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(元)勇者なめんなっ!  作者: 前田マキタ
第一章 物語を終えた勇者
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第九話 ごめんゴードン




 案内された先は、ギルドの隣に位置するちょっとした広場だった。

 ここは、予約すれば誰でも使用できる冒険者専用の訓練場だ。

 隅には藁人形や魔術の的が置いてあり、真ん中には仁王立ちしている図体のでかい男がいた。


「試験管のゴードンだッ!これから、お前さんの実力を測る!当然勝敗をつけるが、勝てなかったからといって不合格になるわけではないから安心して向かってこいッ!」

「はい」


 これまた元気なおっさんだ。

 だが、あの年で快活なのは尊敬できる。

 まあ、それはおいといて。

 ここは、あまり目立たずに勝負を終わらせよう。


 明らかに、体躯に比べて小さすぎる木剣を構えたこのゴツいおっさんに対し、軽く素振りながら定位置に着く。


「ほぉ、少しは覚えがあるようだな」

「ええ、まあ」


 準備が整ったところで、ゆったりと剣を構える。

 さて、練習の成果が上手く発揮できるだろうか。


「それでは、はじめっ!」


 受付嬢による試合の合図と共に、



《勇者化――両足》



「……ッ!」


 全身勇者化しそうになるのを何とかして堪え、俺の両足を若返らせる。


「……よしっ」


 大丈夫、足だけなら相手から見ればなんの不自然さもないはずだ。


 そのまま、ゴードンのもとへ歩く。

 クレーターを作らないよう少しずつ前へ。


よし…よしっ。痛くない……ッ!


「ほお……落ち着いているな」


 感心したようにゴードンがつぶやくが、正直それどころじゃない。

 間合いに入り、力が暴走しないよう軽く握った木刀を振る。

 刃先同士がぶつかり合い、カンッと乾いた音が部屋に響き渡った。

 なんとも間抜けな音である。


「……なんだそれは」

「えっ……と」


 おっといけない。

 同時に、剣が手からすっぽ抜けてしまった。


「ふざけているのか」

「すいませんふざけてないです」


 首元に剣を突きつけられた。

 やばい、これは門前払いか?


「……はあ、もう一度仕切り直してやる!次はないぞ!」

「ありがとうございますっ」


 金髪のソフトモヒカン、ゴードンは存外大目に見てくれるようで、やり直しが許された。


なんて優しい人なんだ…!


 木刀を拾い直し、お互い定位置につく。


「そ、それでは、はじめっ」


 再び、受付嬢の合図で試験が始まった。


「よし、こいっ!お前の実力を見せてみろッ!」


あ、この人これが初めてのテイで進めてくれている……!


「いきますっ!……あっ」


 今度は、手に集中しすぎて足が絡まり転倒する。


「……」


 くっそ、やはり動きながらだと難しさが段違いだな。

 初めて歩く練習しているみたいだ。

 だが、その後も。


「てやァ」「それ」「とりゃっ」「くわっ」


 俺は悉く失敗し、ゴードンに一太刀も入れることが出来なかった。



「……もういい、付き合ってられん」


 手で顔を覆ったゴードンは、ついに剣を下ろしてしまう。


「そんなぁ」

「さあナタリー、試験終了の合図を」

「は、はいっ……では」


このまま、終わってしまっては不味いっ!


「あの、待ってくださっ」


 慌てて、右足を踏み込んだ瞬間。


「あ、やべ」


ダァンッ


 力の調整を失敗し、勢いよく前に飛んだ俺。


「えっ」


ゴードンよ、すまない…


 俺はもう、止まることが出来なかった。



「「ぐぇっ!?」」



 二人はもみくちゃになって倒れた。


「お……おまえ、一体何が…したいんだっ……ガクッ」


 そう言い残し、ゴードンは気絶した。


「もう少し……練習が必要だな」

「えっ……」


目を丸々と見開いたギルド職員さんと目が合う。


「……はは」


とりあえずは……合格ですよね?






「お、お疲れ様でした、以上で終了となります――こちら、ギルドカードですね。冒険者ギルドはあなたを歓迎……します!これからよろしくお願いいたしますねっ」


 ”歓迎”と”します”の間が若干気にならないでもなかったが、何とか冒険者登録を完了させた。

 これから、本来の目的である素材の売却をして元手を手に入れよう。

 意気揚々と換金所へ行ったのだが。


「この角は無理じゃな」

「えっ」


 突き返されたオーガの角。


「おぬし、新米じゃろ?新人がオーガを倒せるわけがないのでな。等級と大きく乖離した素材は買い取れないことになっておる」

「そ、そんな……」


 何度かゴネてみたものの、とりつく島もなくオーガの素材は買い取ってもらえなかった。


結構、この角で皮算用していただけにショックが大きい……


「せめて、旨い飯でも食いに行くか……」


 若干、いやかなり肩を落として俺はギルドを出る……前に、未だ大盛り上がりの酒場に戻って、飲んだくれのナイスガイに銀貨を返した。

 危ない危ない、忘れるところだった。


 ついでに、掲示板も軽く覗いてみる。

 こうなったら、何か割の良いクエストの一つでも見つけてやりたい。

 掲示板にはたくさんの依頼が貼られており、『迷子の犬捜索』や『薬草採取』などの簡単なクエストから、グリフォンやらサイクロプス等の『上級魔物討伐』まで様々だ。

 その中に、一つ興味深いものを見つけた。



『サイン山の異変調査 報酬:銅貨20枚』



 なんでも、ここから西にあるサイン山で近頃魔物が活発化しているらしい。

 それの原因解明だそうだ。


 いや、それにしても報酬が安いなっ!

 銅貨100枚で銀貨一枚だから、銅貨20枚だと1週間の食費にも満たない。


 こういう調査は長引くのが多いから最低でも銀貨一枚はないと……ははーん、さては地雷だな?

 まさに、塩漬けクエストと言われてるやつだ。

 だからか、紙自体もわりかし古い。

 剥がされていない証左だ。

 まあ、誰がこんなクエスト受けるんだって話だ。


 せっかく、ここより西にある村への長期滞在だったから、少し興味が引かれていたのだが。

 これは見送ろう。

 今一思うように行かず、俺はギルドを出た。

 次の行き先は……。




「はいよ!クロムの町特製シチュー、一人前だよ!」

「おお、上手そうだ……!」


 町で評判の定食屋だ。

 中でも、特に気に入ったのはこのチーズだ。

 癖は強いが、逆にそれが良いアクセントになっている。

 病みつきになりそうだ。


「うまいな……」

「ああ、それはサイン村産のシェーブルチーズ、山羊のチーズさね」

「サイン村、か」


 気風の良い女将さんが教えてくれた。


「あそこは平和でのどかないい村よ?」


 どうだろうか……クエストの内容的に、今はそんなことないんだろうな。

 もし、その村が魔物に襲われ消えたら、このチーズは食べられないんだろうか。


 ……。


「はは……まさか」










「ああ、セオドアさんこんにちは、クエストの受注ですか?……え、このクエスト受けてくださるんですか!?大変助かりますっ……はい!それでは行ってらっしゃい!」

1枚の目安です。


銅貨=1000円

銀貨=10万円

金貨=100万円


ちなみに、価値は変動します。

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