なんで、俺のあだ名をしっている?
ハッと我に返り、思考を巡らせる。
なんで、俺の愛称の「のび」を知っている。
そもそも、「のび」というあだ名を知っているはずが無いのだ。
この「のび」は、小学生3年生の時に付けられたあだ名である。
国民ほとんどが知っている、耳の無い2頭身のネコ型ロボットの漫画、
アニメに出てくる主人公の少年の名前からきている。
まんまるメガネのおちこぼれの少年と容姿が似ているからと、
友達につけられたのである。
ロボットが主人公とも言われるが、今はどうでもいい。
俺は学生時代落ちこぼれではない。
勉強は好きではなかったが、テストの点はどの教科も平均点以上はとっていた。
クラス30人中、いつも10位前後。
万年0点でもなければ、最下位組でもない。
要領も良いので、単純に容姿のみで付けられたあだ名である。
あだ名なんて、嫌でも言われ続けていると、何となく愛着も湧いてくる。
友人には新旧含めて皆、この名前で呼ばせている。
この人に教えた記憶はないのだから、きっと誰か友人から聞いたのだろう。
本当に、たちがわるい。
それよりも女神って・・・・何だ。
そう思い込んでしまっている残念な人なんだろう。
ゾワゾワと、とてつもない拒絶感が沸き上がる。
この人からは近づかず離れた方が良い。
ナーンだっけ、聞いたことも無い名前だし・・・・幽霊ではなく、
どうみたってはっきり見える人だ。
会話が可能という事が分かり少し安堵したが、警戒は怠らず対応しよう。
続けて質問してみる。
「ここは私の部屋だと思うのですが、何で女神様がいるんでしょうか?」
「あなたを助ける為に来たの」
(俺を助けるため?そういったのか?)
そう思ったが、女性の行動に注視した為、一時的にその思考は止まった。
答えた後すぐに、スッとその女性は立ち俺に背を向く、
スタスタと後のタンスに向かいザッっと開け、一枚の布を取り出した。
俺の方へ振り返り、片手で布の上部を持ちながら
「これ、私」とチョンチョンと指で指し示す。
あれはたしか・・・・・先月、酒飲み友達からもらった、タイ旅行のお土産で、
パーヤンと言ってた、布のお守りだったはず。
これは幸運の女神で、お前は運が無いから、
これでも持っていて少しでも運を上げろと言われて渡された。
大きなお世話だと思いつつ、嬉しい物でご利益がありそうだったから、
捨てずにタンスの引き出しにしまっておいたのである。
警戒しながらも2、3歩近づいて
まじまじとそのパーヤンを見てみると、女性の姿が描かれている。
キョロキョロと女性と見比べてみると、
顔は似ていないけれど、民族衣装のような服装はとても似ているのが分かる。
でも、それだけで女神だという証拠にはならない。
単なる、海外のコスプレのストーカーかもしれない。
ここまできて、やっと俺の気持ちが落ち着いた。
夜の大切な俺の時間を、これ以上奪わないで欲しい。
その為に、この自称女神を丁寧に対処すればいい。
「ナーンさん、でしたっけ、あの・・・・女神様とおっしゃいましたが、
服装が一緒でも、女神様という証拠にはなりません。
他に証拠はあるのですか、ここは私の部屋なので、勝手に上がられるのは困ります。
いますぐ出て行ってもらえないと、警察へ連絡しますよ」
(あなたがいなくなることで俺、助かるんですけど)