女神のレッスン1
食後、日本で旅をする芸能人のレポート番組を一緒に見ながら、
美味しそうだとか行きたいとか、1時間くらいクワックがほぼ一方的に
会話をしている。
俺は相槌を上手にうちながら、ソワソワと時間を過ごしていた。
「さぁ9時になったら、レッスン始めるよ」
そう、30分前に不意に言われ、いっきに緊張してきた俺がいる。
「大丈夫、簡単な事だから」
「必要な事は、メモで残してほしいな」
「女神である私は、何でも覚えていられるけれど、人間は忘れてしまう生き物なの」
「書き残しておけば、見返し出来るでしょ」
「開始前に、準備しておいてね」
たしかにと思い、今のうちに立ち上がり準備を始めた。
ノートと、黒と赤のボールペン、赤と黄と青の蛍光ペン。
準備がおわり戻ると旅番組から、愛と欲にまみれた恋愛ドラマに番組が変わっていた。
クラックと一緒に、黙って見ていた。
クラックは目をキラキラしながら見ていたが、俺は何を教わるのか何を言われるのか、
叱られるのか、不安だったため
ドラマの内容など頭に入らず、さらにドキドキ、ソワソワしながら時間まで待っていた。
「さて、はじめましょう」
恋愛ドラマが終わり、今9時。
今までに無い、キリッとした声が聞こえ、俺は、覚悟を決めた。
「クラック、お願いします」
向かい合って座り直す。
俺は、当初正座だったが、楽にしてといわれあぐらに変えた。
クワックは、今までにない真剣なまなざしで話し始めた。
「のびは・・・・・自分が苦しくてつらくても、ムリをして頑張るクセがあります」
「楽しい事を頑張るのは良い事ですが・・・苦しみをあえて頑張る必要はありません」
「ムリをしても、自分にとって良い事ってほとんど起きないの」
「実は、苦しみは自分を傷つけて、自分を呪い、どんどん運を悪くします。」
「苦しみは、自分に合っていない事をしている場合に良く起きるものなのです。」
「他の人には、楽しみかもしれません。」
「でも自分にとっては苦しみなのです。」
「苦しさが多い分、楽しさが少なくなって、人生の中で不満が生まれやすくなります」
「そのせいで、人生はつまらなくなり、自身の価値を見出せなくなります」
「のびは、今苦しみが多くて楽しんでいないよね」
「今って生を楽しんでいる実感無いんじゃない?」
(たしかに、そう・・・だ)
ノートに、一文一句欠かさず書いていく。
思い当たる事が多すぎて、頭の中でその遠い昔の過去、直近の事が頭に湧いてきた。
昔から、俺は、いい子でいなければいけなかった。
中学3年の頃から、両親はそれぞれの仕事が忙しく家にいる事が少なくなり、
その分、俺が妹の面倒を全てみなければならなくなった。
親の顔を見るのは週に1、2回・・・・
自分の生活が一変したのだ。
日用品の買い物、食事から掃除まで、多少妹に手伝ってもらう事はあったが、
俺がやらなければならなかった。
学校では、道徳の時間に、苦しくとも他人の為に頑張る事で、技術や人間性が養われて
良い人生が歩めるという話を聞き、その時、あぁ俺もそうなるんだなぁ、
頑張れは良い人生になると信じていたのだ。
今は、どうだ。
楽しくも無い仕事をし、その仕事の残業のせいで自分の大切な休みを無駄に過ごしている。
2日うちの1日が睡眠と会社への不満と無気力で終わり、
もう1日が、日常の雑用に追われている。
土日はかならず休む為、頑張って平日遅くまで仕事をしていのにだ。
月に1、2度、友人と酒を飲み事だけが楽しいが、それだけしか楽しみが思い浮かばない。
「のび、もっと甘えていいの」
「誰かに甘える・・・というよりも、まずは自分にもっと甘えて」
「もし、自分が嫌だと思う事は、やらずに拒否したって良いし、途中で止めても良い」
「のび、あなたは、自分をもっと大切にしてあげる事が必要なの」
クワックの言葉に、俺のこころはギュッギュッと潰されていく。
息苦しさ、上手く酸素が吸えない、感じ。
俺の心の奥底をのぞきこまれ、自分の弱点を指摘されているのを強く感じる。
(出来るならこの場から逃げたい・・・・でも・・・・)
「実は、妹と約束した事があって・・・・・」
続きを話そうとしたが、クワックから制止された。
「ちょっと待って」
クラックが、その場でウンウンとうなずいた後、
「妹のゆきちゃんは、約束してないって言ってるよ」
「のびは、ゆきちゃんと約束したから、頑張って生きているの?」
と少し飽きれ気味に返してくる。
(あぁそうだ・・・・俺が死なせてしまったゆきの分を、頑張って代わりに生きると約束した。
俺は生きている価値の無い人間だと本心から思っている・・・・)
「ゆきちゃんに会わせるから、明後日でもいいかしら?」
俺は思わず目が飛び出し、言葉の出し方を口をパクパクしつつ間忘れる。
妹と会えるらしい。
俺の亡くなった妹の名前が、ゆきだというのは、今までクワックに一切言っていない。
きっと女神だから、分かるんだ。
色んな感情が沸き上がり、どう処理していいか、自分でも分からないのだ。
悲しみ、喜び、不安、恐れ
言葉も出なければ、何をすればいいのかも分からない。
それを察してか、クワックは、俺に話し続けてくれていた。
「ゆきちゃんはのびに会いたがっているわ、怒ってないし安心して」
「明日は用事があるから・・・明後日にでも一緒に、ゆきちゃんのお墓参りに行きましょう」
「そこで会って会話するのが一番いいわね」
クラックは、パチンと両手を叩いた。
「はい、今日のレッスンはここまで、ちゃんとメモをとった?」
俺は、ふと我にもどり、書くのを途中で忘れてしまっている事に気づき、
思い出しながら書いていく。
「妹と会う」
妹と会うという文字を外を、大きく3回ほど色マーカーでグルグルと描いた。
(会って何を話せばいい・・・それより謝れる・・・)
今日のレッスンが終わり、クラックはベットで横になって眠っているようだ。
スヤスヤと寝息を立てている。
俺は、ざぶとんの上で寝袋で寝る準備をしている。
クワックからの教えは、とても心にグッときた。
とても簡単な事だとは、たしかにそうだと思う。
けれど、今は心がとてもツラいのだ。
たしかに、そうなのだろう。
でも、そうは言っても・・・・
俺以外の人だって皆、不満を抱き、ムリしつつ我慢し、
似たり寄ったり頑張りながら生きているようにも思えるのだ。
「そう気づいても、なかなか変えられないよな」
そう言葉が自然と出た。
(まずは、レッスンを全部受けて、それからどう選択するか、行動するかで良いか・・・)
自分の頭の中で、アレコレ考えてしまう自分がいる。
(妹に会ったら・・・何を話そうか・・・)
いかんいかん、これじゃぁ眠れなくなる。
まぁ、いい、何とかなるだろう・・・・明後日には解決する事だ。
明日は休みだ、最悪眠れなくても良い、目だけ閉じて・・・なるべく頭を休めよう。
こんな経験は、初めての事なのだが・・・
クワックが同じ部屋で寝ているからなのか、理由は分からない。
目を閉じた途端、急に睡魔に襲われ、あっという間に寝てしまった。
ひとまず、こちらでの掲載は一時終わりになります。
自分のペースで書く予定で、完成後、
どこぞかのコンクールにでも出して、受賞し出版費用がかからなければ、媒体の出版。
受賞しなくても、キンドルで出版予定です。
読んで頂きありがとうございました。




