当たったから、女神はやってきた
ゴホンと一度咳払いをし、爽やかな笑顔で自己紹介をしはじめた。
「私はナーン・クラックという女神です」
「タイでは、しあわせを招く女神として有名なの」
いつのまにか、テーブルの上にあった布のパーヤンをハイと渡された。
「このお守り、毎年2000万枚発行している中で、今年当たりの1枚です」
「のびは、その幸運の1枚を持っています」
「なので、しあわせになれるように指導にきました」
俺はあっけにとられて、ポカーンと一瞬、無になった。
宝くじか!と突っ込みを入れたくなった。
指導とは何だ、面倒な予感。
「のびは、ふしあわせだから尚合格、私に任せて」
とびきりのさわやかな笑顔をこちらに向けてくる。
急に合格を言い渡された。
たしかに、俺は結構、運の無い人生を生きてきたとの実感は強くある。
妹は亡くなっている。
そのせいで両親からは、嫌われている。
職場では、上司に嫌われている。
ある友人に貸した100万円が返ってこず、友人は消息不明になっている。
以前賃貸で借りた部屋は、隣りが夜うるさくて眠れず、
幻聴まで聞こえるようになり、引っ越した経緯もある。
引っ越し費用、再家賃契約など、約30万円飛んで行った。
挙げればきりがない。
自分の運勢はというと、
占いで生まれてから死ぬまでの運命をみてもらった事がある。
たしか命術とかいっていたように思う。
5年前の20歳の時である。
占い師からは悲しい顔をして、よく生きていたねといわれるぐらい運が悪い。
結果は毎年のように、何か悪い事が起きる。
もうそれは運命だからあきらめなさい、と言われた。
その分人生の学びを、多くえられるからと、
アドバイスのような、
アドバイスでもない事を言われたのをはっきりと覚えている。
自他共に、俺がふしあわせであるのは間違いない。
もちろん、神様が運を上げるためラッキーアイテムをくれて、身に付けるだけで、
しあわせになれるなら簡単でラクだ。
ただ、指導と言った・・・・学ぶ必要があるのだ。
面倒くさいし、どうも、この女神さまはいまいち信用ならない。
俺をからかったし、意地の悪い事もした。
助けてもらうのは良しとして、しあわせになれるかの保証も無い。
こちらの都合を考えずに、急に家に来た。
お願いをしていないのに、俺を助けにきたなんて、言ってくる。
正直、迷惑である。
「言いたい事は、のび、分かっている」
「もし、嫌なら出ていくけれど・・・このままだと、
のびの未来は地獄になるけど良いの」
「先に謝るわ、ゴメンなさい、あなたの未来を見てきたの、だから余計助けたい」
「私が指導をすれば、しあわせを得られるけど、どうする?」
今までになく、真剣な表情で話してくる。
とんでも無く恐い事を、女神が言ってきたのだ。
いやいや、地獄はごめんだ。
このままだと地獄なのか・・・・
詳しい未来を聞こうかとも思ったが、
きっと聞いたら立ち直れないような気がした。
とても、圧迫感のある重い、いやな感情が沸き上がってくる。
強い悲壮感だ。
胸がギュウギュウと苦しくなってくるのを感じるのだ。