遠い未来のアナログ派
遠い未来のアナログ派
遠い未来、人類は枯渇した鉱物資源を獲得するために、宇宙へと活動の場を広げていた。レアメタルを埋蔵している小惑星を発見し、そこへ宇宙船を着陸させ、掘削を開始する。小惑星に所有権などあるはずもなく、簡単に言ってしまえば早い者勝ちだ。多数の企業や、個人事業主が、資源獲得のために、熾烈な競争を繰り広げていた。
「おや、先客がいたのか。個人で活動している掘削家のようだな」
「えぇ、まぁ。一人でのんびりと、鉱物を掘って生活していますよ」
「ふん。のんびりとだと?お前のような奴は、この競争に勝ち残れまい」
とある小惑星に、巨大な宇宙船が着陸し、数十名の作業員が下り立った。掘削界隈では名の知れた、大企業の宇宙船と、その作業員達だ。その隊長が周辺の調査をしている途中で、個人掘削家と鉢合わせたのだ。
「いやぁ、さすが大企業の作業員はすごいですねぇ。みなさんテキパキしていて、見惚れてしまいますよ」
「お前はとんだ能無しのようだな。掘削業は速さが命だ。だというのに、こんなところで何をしているのだ?」
「向こうに洞窟がありましてね。最奥にレアメタルがあるみたいなんですよ。うっかり掘削道具を持ち忘れたもんで、一度自分の宇宙船に戻って、道具を回収してきたところです」
「なに、洞窟だと」
個人掘削家が指差した先には、小さな洞窟があった。入り口は狭いが、その中は無数に枝分かれし、巨大な迷宮が広がっている。個人掘削家は「お先に」と軽く会釈してから、洞窟の中へと入っていった。隊長も負けじと洞窟へ入ろうとしたが、そこで計器が異常を知らせ、作業員達は足を止めた。
「隊長、この洞窟は未知の電波を発しており、計器が機能しません」
「このままでは、ソナーを使って、洞窟の地図を作成することも出来ません」
「この迷宮を地図無しに進むのは自殺行為だろう。計器の改造が必要だ。あの個人掘削家はどうせ迷子だ。後で保護してやれ」
隊長の指示により、作業員達は宇宙船へと戻り、洞窟内でも計器が使えるように、改造を始めた。宇宙ではこのようなトラブルは日常茶飯事であり、今回もすぐに対処出来るだろうと考えていたが、そうはいかなかった。洞窟が発生させる電波の解析が、一向に進まないのだ。まる一日かけても、作業が全く進まない。こうしている間にも、ライバル企業がこの小惑星にやって来るかもしれない。隊長が焦りを感じ始めた頃、一人の作業員が洞窟を指差し、大声を上げた。
「隊長見てください!あの個人掘削家です!大量のレアメタルを背負って出てきました!」
「なんだと!?」
隊長は宇宙船を飛び出し、個人掘削家へと詰め寄った。
「お前、地図も無しにどうやって洞窟の最奥へ行き、そして戻ってこれたのだ?」
「地図?自分で作りながら進んだだけですよ」
「馬鹿な、あの洞窟内では、一切の計器が使えない。どうやって地図を作った?」
「どうって、紙と鉛筆ですが」
おわり