第五十五話
『すぴかのじゅんびができました』
「わ、わかりました……っ」
場所は変わりモカロネとアリシアの魔術合戦は、そうそうにモカロネの劣勢だった。
「あれあれ~?まだ準備運動だよ、もう疲れちゃった?」
軽口を叩きながら、常人では考えられないスピードで魔術を描くアリシア。モカロネは、化け物じみた魔術に付いていくのが精一杯だ。
『えんごします』
縦横無尽に大きく太い根が質量を押しつけるが、アリシアの表情は崩れない。
「あはは、まるで巨大なタコだね…いや、イカかな?」
どうでもいい感想を呟きながら、見もせずに根を防ぐ。さらに、次々と発射される魔力弾が根を打ち抜いていった。
『いまです』
しかし、多少の時間は稼げたようでモカロネが作戦に取りかかる。その様子をみたアリシアは、口角を上げた。
「ふふ、何か始める気だね……でも、ただではいかせないんだなぁ」
『さあ、このたいみ――――』
モカロネが魔術を発動させる少し前に、彼女は唱えた。
「このタイミングでしょ!――チェンジ」
途端、アリシアの姿が消え。
「なに?」
代わりにセオドアが現れた。
『ということは……』
「えっ」
スピカが十分に近づく前に、アリシアが目の前に現れた。
「これで振り出しだね、お嬢さんっ」
太陽光の準備ができていない。
「タイミングが違う!」
「あれ?思ってた反応とちがう……」
この状況を作り出した張本人は、スピカの表情に違和感を覚えた。
『どうしますか?』
走るスピカに、精霊が根を通じて話しかけてきたが、このまま止まるわけにはいかない。
「作戦続行です!」
最短距離でアリシアに近づく。スピカは確信した。もう自身の距離だ、近距離タイプの本気の接近に魔術師の彼女が反応できるはずがない。
「でもさ、その作戦」
ブレスレットへ伸ばした手は……。
「――私が近距離できない前提だよね?」
「え」
素早くスピカの手をとったアリシアは、そのまま彼女の勢いを利用しスピカを投げ飛ばした。
「かはっ!?」
ろくに受け身をとれないまま、背中から転げ落ちたスピカ。肺から空気が抜ける感覚がした。
しかし、呑気に寝ている場合ではない。すでに、アリシアは魔術を唱えていた。
『きょりをとられてはいけない!』
精霊の焦った声に、スピカは反射で動く。
根の道を渡って、立体的にアリシアへ近づいた。
「ふふ、お猿さんかな……もう遅いけどっ」
「っ!?」
視界を埋め尽くすほどの閃光。スピカは身を縮め、精霊の操る根が彼女をボールのように弾き飛ばした。直後。
《ゾ・セ・タース》
轟音とともに、魔力の流星群が辺り一面の木が根こそぎ吹き飛ばされる。衝撃は少しの間、余韻を残しながら辺りを平らにした。
「もう終わり?そんなわけないよね」
アリシアはニコニコ微笑みながら、森の奥を見据える。
背後に迫る陰――。
「やっぱり」
アリシアの首を狙ったスピカの剣は、彼女の杖にたやすく阻まれる。アリシアは半身になりながら杖を回転させ、スピカの着地と同時に振り下ろした。
「くっ……」
脳天めがけ振り下ろされた杖は、スピカの頭を簡単に潰せる勢いだ。が、スピカの腹回りに巻き付けられた根が彼女を死地から遠ざけた。
「まだまだっ」
スピカは勢いを弱めれば負けだと直感し、超近距離の戦闘にかけた。右に左に、アリシアを振り回すように剣を走らせる。
「なにを隠そう、ヴァネールに戦闘を教えたのは私なんだよね」
「っ!?」
杖を器用に持ち替え、攻撃を防ぐアリシア。彼女の体勢は全くと言って良いほど、ブレなかった。この状態では、ブレスレットなど到底奪えない。
『さくせんはしっぱいですね』
早々に見切りをつけた精霊は、モカロネに作戦の変更を提案した。
◇
「わかり……ましたっ、では合流します!」
なんとか、セオドアの猛攻を防いだモカロネは、光の矢を何本も発射しセオドアを遠ざける。
「いかせない……!」
テレポートに感づいたセオドアが低い姿勢から弾丸のように飛び出してくるが、精霊が何重にも束ねた根を腕のように振り下ろした。
「チッ」
思わず舌打ちするセオドア。
「テレポート」
モカロネの視界が一瞬で変わり、スピカとアリシアの姿を捕まえる。
「そりゃあそうだよね」
しかし、瞬きのあと遅れてセオドアが召喚された。
「おお、離れても使えるのか」
戸惑うセオドア。
「そうだよ、愛の力でね」
「ちょっと何を言っているかわからないが」
「もう、いけず~」
軽口をたたき合う二人に比べ。
「はあ……っ、はあ……っ」
「モカロネさん大丈夫ですか……?」
「え、ええ…あなたも無事で良かったです」
モカロネはすでに消耗させられていた。
『おもっていたよりずっとなんてきでした』
「なんとかなりますっ!」
握り拳でモカロネを元気付けるスピカに。
「っ……ふふ、そうですね」
聖女は思わず笑ってしまった。そうだ、勝負はまだ始まったばかり。この程度で、へこたれてなどいられない。
『ええ』
四人は、構えを取った。




