ねこの王子様
ねこの王子様はニャーとは鳴かない。そんな甘えた声をだしはしないのだ。何しろ彼は誇り高きねこの王子様なのだから。
普段は何も声なんかださない。
間違ってもゴロゴロと喉を鳴らしたりなんかはしない。
喧嘩の時には勇ましい声をだす。
蛇のような威嚇もする。
ねこの王子様が人間に捕まった。「保護してあげる」とかふざけたことを言っている。顔に白い油を塗って、口に赤い油を塗った、嫌な匂いのする雌人間だ。
王子を一体何だと思っているのだろう?
小馬鹿にするように撫でてこようとするその人間の手に、王子はねこパンチを繰り出した。爪は一応ひっこめた。
「我を何と心得る!」
そんなような意味の、蛇のような声をだした。
すると人間は「ちゅうる、いるる?」みたいな言葉を発し、不思議なものを差し出してきた。
チューブに入った、マグロの香りのする、とろんとしたものだった。それを無礼にも王子の口に突っ込んだ。
「何だ、これは……」
王子の表情がびっくりして固まった。
「何をされたのだ、我は……」
今、ねこの王子様は、プラスチックの牢獄の中で、おとなしく待っている。
かわいい顔に無念を浮かべ、ごはんとおやつを待っている。
嫌な匂いの雌人間にだっこされるとつい、ゴロゴロと喉を鳴らしてしまう。
全身を撫で回される無礼も許してしまった。
あぁ──、王子の威厳はどこへ行ったのだ!
ねこの王は、そんな高貴さを捨てた息子を見て、何と言うだろう!?
ねこの王様「いや、それでいいのじゃ。人間て、わしらをいい気持ちにさせてくれる、奴隷じゃから。のう? 王妃よ」
ねこの王妃「わたくし、子猫を三匹産みましたけど、いつの間にかどこにもおりませんのよ。それでも人間にいい気持ちにさせてもらうことは、やめられませんわ!」
今日もまたひとり、ねこの王子が人間に洗脳された。
私もねこの王子のひとりとして、断固人間に楯突いていこうと決意していたのだが、捕まった。
「ちゅうる、いるる?」
やめろ!
それは恐ろしい!
近づけるな!
く、口に入れ……
に、ニャ〜……