表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍化地獄  作者: 殿水結子@「娼館の乙女」好評発売中!
第五章.救いの手

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/57

47.もっと我儘に

 桐島との繋がりが再び戻ったことで、穂村の思考は前に進み始めた。


 あれから一週間が経過した。


 穂村は自宅で、スマートフォンとにらめっこしている。


「〝話題は何でもいい〟って言ってたよな……」


 桐島は対面でも電話でも何でも話せと言っていたが、穂村からすると引け目を感じる。


 去年、彼は編集者の忙しさを嫌と言うほど目の当たりにしていたからだ。あんな細い体にいくつもの書籍化案件を抱え、終電間際まで仕事をして、時には居酒屋で作家を接待し、目まぐるしい毎日を送っているのに、更に売れない作家の雑談をぶつけるなど──善人の穂村には心苦しい。


「こういう時、昭和の文豪みたいな傍若無人さが欲しいよな~」


 我儘さも、作家が持つべき特性なのかもしれない。


「とりあえず、気ままに、我儘にメールするか」


 穂村は一週間後、電話出来ないかとメールを送信してみた。


 返事がやって来る。


『来週は火曜であれば、正午~30分空いてますよ!』


 完全に休憩時間のさなかではないか。穂村はぞっとした。


 無理ならいいです……と言いたいところだったが、ここで我儘カードを切らなければ、穂村はいつまで経っても桐島と無駄話など出来ないであろう。


 真面目な穂村は〝我儘に慣れなければならない!〟と心を鬼にした。


『では、火曜の12時から12時半までご相談させてください。よろしくお願いします』


 穂村はそう送信してから、フーと息をついた。


「さて……どんな相談を持ちかけるべきかな?」


 穂村は今から話題を探しに行く。


「図書館や書店には入れなくなっちゃったし……」


 そういうわけで、久々に穂村は〝小説家になろう〟に足を踏み入れた。


 なろうは相変わらず異世界恋愛の牙城である。穂村はどうしてもその波に乗り切れない。


「やっぱ、あれかな。桐島さんも〝異世界恋愛を書け〟って言うのかな……」


 穂村は〝後宮祈祷師〟に恋愛要素を入れなかったことを、実はうっすら後悔していた。恋愛要素をがっつり入れれば、もうちょっと売れたのでは……という疑念があったのだ。


「あとは、ハイファンタジーか」


 エンドレス・ファイアーが次に目指すべきは、きっとここだろう。ランキングを見てみると、どれもこれも書籍化している。


 その中のいくつかを読んで、少しばかり話題の種を拾っておく。




 約束の火曜がやって来た。


 桐島から連絡が来ることになっている。電話が鳴ると、穂村はすぐさま手に取った。


「も、もしもし。エンドレス・ファイアーです!」

「ファイアーさん、どうも~」


 声を聞くと、やはり申し訳なさの方が先に立って来る。


「……すみませんでした」

「えっ!?何を謝っているのですか?」

「本来は休憩時間でしょうに……」

「いえいえ。別にいいんですよ~お気になさらず」

「こんな売れない作家に……」

「ええっと……まず、先に申し上げておきますね」

「はい」

「こんな風に雑談を入れて来る作家さん……別に、他にもいっぱいいらっしゃいますよ。ファイアーさんだけというわけではないんです」


 穂村はそれを聞いて、ちょっとほっとした。


「あ、なんだ。そうなんですね」

「はい。みなさんちょくちょく電話、メールで〝最近流行ってるの何?〟って聞きに来ますよ。編集部に直接やって来る作家さんもいます。もちろん、刊行中の方とは食事に行ったりもしますし……」


 そう前置きした上で、桐島は尋ねた。


「それで、今日は何を話しますか?」


 穂村は答えた。


「とりあえず、現状はなろうからの書籍化を考えておりまして」

「はい」

「なろうから書籍化するには、今どのジャンルがいいのかなーと」


 桐島はしばらく考えている。


「うーん。目的は〝書籍化〟だけでいいのですか?」


 穂村は目が点になった。


「え?書籍化を目指すのは当たり前では……」

「あ、言い方を間違えました。要は〝一冊出して終わり〟を続ける方向でいいのかな?ってことです」


 穂村はハッとした。


「……そこまで考えてませんでした。確かに、長く続いた方がいいですよね」

「もしファイアーさんが一巻読み切りを次々出したいのだとしたら、現在人気の異世界恋愛を推したいところなのですが……もし長期連載を狙っているなら、むしろそれは避けた方がよいかと」


 書きたいネタばかりを探していた穂村だったが、一度商業で出版したのもあって別の欲求がむくむくと現れる。


「そうですね。出来れば長く続けたいです」

「であれば、ちょっとこの前、別の出版社さんと話す機会があったんですけど」


 いきなり話がペンドリー出版の枠外へ飛んで行ったので、穂村は目を丸くした。


「別の出版社……?」

「はい。そこの編集者さんが言うには、これからはミステリーの波が来るのではないかと」


 穂村は益々わけが分からなくなった。


「え?なろうで、ミステリー?」

「あれ?知らないんですか穂村さん。最近出たなろう発のミステリーのいくつかが、今、立て続けにヒットしてるんですよ」


 最近すっかり書店から遠のいていた穂村には、驚きの話だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓Amazonページへ飛びます↓ i956321
ブレイブ文庫様より
2025.5.23〜発売 !
― 新着の感想 ―
[一言] ヨッシャ、私もちょっとミステリー書いてきます( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ