6.日間ホラーランキング1位
穂村はストーリーを冒頭から変更することにした。
主人公は有名人になるために占い師をしている。
かつて父親の借金で一家離散しているので、有名占い師になって行方不明になっている家族を見つけ出そうとしているのだ。
主人公の占いは女性向けファッション雑誌にも紹介されている。目的まであと一歩のところなのだ──
「……こんな感じでいいか」
これならば、この占い師は依頼人のお世話係にならなくて済む。彼女なりの目的があるのだから。
小説家になろうのいいところは、あとからいくらでも修正がきくということだ。公募ならこうは行かない。書いた後で矛盾や修正点に気づいても直しようがないのだ。
穂村は発表していた連載へ大幅に手を加え、様子を見ることにした。
10位以内にはまだいるのだから、発見してくれた人が評価を入れてくれるかもしれない。
次の日。
ちょっとした奇跡が起きた。朝にもう一話追加で投稿したところ、〝悪嗤〟が昼の日間ホラーランキング5位に入ったのである。
穂村はほっと胸を撫で下ろした。明石のり男のファインプレーで、窮地を救われたようだ。
「目的のある主人公だと読者は応援したくなるのか……そういうことなんだな」
穂村にはずっと欠けている視点だった。
彼は面白いストーリーを書くことには固執していたが、キャラクターを書こうと思ったことがなかったのだ。
原稿に向かっているだけでは決して手に入らないものが、なろうにはある。穂村は今日それを痛感した。
昼休憩に入ると、穂村はちょっと気になって明石のり男の小説をなろうで読み始めた。
書籍化している〝パン海苔〟に目を通し、彼はこてんぱんに打ちのめされる。
「乙女ゲームで死ぬ予定の悪役令嬢に転生してしまった主人公が、海苔の養殖を……!?」
アイデアからしてぶっ飛んでいる。題名から既にマリー・アントワネット臭が漂っているが、こういうことだったのだ。断罪回避のために、異世界で見向きもされていなかった海藻を集め、前世海苔養殖業を営んでいた知識で男爵領の領地改革を行う。無から有を生み出す手腕が高く評価され、断罪を回避。ライバルを蹴落とし、王太子に「おもしれー女」と言われ、王妃の座を狙おうかという段になって、穂村の昼休みは終わった。
午後は配達に出る。穂村は田舎道を運転しながら、危機感を覚え始めていた。
「あんな斬新で面白い話……どうやったら思いつくんだ?」
ペンネームからして、明石はきっと海苔に詳しいのだ。専門分野があると、創作する上で大きな力になるのだろう。
「占い……霊視……ホラー」
穂村は、小説を作るためにはもっと専門知識をつけねばならないと思った。
更に時間は流れ、金曜の夜。
穂村は自宅で占いサイトを読み漁っていた。当初考えていた霊視での占いに加え、タロットや占星術、夢占いや風水などもしらみつぶしに調べた。
「うーん。占いって、随分ファンタジーちっくなんだなあ」
夢占いや風水を遡ると、古代中国に行き着く。穂村はハッとした。
「もしかしてこの話、現代日本が舞台じゃ迫力ないんじゃないか?」
一家離散や行方不明、霊能力などという話は、現代日本が舞台だと奇想天外が過ぎる。
しかし舞台をファンタジーにしてしまえば、霊視や占いがもっと力を持って来るのではないか。
「そうだ。占いや霊視が、もっと力を持っている時代があったはずなんだ」
書きながら気づくことが多すぎた。が、これは彼にとって貴重な体験だった。ひとりで書いているだけでは、気がつかなかった境地である。
「舞台を古い中国にしよう。そういや中華ファンタジー、この前軒並みアニメ化されてたもんな」
穂村はなろうの上位作品を読みながら、もうひとつの慧眼を得た。
「……後宮ものかぁ」
後宮に現れる悪霊を退治する女占い師を主人公とするのはどうだろう。女性は占いが好きだから、きっと彼女は後宮で重宝されることだろう。悪霊を退治したりして、女官の道をのし上がって行くストーリーならどうだろうか。
「新しい連載を書こう。前の小説は、悪いけどボツ」
穂村は思い切った方向転換をし、新たに中華ファンタジーを書き始めた。「後宮小説」を読んだことがあるので、世界観をあらかた真似てみる。
主人公の少女は霊視の能力があることで村では迫害されていたが、街へ出ると祓い屋として重宝され、しばらくすると女官へ来いと後宮からお触れを出される。主人公は家族を街へ呼び寄せるため、女官として短期間で金を荒稼ぎしようとそれを快諾する。
後宮で起こる怪奇現象。霊の見える彼女がそれを追いかけると、どうやら呪術を使う隠れた敵がいることが分かって来る。主人公は誰かを占うことで、未来視が出来る。それを逆算して呪術を使う敵に迫って行くのだ。
エンドレス・ファイアーの新作がこうしてまたひとつ誕生した。
二週間後、穂村は気軽にそれを投稿した。
〝後宮祈祷師〟と題をつけ、駄目で元々という投げやり半分の気持ちでなろうの海へ放る。
ところが、これが思わぬ未来を呼び寄せることになる。
穂村は翌日のランキングを見て目を剥いた。
日間ホラーランキング一位。
「やった。連載で一位は凄いぞ!」
穂村は配達のトラックの中で、バタバタと喜びのステップを踏んだ。
一方その頃──
オフィスの一角で、ペンドリー出版の桐島もホラーランキングを見ていた。
「後宮ものでホラー、か……ちょっと珍しいかも」