蟻の巣に住む人々
人類はホームと呼ぶ、しかし形状は蟻の巣をモチーフにしているため「虫」に蟻の巣と揶揄されたことに対して怒りはない。
入口も蟻の巣のようにやや盛り上がり、違う点はほぼフラットである巨大な蓋があるという点。
しかし、蓋を動かす機会はあまりなく、トンネルの出口を使っているため、やはり蟻の巣に酷似している。
今から凡そ2500年ほど前、シェルターにいた人々が大災害を生き残った。
当時60億人を超えた人口は1000人以下まで刈り取られた。
世界は完全に文明を失ったように思えたが、政府主導で建設されたシェルターで生き残った人々がおり、実験施設という特色から多少の資材があったのが幸いした。
食糧生産施設の一部を稼働させることができたのも幸運だった。
通信が再開され、各国のシェルター数か所の内、稼働し生存者がいるのは確認できただけで三か所しかないことがわかったことは大きな落胆と少しの希望になった。
人類は絶滅をまぬがれ、地下での暮らしを余儀なくされたが人口の増加を望むことは難しく、増減を繰り返し3つのシェルターで1万人を超えることができたのは数年前のことである。
100年も経つと外界での生存のルールを理解した人類は失った文明を復興させることができた。
地上1mの死のルールは2065年当時の地上に設定された危険区域であるため、瓦礫の山や隆起した地面は超えることができなかったが、人々は這いつくばって資材を運び動力を駆使し、文明を取り戻していった。
主食は生産された昆虫をベースに過去に存在した食べやすい形状に変えられ人口調味料で味付けされた食事からハーブを使った香草焼きまである。
尊厳を取り戻しつつあった人類だったが、生き残った四足歩行の獣は彼らの命を気まぐれに奪った。
もっともその獣も襲い掛かる時に飛び上がれば1mを超えてしまう。
獣たちは仲間の死からルール学習し、低姿勢で襲ってくることが多い。
人類が優勢なのは穴を掘り道を作ることができたことである。
いわゆる塹壕だが、500年前から様子が変わってきた。
塹壕の地面が地上に変化したのだ。
生存ルールが変わってしまったと理解した人類は今度はトンネルを作りそれをナニカから隠した。
復興した文明から作られる建設機械は良質なものとは言えず、セメントが貴重な生産品であるため落盤におびえながら、細い通路と落石が起こらない硬い岩盤の天板を利用した狭い部屋を作っていった。
客観的に呼称するなら蟻の巣である。
この蟻の巣に1万を超える人々が住んでいるという事実と、二千年の執念が生存に適した義体化を生み出した。
四足歩行の人類の誕生である。
貴重な資材を使うため、外界に出ない人間は手術を受けないが移動の効率性から獣をまねるしかなくなった。
彼らの本格的な武装が始まったのは「虫」を見つけてからになる。