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(元)勇者なめんなっ!  作者: 前田マキタ
第一章 物語を終えた勇者
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第七話 クロムの町




 その一言を皮切りに、オーガが突っ込んできた。


「gawoga!」


「フンッ!」


 振り抜いてきた大ぶりな右手のパンチを、左手に魔力を集めたうえで受け止める。

 しかし、左手はこれといって若返ってはいない。

 勇者化ではなく、ただの魔力操作による身体強化だ。


 これから先、勇者化しないで済むなら使いたくない。

 万が一、コントロールに失敗して当時の顔が見られたら大変だ。

 何より、魔力を馬鹿みたいに持っていかれるからな。


「良いパンチだ」

「!?!?!?」


 「自分より明らかに小柄な体格をした人間に、渾身の一撃を受け止められたのが信じられない」とでも言うかのように目を丸めたオーガ。

 無駄に人間味のある表情がちょっと面白い。

 それはさておき、ここからが練習だ。



《勇者化――右足+右手》



 右手にゆっくりと魔力を流し、部分勇者化を試みる。

 だが……。


「クッ」


 誤って全身を勇者化させてしまった。


「ッ!」


 その瞬間、勘づいたオーガは大柄な身体に見合わない俊敏さで飛び退いた。


「ほう……危機察知能力があるのか」


 これはますます逃がせないな。

 万が一町の近くにでも現れたら面倒だ。

 そのまま逃げようとするオーガに、全身勇者化したまま飛び蹴りをかます。


「gyawofawoh!」


 軽々と吹っ飛んでいったオーガだったが、さすがは上級魔物。

 この程度では死なない。


 俺は、勇者化を解除しオーガに近づく。


「まだまだ、これからだぞ?」

「……!」


 しばらくオーガと戯れた後、感謝の一突きで命を頂き旅を再開した。

 結局、オーガとの戦闘で右足の勇者化だけは会得したものの、複数の箇所となるとまだまだ練習が必要だ。

 それから、しばらく繰り返し勇者化の練習をする。

 繰り返し繰り返し、今までやってきたように。


「……ッ」


 何度も練習すること。

 俺はそれしか知らなかった。


 練習も程々に歩みを再開すると、大きな通りに出た。

 もうすぐこの森を抜けそうだ。

 ここを抜けた先にある町はクロム。

 俺は、そこで魔物の素材をいくつか売りたかった。


 そのためには、まず。


()()()()()()()()()()()!」


 冒険者にならないとな。




 クロムは、王都から馬車で約二週間の比較的大きな町だ。

 この町に大抵の物はそろっているから、少し滞在しようと思う。

 懸念すべきは、勇者の顔を覚えている人間の可能性だ。

 都市程まではいかないものの、人の出入りが多いのだ。

 間違っても全身勇者化しないよう、細心の注意を払わなければ。


「お兄さん手ぶらでどうしたの……冒険者?全ロス?……ああ、気の毒に…一応カードだけ、いい?…はい、ようこそクロムへ、ゆっくりしていってね」


 門番からの質問に惨めったらしく答え、木材で作られた門を通してもらう。

 旅での全ロスは、珍しいがないわけではないから、同情と共に入ることを許可された。


 ちなみに、門番にはアンドリューの使っていた偽のギルドカードを見せた。

 即席の身分証である。

 冒険者は町の出入りが多いため、一々細かい本人確認などしない。

 だからか、闇ギルドには複数持つ者も多かった。

 あいつ、色んな顔持っていたからこういうときは便利だ。


 ようやく着いた達成感を噛みしめて、クロムの町へ入る。




「やっと……着いたな」


 一度入れば、たくさんの人に立ち並ぶ建物、商店街など……久方の”生活感”を全身に感じた。

 色んな事があったせいか、この雑踏がやたら遠くて眩しい。

 これが、自由によるものなのか孤独からきた寂寥感かは判断しかねるが、とりあえずは……金だ。

 身も蓋もない言い方ですまない。


「たしか、ギルドは……」


 素材の換金が最優先ということで、冒険者ギルドを目指して歩み始める。

 フードを被っているので当たり前だが、俺を勇者と認識する人間はいなかった。

 おっかなびっくり周りを見渡し、看板探しに邁進する。

 冒険者ギルドは、町から出やすいよう門を過ぎてすぐ傍にあった。

 寄り道をせず、さっさと扉をくぐろうと、戸を開けば。



「おい!なんで報酬こんだけなんだよ!?」「うおおおおお!魔物を狩るぜええええッ!」「それじゃ、今日と言う日にかんぱーーい!!」「このクエスト受けてみようぜ!」「全部ないなったあああああ」




 喧喧諤諤たる雰囲気に包まれていた。


「変わらないな、冒険者ギルドは…」


 新たな生活の幕開けを感じつつ、俺はギルドの中へ入っていった。

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