墜ちる「虫」
「人モドキが人の姿をしているのを見たのは初めてだよ」
「虫」が第一声を開始した。
「それをいうなら、私も「虫」と会話するのは初めてだ」
「その「虫」って呼ぶのやめてくれよ。お前たちの姿と同じじゃないか」
表情から不機嫌を演出しているのか。
「さて、前置きはいい。尋問を始めようか、お前は何者だ。どこからきた?」
「さぁ、こっちが知りたい」
少し沈黙が流れたあとに、
「意味がわからない。お前は我々と会話している。知能があるのだろう、ならば記憶もあるはずだ」
「虫」は少し考えたあと、
「冬が三回来た。冬と認識できたのは人間の記憶があるからだ。私の記憶じゃない」
「なるほど、人間の記憶か。人の姿になると記憶を得ることができるのか」
「さすが人間の代表、頭いいねぇ」
指を指し笑顔を見せる。子供が行うように。
「質問をはぐらかさないでもらおう。私はお前はどこから来たと尋ねた」
「その質問になぜ答えなきゃいけないのかわからないな」
「プラズマボックスに閉じ込められたお前を消滅させられないと思ってるのか?」
「やったことないくせに、言っとくけどプラズマ程度じゃ俺は死なない。試してみればいい」
「そうか、じゃあ試してみよう。尋問は他の虫を捕まえて行おう」
「わかった、わかった。俺の負けだよ」
「お前たちの言うところ電子、粒子に魂が入ったゴーストみたいなもんだ。どこから来たかってのはよくわからない、多分違う次元から来てる」
「違う次元?」
「お前たちの定義ならパラレルワールドって言ったほうがわかりやすい?そっから魂だけ来てるような感覚だけど、この世界では時間間隔が歪なんだ。過去と未来が繋がっている。正確にいうなら生命の記録を読み込んでいる。
まぁ。わかりやすくいうと俺はなんにでもなれる。だけど生き物限定ってことさ」
「それは想像の範囲内の答えだな」
「当然こんなこともできる。お前が何を考えているのか全部俺にはわかる」
目の前の長官と同じ姿かたちに変化した「虫」は不敵な笑みを浮かべた。
「なるほど、人類には厄介な存在だな。お前たち全員同じことができるのか」
「多分できるんじゃないかな、でも基本的に俺たちコミュニケーションとらないからね。よくわからない」
「質問を変えよう。なぜ来た」
「知らない、気づいたらいた。冬が三回きたから三年前ってことはわかるが、気づいたら犬の姿をした人間がうろついてるじゃない?一瞬退化したのかと思ったよ」
「その退化した人間に捕まったお前はずいぶん間抜けじゃないか?」
「俺考えるの苦手なんだよね。記憶読むのはできるけどさ、きっと学校の成績悪かったからだな。もう本能の赴くまま生きてるって感じ?」
「ということは、お前は元人間、それも若い学生だった。ということか」
「そうなるねぇ」
「目上の人間に対してずいぶんな口調じゃないか」
「まぁ、お前ら基本遊び道具みたいなもんだしな。俺はもう人じゃないわけだし、そんなこと言われても困るよ」
「そうか、わかった。プラズマボックスで「虫」が殺せるか試して終わるとするか」
「え、ちょっと待って、質問にちゃんと答えてたじゃん」
「しかし、お前は人じゃないしな、人権なんて概念当てはめる理由もないだろう?」
「いや、その先生、すいません。反省してます」
「部下を100人も殺されて、反省してますで済むと?」
「いや、それ俺じゃないし、俺は誰も殺してないって」
「さっき、遊び道具みたいなもんだと言ってたぞ?」
「ま、まぁ、ちょっとは殺したけど、大体は別のやつがやったんだよ。俺は逃げたやつを追いかけて、、、その、、、殺したけど」
「さっきコミュニケーションとらないと言っていたが、狩りを一緒にやる仲間がいるんじゃないか」
「ま、まぁいるかな、、、」