振りを始める。


頭の中では、

アザミのみんなが

狩りをしている姿ばかりが浮かんでいた。


声が近づいてくる。



「お、ユニクス。ここにいたか。

 仲間の装備は点検が終わったから、

 これから返しに行くぞ。

 ……で、お前、冒険者になりたいのか?」


レオさんは

俺の手元の剣を見ながら言った。


「ま、まだわかりません……」


「おい、グレンさん。

 このまま好きにやらせて、

 何も教えないつもりか?」


「…………」


「ユニクス、ちょっと剣を振ってみろ」


そう言われ、

再び剣を構え、振ってみせる。


「やっぱり……まだ剣術スキルはないな」


「はい……」


レオさんは鉄棒を拾い、

グレンおやじの前に突き出す。


おやじは数秒見つめて、

ため息をついた。


そして鉄棒を持ったまま、俺の前に立つ。


「小僧、全力で来い。」


……これは、

グレンおやじが

手合わせしてくれるってことか?


「はいっ……!」



どこから斬りかかっても、

軽く受け止められる。


さすがは元冒険者だ。


三分も経たないうちに、

剣が手に馴染んできた。


いける……!

踏み込もうとした、そのとき――


「もういい、ユニクス。

 グレンさん、わかっててやってたな?」


「……こいつは、ここに残るべきだ。」


「職人の才能があっても、

 選ばせる機会は与えるべきだろう?

 ……わかってるはずだ。」


「わかってるさ!

 わかってるからこそだ! 

 ……ちっ。」


「すみません、グレンさん……

 事情はわかります。


 けど、俺の立場から見れば、

 こっちのほうが正しいと思う

 ――ユニクス、

 魔導カードを確認してみろ。」


二人のやりとりを聞きながら、

慌てて魔導カードを取り出す。



「……あった……!【剣術(ケンジュツ)】!」



胸が一気に熱くなる。


一瞬、息が止まり――理解した。



経験を積むだけじゃない。

「きっかけ」がなければ、

その扉は開かないんだ。


「見ればわかるさ。

 もう習得間近だった。

 あとは実戦を少しやればいい。

 ……ただ、グレンさん。」


「…………」


「ありがとうございます、レオさん!


 グレンおやじも……

 言いたいことはわかります。

 

  ……やってから後悔したほうが、

 ずっとマシだ。

 

 やらなきゃ、

 後悔する資格すらない。

 

 ……本当に、

 ありがとうございますっ!」



「……はぁ。気をつけろよ、ユニクス。」


「はい。」


……あれ? 今、おやじ、

初めて名前で呼んだ……よな?



「ユニクス、

 心も体も準備ができたなら、

 カウンターで登録しろ。

 あとで新米講習に来い。

 絶対役に立つ。」


「わかりました、必ず行きます……

 ありがとうございます。」


興奮して、まだ両手が震えていた。


握りしめた魔導カードの感触を、

確かめるように。



※ ※ ※



夜になって宿に戻ると、

翠がちょうど宿の厨房で夕食を

作っていた。


「ユニ兄!

 あと少しでできるから、座ってて。」


「ああ。」


その顔を見た瞬間、

グレンおやじの言葉が蘇る。


……俺は、どうすべきなんだ……?


……翠を、この街に残す?

それが一番安全なのはわかっている。


佐野たちのパーティーも、

伊賀もここにいる。


もし冒険に出るなら、俺一人で――



「ユニ兄……? ユニ兄。」


「え?」


「もう、ご飯できたよ。」


「ありがとう。いただきます。」


気づけば料理は全部並んでいた。

思わず顔を伏せながら、箸を取った。


今は、翠の作った夕食に集中すべきだ。



「……ユニ兄。」


「今日もおいしいな。

 スイナは本当に料理が上手だ。」


「ユニ兄……

 陽太兄たちを探しに

 行こうとしてるでしょ?」


「…………」


突然の問いに、頭が真っ白になる。

どう答えるべきか、迷った。



「ユニ兄が行くなら、私も一緒に行く。」


「……危険すぎる。連れて行けない。」


「やだ! 一人でここに残るなんて!」


翠は立ち上がり、拳をぎゅっと握った。


「陽太兄たちのことも心配だけど……


 ユニ兄に何かあったら、

 私……どうすればいいかわからない。

 

 行きたい気持ちは同じだから

 ……お願い、一緒に行かせて。」


泣き出しそうなその顔が、

異世界に来てからの

彼女の日々を思い出させた。



拠点の建設、真夜中の治癒術練習、

そして最近始めたハンマースピアの稽古。


ずっと努力を重ねてきたのを、

俺は知っている。


俺と一緒に歩こうとしてくれているのも。



「はぁ……

 どうしてもお前には勝てないな。」


「ユニ兄!」


「じゃあ、

 パーティーを組んで、一緒に行こう。」


「うん!」


嬉しそうな笑顔を見て、

これが一番いいと思えた。


危険でも……そばに置いておきたい。


「そうと決まれば……

 すぐには出発しない。

 

 もう少し準備してからだ。」


「わかってる。

 焦るのは危ないし、

 遅すぎても陽太兄たちが心配する。

 ユニ兄の言うとおりにする。」


「それと、

 もう少し仲間を増やしたい。

 安全のためにな。」


「チサル姉たちを誘う?」


小声で聞かれ、小声で答える。


「いや。

 異世界人が多く集まると、

 騒ぎや疑いを招く。」


「じゃあ、誰を?」


「この世界の人間で、信頼できる者だ。」


翠も小声で返す。


「ユニ兄、もう心当たりがあるんだね?」


「ああ。でも少し待ってくれ。

 三人で出発するつもりだ。」


「ユニ兄が信じる人……わかった。」



グレンおやじの経験を

否定する気はない。


失う恐怖も理解している。


彼女を守るために剣を握った――

それなのに、

いざ旅立つとなると、残そうとしている。


……それじゃあ、

ただの自己満じゃないか。



彼女が必死に努力してきたのを、

俺は全部知っている。

だからこそ、置いていくことはできない。


この手で守る。


何があっても、そばにいる――からな。



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